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124話 取り越し苦労

明けましておめでとうございます。

新年初めの投稿です。

本年もよろしくお願い致します

 少々時系列は遡る。

 セルビエンテの伯爵執務室。


「とは言え、王立科学協会アカデミーには、届け出る必要があるだろう。ダイモス!」

「はっ。恐れ入りますが、御曹司とランゼ様に監修戴き、申請書類を作成するよう手配します」


「了解した」

 先生が答えたので、俺も頷く。


「では、もう良いですかな?」

「ええ、ランゼ殿。ご苦労でした」


「失礼する」

 先生が立ち上がる。

「アレク殿!」

 会議は続くようだし、まだ聞いて置こうと思ったのだが、先生に呼ばれる。


「ああ、アレク殿もご苦労だったな。以降は細々したことだ。退出して良いぞ」

「はっ。では私も失礼します」


 こうして、俺は会議から解放された。

 さて、マルズと色々詰めないとな。


     ◇


「御館様。どうぞ」

 ありがたい。

「ああ。少し喉が渇いていたのだ」

 息子のアレックスとランゼ女史が、執務室を辞していくのと交代で、執事がお茶を運んできた。


 ふう。

 一口喫して息を吐く。

 会議に残った重臣達も一息付いている。


「それにしても……」

 家宰(ダイモス)か。


「んん?」

「いえ、御曹司のことですが……実に楽しみですな」


「ふふん。そうかな」

「御館様も目尻が下がっていらっしゃいますぞ」

「まあな。そなたの息子とて」

「いやあ。ウチのは……どうでもいいです」


 アレックスは、(セシリア)に似て居ると長らく思っていたのだが。最近私に似てきたと思う。まあ、男らしくなったとも言えるが。


「ダイモス。あやつは、領主としてやっていけそうか?」

「……分かりかねます」

 おっ、否定的な反応だ。


「御曹司は……私などが、どうこう言える水準にはいらっしゃいません。最近王都の屋敷で、よくお話しさせて戴くのですが。大体の案件は、最初理解できないところから始まって、恥ずかしい話、懇切丁寧に解説戴き、ようやく半分位理解できるという感じでして」


 ああ、否定的ではないのか。


「ふむ。イヴァンは、どう思う」

「はあ、私は、ダイモス殿程、御曹司と接する機会が多くないので、なんとも。ただ、私が見た中では1番の英才……天才なのかと」


「うーむ。いゃぁ……」

「何だ? ダイモス」

「ああ、いえ。御曹司は、素晴らしく才気煥発な方とは思いますが、天才と言うのは違うかと。何と言うか、一見突飛なことを考え付かれるのですが、よく聞いてみるとしっかりとした理論をお持ちで、理路整然とご説明も戴きますし、よく錬られています。つまり、天才と言うよりは、物凄く執念深い努力家なのではないかと存じます」


「ああ、ダイモス殿に賛成です。練兵場の管理者から、魔法の鍛錬も恐るべき物があると聞いております」


 確かに、アレクの魔法の熟達ぶりには目を見張ることが多いが、異常なほどランゼ殿と鍛錬しているからなあ。

 いずれにしても、アレクをよく知らない者程、その才能を褒めそやすが、あやつの本当に凄いところは、発想の柔軟さだろう。飛行魔法より、空から船を攻めるとは、今まで誰も思いつかなかったことだ。


 無論ランゼ女史の薫陶よろしきを受けて、成長したのだろうが。こと人間を攻めることを、彼女は良しとしない。だからこそ、ヴァドー師を軍事顧問に迎えたのだ。

 つまりは。アレクの独創──


「ああ、悪かった。次の議題に掛かるとしよう」


     ◇ 


 ふう。やっと終わった。

 領主とは、楽しくはない役目だ。


 やりがいはあるし、身の引き締まる思いをすることも多い。しかし、ほとんどの職務は、散文的で根気を摩滅させる事ばかりだ。


 私の不安は、そのような領主を、アレクに押し付けてよいものか? と言うところにあるのかも知れない。


 アレクには、もっと素晴らしく意義深いことを成し遂げる器があるのではないか?

 私は、アレクを縛り付けていないか?

 そう自ら問わずには居られない。


「御館様……御館様……」


 眼を開けると。家令シュナイダーが居た。

 席を占めていた我が重臣達は退出しており、執事が控えているのみだ。


「御館様。お疲れのところ失礼致します」

「ああ、なんだ」

「サッカリー村の灌漑用水の用地買収に向けた調査に費用につきまして、執行のご承認を戴きたく」


 あれか。

 確かにアイディア自体は悪くない。しかし、どうも村長に上手く支出を誘導されている気がするのだが。


「シュナイダー、あの事業は少し気になるのだが」

「こちらをご覧下さい」


 ふむ。調査にいつもの業者と、それとは別に見慣れぬ業者の名がある。

 なるほど。

 よく気の回る男だ。


「分かった。良いだろう」

「はい、少し費用が無駄になるかも知れませんが」

「いや、それは良い」

 事業がうまく行かねば、比べものにならない無駄を出す。


「シュナイダー」

「はい。何でしょう」

「ああ…………」


 謹厳そうな顔を少し綻ばせた。

「御曹司のことでしょうか?」

「分かるか?」


「まあ、長らくお仕えしておりますので……多少は」


「まさにアレクのことだ。領主にするには、その少し尖り過ぎてはいないか?」

 シュナイダーは細い眼を懸命に開けて、私を見る。


「ふぉふぉふぉ……」

「ん? どうした」


「いえ。お赦し下さい。15年前に御先代が同じ事を仰られましたので」

「父上が?」

 つまり、私のことだ。


「はい」

 心がざわめく。


「ほう……それで、なんと答えた?」

「御領主に必要な資質は、民を思う心以上のものはありません。それ以外で欠けているものが、万一ございましたら、我ら家臣が補い申し上げますと」


「……そうか」

 並々ならぬ自信が窺えるな。


「とは言え、あれから15年。私も歳を取りましたので……言葉を足してもよろしいですかな?」

「ん? ああ頼む」


「我らが補うと以前は申しましたが、見方を変えれば絡まるしがらみです」

「うーむ」

「ぐるぐると取り付いて、欠点を埋める存在。しかし、新しき尖りを生み出せるのは御領主様ご自身のみです。ぜひとも我らが埋め尽くせない程尖っていて頂きたいものです」

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訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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