14話 明晰夢
夢を見ているとき。ああ、これは夢だ!そう気付くときがある。
この夜もそうだった…。
「***起きて。ねえ。***起きてよ!」
「…んん、うぅうん」
眼を開けると、目の前に顔が有った。
「おわっ」
俺が声を上げると、それが離れた。
おおう、またもや素晴らしく麗しい娘だ。
歳は俺と同じぐらいか。
色が白く、睫が長い、大きく優しい眼。眉は細く薄く整った鼻と唇。
身体は細身だが、胸は白い薄衣をしっかり盛り上げている。
あぁ。
美しいものを見ると、うっとりするってのは本当だ。
それにしても、今世に来てから美人や佳人が多すぎる。
確変?この世界は美人確変ですか?
下らないことを考えていたが、変なことがあることに気が付いてきた。
背にした樹はよく見える。が、少し離れた周りは暈けていて、どうやっても焦点が合わない。
…ああ、夢だ。
これは明晰夢だね。夢だけど少し覚醒してきた。
少女は、にっこりと笑ってこっちを見ている。
「やっと起きてくれたね。待っていたんだよ」
「そうなんだ…」
「うん」
声もややハスキーで好みだ。
それにしても、誰かに似てる。
ああ、母上だ。
若いときの母上か?…いや、もっと似てる人が居る気がする…。
俺じゃないか!
胸があったから無意識に除外してた。
俺の顔のようで、微妙に違う。
そうか!
ユリを始め、使用人達に良い意味で女のようにと言われるが、この少女は、本当に女顔だ。
「そう。私は君なの。アレックスだよ」
やっぱり。
俺が乗っ取ったアレックスだ。どこかに追いやった意識が、夢に現れてるのだ。しかし……。
「…おまえは、なんで女になってる?姿も声も。言葉遣いも」
「私は、本当は女に生まれるはずだったんだ…アレク。君のことはアレクって呼ぶよ」
「何とでも呼んで貰って良いが…女に生まれるはずだった…だと?」
意味が分からん。
「私は、母上のお腹の中に居るときに女だったの、先生に無理矢理男に換えられたの!」
まじで?
「本当なのか?」
「自分に嘘を言わないでしょ!」
まあ、自分に嘘を吐くこともあるが…。
男の方が都合が良いから、造り換えた?
そんなこと可能なのか…。
「私を信じて…」
「信じるさ」
女だったのに、無断で性転換かよ。
先生…!それはあかん。それはあかんよ!先生。
そりゃあ、自分の身体を文字通り弄ばれれば、怒りもする。両親の出会いからして、仕組まれたんだと知っていれば、嫌気も差す。死にたくなっても…分からないでも無いが。
「私のために憤ってくれてありがとう。でも、私は今になって先生に感謝してるよ!」
はあ?
「だって、アレクと一つになれるから」
ちょっ、ちょっと待て。
少女アレックスは、俺に抱きついた。
俺も彼女もいつの間にか裸になっている。流石は夢だねぇ。
まずい、まずい、夢でもまずい。
俺が俺となんて!駄目だぁあ……。うっ。
「アレク様、アレク様…」
「おっ、おおう」
目が覚めた。
ユリだ。
魔法燭台の光で、仄明るく浮かび上がっている。
俺じゃなくて良かった。それにちゃんと服を着ている。
「おはようございます」
「ああ、おはよう…って、まだ暗いな」
「今朝は、日の出と共に出発です。お着替え致しましょう」
着替え?
「ああ」
俺は、まだしっかり覚醒していなかった。
そう、俺はずっとユリに、人形のように着替えさせられている。
ユリは、掛け毛布をはだけ、俺の下穿きを掴んだ。
あっ!
まっ、まずい。
「この香りは……」
気付かれたぁ。
ゆっくりと引き下ろされた。
「あぁ。こんなになさって」
ユリは、困ったような嬉しいような笑みを浮かべた。
すうっと鼻から息を吸い込む。
絶対嗅いでるよね。
「ああ、ユリ。自分でやるから良いよ」
「だめです。私の仕事をなくして、専属から外すおつもりですか?」
「いっ、いや。そんなことはないけど」
ユリは、これまでにない晴れやかな顔をした。
そして、布を取り出し、拭い始めた。
要介護者か、俺。
実際、1ヶ月前はそうだったのだが。
「良かった……」
「なっ、何が?」
「その、アレク様が立派な男性だったなと思って」
「はっ?」
昨日も、一昨日もそこを見たよね。
「あっ、エビータさんの息子さんも、朝よく汚していたって聞いたので」
何の話をしてるんだ、使用人同士で!
「何度もお着替えを手伝って参りましたが、これまで今日のようなことはありませんでしたし」
あっ、そうなの?
「アレク様は男性なのに、とてもお美しくて。私ががんばっても、全然お手を出されないし。もしかしてと思って。心配だったのですが。杞憂でした。んっ、ここの汚れが…良く取れないです、舐めても良いですか、アレク様」
「だっ、駄目だ」
「残念…」
「あっ、あのさあ。ユリ」
「はい」
「寒いので、早く着せてくれると嬉しいのだけど」
「はっ、はい。ただいま」
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