123話 馬力
お読み下さりありがとうございます。2016年最後の投稿です。
次話の投稿は1月4日を予定しています。
良いお年をお迎え下さい。
俺が、故郷のセルビエンテに呼び出されて始まった会議はまだ続く。
「さて、2つ目の議題の前に、お入り戴け」
執事の1人が、頷いて部屋を辞した。それにしても、親父さんが敬語?
そうか、俺の右隣が空席だった。誰が来るんだ?
「お待たせ致しました」
数分後、出て行った執事が戻ってきた。一緒に入ってきた人物は!!
「先生!? どうして」
昨夜、セルビエンテに行くと先生に言ったのだが。その時は、ふーん、ご苦労だなって、全く他人事のように答えていたのに。欺された。
それはともかく。
先生は、確かにわが家の中では高い地位にある。しかし、あくまでも俺の教師という立場だ。
「さあてな。私も伯爵様に呼ばれたのだ」
俺と先生の視線は、親父さんへ向く。
「揃ったようだな。ランゼ殿には、職務外の件で、ご足労頂き感謝する」
職務外なのか。先生は軽く会釈した。
「さて。2つ目の議題は、先日王都から報告のあった件だ。この銀水晶の画像を見てくれ」
むっ!
『今回は、動画で報告致します』
って、俺じゃん! レダに撮らせたヤツだ。
何人かが、動画と俺を見比べた。恥ずかしいから、やめてくれ!
それはともかく。2つめの議題は、この件か。
『魔力導波管の先に付いた魔石をランプで焙ると、このように魔動モータが回ります。よろしいですか? そして、ランプを外すと魔動モータが停まります。さて動作は、ご理解戴けたかと思います。今回の報告内容の肝は、この魔石です。熱を魔力に変換する、魔気熱量効果とでも呼びますか。さて細かい仕組みにつきましては、時間が掛かりますので、いずれ文書で報告致します。以上で報告を終わります』
銀水晶の動画が終わった。
「分からぬ事があれば、直接アレックス殿に訊くと良いだろう」
イヴァンが口を開いた。
「私。魔法は使えませんが、業務で扱うこともありますので、知識だけは収拾しています」
ほう。
「今回の映像は、その中でも非常にわかりやすかったです。詳しいことは置いて、大きな質問が1つあります。まさかと言うか、自分の耳を疑っているのですが。御曹司は、熱を魔力に変換すると仰いましたか?」
親父さんより、少し年上。30歳代後半だ。その男が、額に汗を浮かべながら、恐縮している。
「ああ、そう言った」
「あのう。それって……」
「魔力不可逆則と矛盾すると言いたいのであろう?」
先生がにやっと笑う。
今度は親父さんだ。
「ランゼ殿、いや、魔法の話だ。昔に戻って教官と呼んだ方が良いかな。私も、学院で魔力は人為的に生み出すことは出来ない。そう学んだ憶えがある。騎士課程だが、基礎も基礎だ」
「ふふふ。私は教えていないよな。実技専門だったからな」
そう言えば、他の教官と違うことをばんばん教えるので、座学は早々に外されたと自分で言っていたな。
「つまり、教官も熱を魔力に変換できると仰いますか?」
「できないとは、誰も証明していないぞ。自分の無力さを、大層な名前を付けて自然の不合理と置き換える馬鹿が多い。困ったものだ」
「だが……イヴァンじゃないが……正直目を疑う。いっ、いやあ。アレックス殿を疑うわけではないが、何かの間違いという線もな……」
「いえ、領主ともなれば、当然のことかと」
アレックスには過ぎた親父さんだ。
──なんだって!?
おっと、思いが強くて伝わったようだ。
──もうアレクにとっても父上なんだからね!
[ああ、そうだといいな]
「では、私が証言しよう。魔石の紋章も見た。これは大発見だ!」
おおおぅ。部屋に詰めた男達が唸った。
なんだよ。先生の言うことなら信じるのかよ! 年季には勝てんということか?
「アレク。何か失礼なことを考えただろう!」
無視だ。
「分かりました。この魔法が凄い物だとして、危なくは無いのですか? ランゼ様」
いやいや、まずは俺に訊けよ。
──安全ですって言うに決まってると思ってるね、あれは。
「危ない危なくないで言えば、魔法はおしなべて危ない」
出た! 韜晦。
「それは、ごもっともですが。危険の程度をお聞きしたいのですが」
おっとイヴァンはやられたが、親父さんがフォローした。
「使い方によっては、かなり危ないと言えるだろう。老師が開発に関わっている兵器に転用できれば、世界征服も夢ではない」
「あっ、あれに?」
親父さんは、国防委員だけあって、魔力砲の事を知っているようだ。
「まあ、今のままでは無理だがな。その辺りを説明してはどうか? アレックス殿」
先生に促された。
「熱-魔力変換には、制約がある。端的に言えば、変換の触媒、さっきの場合は魔石の大きさによって、取り出せる時間当たりの魔力量に上限があることだ」
「具体的には?」
「良く出回っている、この程度の魔石……」
おおよそ直径1cm程の物を皆に見せる。
「……これで15kW位だ」
あれ?
なぜか、みんな釈然としない顔だ。
「御曹司、おそらくキロワットと言うのが、何かの単位だとは分かるのですが」
うーむ。訳されないのか、訳されたのが理解できなかったようだ。
駄目だ。
彼らに分かるように説明できる気がしない。家庭用エアコン20台分とか言えないし。
「むぅ……20馬力……大体馬20頭分の出力だな」
言ってて情けない。
「なるほど。馬20頭分ですか」
「そうですね、それなら我々にも分かりますね」
何か知らんが、腑に落ちた顔をしてる。
えっ? それで分かるのかよ…………言った俺に実感がないのに。まあ、いいかあ。
「軍需物資として使用される、大型魔石でも、数千馬力と言うところだな」
おおおうと先生に煽られて響めく。いや絶対分かっていないって。大きめのトラック5、6台ぐらいだな。
うーむ。余り大したことないように感じるが、現存の軍船の駆動くらいなら十分できる。
「なるほど、大きさ3cm以上の魔石は、軍需物資として管理されていますから、ひとまず安心という事ですね?」
うむと頷く。
「わかった」
親父さんが頷いた。
「とは言え、王立科学協会には、届け出る必要があるだろう。ダイモス!」
「はっ。恐れ入りますが、御曹司とランゼ様に監修戴き、申請書類を作成するよう手配します」
◇
ようやく、解放されたと思ったが、まだイベントがあった。夕食前に呼び出された。
成績書類を親父さんとお袋さんに渡す式典だ。
実技である専門科は、学年最優秀だったし。数学もそうだ。
自分では結構満足だったのだが。
「アレックス。病み上がりにしては、よくやりましたと言いたいところですが、語学と歴史は、もっと頑張らないと」
はい?
「母上。それでも平均以上の評価が……」
いや。十分だろ。この世界に来てまだ1年経ってないし。どうも、文学というか、物語の感動するツボがなんかずれてるし。歴史は、憶える動機が……。
「何か言いましたか、アレックス殿。あなたは父上様を継いで辺境伯をとなる身。にもかかわらず平均だから良いとは、何と言う低い志!」
げっ、そう来る!?
「セシリア!」
「はっ、はい」
普段聞かないであろう親父さんの強い語気に、お袋さんは目を白黒させた。
「学科に貴賤はない。よって、どれ1つ疎かにして良いわけではない。だが全てに秀でる必要は無いと私は思っている」
「あなた……」
「見よ、この批評の欄を。理数科目、魔法工学および実技については、学園にて既に教える水準を超えていると書いてある。まずはそれを褒めないとな。それはそれとして、アレックス殿も言葉には気を付けられよ」
「はっ」
「それから、フレイヤは総合評価で学年首席か……」
うんうん、親父さんが頷いて居る。
「おお。よくやったな。フレイヤ!」
「兄上、ありがとうございます。至福です」
思いっきりデレてる。
褒められ耐性がないヤツ。
──違うと思うけど。
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訂正履歴
2025/09/29 表現変え(ゾンビじぃーちゃん ありがとうございます)




