126話 告解
今日の午前中は暇だ。
昨夜はあれからはぐらかされたからな。しっかり先生を事情聴取しないとな。
[な!]
ちっ!
本日未明から何度か話し掛けているが、アレックスから返事が来ない。
もう、相変わらずメンタル弱いなぁ。
ちょっとなんか有ったぐらいで引きこもるなよ。信じていた者に裏切られていた傷は、深いのかも知れんが。
朝食を食べ終わり、明らかに寝足りないと言う顔で、先生が俺の執務室にやって来た。
まあ、昨日寝る前に念を押していたからな。
「ふう。生きてて良かったな」
「は?」
「あの竜人、ゼルバヴォルフとか言う名前だったか。ヤツがその気になれば、なかなかの強さだからな」
「先生より強いんですか?」
予め用意してあった、茶を喫している。
「さぁてな。流石に竜と手合わせしたことはないが、まあ良い勝負だろう。それにしても、ユリの茶は格別だ」
冗談めかしてはいるが、結構危ない状況だったのだろう。
しかし、そこへ俺を連れ出さねばならなかった。理由は?
アイザックを、救いたかった?
なんだか、嫉妬のような感情が湧いてきた。
「本題に行きましょう。竜ってなんなんですか?」
「何だと思う?」
質問返しかよ! ふざけるな!とは思うが、こっちが切れれば、先生は臍を曲げて帰ってしまいかねん。仕方ないな。
「竜とは、全ての生物の頂点に立つ伝説の存在と聞いていますが」
「また王道の答えが来たか。あながち間違ってはおらんが、本質を押さえておらぬ」
「本質?」
「ああ。竜は、我ら超越者の本体と同じ思念体だ!」
「思念体……」
竜と言われた、俺は思念体ではないが……。
「もしかして、アレックスは思念体なのですか?」
「そうだ」
……そういうことか。
「ああ、最後まで言わせよ」
口を開き掛けたら止められた。
「竜は思念体だが、我らと違い都合に合わせて自在に受肉する。その形態は所謂竜相だけではなく、竜人のように人相も取る。竜とはそのようなものだ」
「はあ……」
超越者は、他生物の肉体に憑依するが、竜は肉体を作り出すのか。信じがたい話だが、あの光の状態を見るとな。
「でも、なんでそんな面倒なことを? 受肉しなくても、思念体のままで良いじゃないですか?」
「思念体では、物理現象に干渉するのが困難なのだ。まあ不可能ではないが」
「ふうむ。もしかして、ガーゴイルとかの亜竜と、竜の違いは、そこですか?」
「ああ、亜流は肉体から離れることはできない」
「ところで、俺が竜というのは、本当なんですか?」
「あの竜人が認めたではないか!」
先生は伏し目勝ちのまま答える。
「そうですが……竜が思念体なら、竜は俺ではなくて、アレックスの方ではないのですか?」
「アレク殿も思念体に成るではないか……」
何?
「共鳴した後に……」
「俺が前世に戻るのは……そういうことなのですか」
「そうだ」
むうぅぅ。
「では、俺が竜だとして、曾爺さんから親父さんまで、竜でないと言うのが分からないのですが」
「雄と雌だ!」
「雄、雌? 昨夜もそんなことを……」
先生は口角を吊り上げた。
「どうやら気が付いたようだな」
「もしかして……俺は、雄でもあり、雌でもあるのか?」
──えっ?
アレックスが反応した。
「そういうことだ。竜に性はない。アレク殿が男、アレックスが女。合わされば雄でも雌でもない。そして、伯爵様以前は肉体的にも、霊的にも単なる男だからな」
極低温の怖気が、背筋を駆け上った!
「先生……アレックスを男に換えたのは、まさか……」
その時──
先生は、その麗しい顔を歪めた。
「誤解だ。アレックスを男に換えたわけではない。肉体的に女性を抑え込んだだけだ」
──あっ!
「アレックスが、まだ奥様の腹の中に居た頃の話だ。25週の頃、異常な陣痛があってな。母体を検査したところ胎児が拒否反応を起こし、流産の危険が高まっていることが分かった」
「拒否反応?」
「ああ、アレックスの霊体が女で、肉体が男だったのだ」
──えっ?
「まあ、それは一定の確率で起こることだ」
性同一性障害?
「しかし、問題はアレックスの余りの霊力によって、肉体が男から女に替わり始めたことだ。そして、セシリア殿の母胎が、それを異物と判断してしまったようでな。霊体に干渉して、性変位を少なくとも臨月の出産以降まで抑制しようとしたわけだ」
眉間に皺を寄せ、沈痛な面持ちだ。先生は本当のことを言わないことはあるが、俺に嘘は言わない。
「つまり、竜にする為でも無く、魔法師として大成させる為でも無く……」
「ああ、アレックスを早産で死なさないために、致し方なくだ。本来そうしたサンプルは廃棄すべきなのだか……教え子を悲しませたくなかったからな」
──あれは……あれはそう言う意味なのか
[アレックス。どうした?]
──馬鹿だね、僕は……
[泣いているのか?]
──もう大丈夫……暫く任せるよ
[おい!]
なんだかよく分からんが。とりあえず、俺も胸のつかえが下りた気がする。
「どうした。アレク殿?」
「ああ、いや。話を戻しましょう。俺が霊的に両性具有となったことで、竜になり得たとして」
「いや、両性具有ではない。そなた達も、霊的に共役として別れた意識を持っているだけで、本質は1つなのだ」
「はぁぁ。俺が竜で、親父さん達が竜でないことは腑に落ちました……今後は、竜魔法を使っても?」
「ああ、あの竜人が請け負ったのだ、問題なかろう」
「わかりました。最後に1つ。俺をサーペンタニアに連れて行ったのは、アイザック氏を救うためですか」
ああ、先生がむっとしてる。
「何をどう勘違いしているか知らないが。確かにサーペンタニアへ行ったのは、アリシアに頼まれたと言うのもあるが、アレク殿のことを竜共に知らしめる事で無用な軋轢を生まないようにだなあ……なんだ、アレク殿。嫉妬していたのか?」
「いいえぇ」
「何だ、可愛いところがあるではないか」
「俺が王都に居たままなら、どうするつもりだったんですか?」
「さてな」
先生は妖艶に笑うだけだった。
「アレク殿。あの竜人にあってから、光背が、眩しく大きくなったな」
「はあ……自分ではよく分かりませんが」
「あの老人とも会うのだろう? 何とかしないとな」
ああ、ヴァドー師か。
「確かに。何があったとか言われそうですね。まあ、曾爺さんの記録にそんな欺瞞魔法が有ったので、試してみます」
「そうだな、王都に帰るまでに何とかした方が良いだろう」
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