120話 乱戦
基地首脳部の押しかけが終わり、あとは順調に、陸軍学校を見学した。
以前老師の訓示でもあったように、准男爵や士爵の人達の何割かが、ここに進学したり、さらにその上の陸軍魔法科大隊に入隊することもあるので、結構みんなは真剣だ。
逆に俺は、学園の行事だからという軽い気持ちだった。しかし、一通り施設見学を終わり、実技、演武見学で状況は変わった。
陸軍学校では、学園と違って魔法戦闘も他の兵科と混成の対人団体戦が主体だ。魔獣退治のパーティ規模と違い数十人単位で、しかも対戦相手が軍人魔法師だったりする。
魔法師も、ここではローブではなく、軽鎧の武装だから見た目の迫力はある。
基本訓練だからなのだろう、魔法の規模は大きいが殺傷性を抑えているらしく、威力はそれほどでもない。火焔と気弾(ルフトシュレーゲンまあ、ある程度射程が有って、威力が見込める中級以下の魔法は、それぐらいだろしな。
個々の威力より、それを如何にまとめて運用するかの重きを置いている。やはり戦争前提なんだなあと、改めて思う。
的となった煉瓦のトーチカが、最後に束ねた気弾で吹き飛ばして、演武が終了した。学園生から次々と拍手が起こり、練兵場の壁に響き渡った。
その喧噪が、収まるのを待って、陸軍学校の教官が、口を開いた。
「どうだったろうか? 見ての通り、当校では、より戦闘に向いた魔法の使い方を学ぶ。我と思うものは、来年志願して欲しい」
「はい!!!!」
良い返事だな。
「マシス殿。陸軍学校の皆さん。本日は我が園の生徒も、かなり刺激になったと思う。ありがとうございました」
「ありがとうございました!!!!」
俺も、皆と共に礼を言う。
さて終わった帰ろうと思った時、陸軍学校の生徒の1人が手を挙げた。目の端でゼノビア教官が、反応した。
「ハウンド。何だ?」
陸軍学校の教官が、問い質した。
「はい。3年前学園を卒業しました上級課程のヴァラモス・ハウンドです。ゼノビア教官、ご無沙汰しております!」
おお、なかなか男前だ。ガタイも悪くない。
「ああ、憶えている」
「それで、本日来られた学園生に、先日セルーク沖で、大活躍されたアレックス卿がいらっしゃると聞いています」
なんだよ。また俺か……。
「居たらどうする」
「既に大魔法師の呼び声高い、アレックス卿に模擬戦で一手御指南頂きたい!」
「嘘を吐け! 闘いたいだけだろう!」
「教官変わりませんね!」
「お前もな、ハウンド」
何となく在園中から、問題児だったと窺える。
「だめだ! サーペントは、危なすぎる」
おいおい、生徒を危険物扱いするのはどうなんだ?
「あーー、ゼノビアさん。それは、当校の生徒如きでは、歯が立たないと言うことですか?」
「はい」
いや、はいって。
「ゼノビアさん。そこまで言われては、こちらも引っ込みが付きませんな。是非とも対戦頂きたいですね」
おお、穏やかな顔がどこかに消え去り、憤怒相に変わったじゃねえか。
「お断りする。貴校の生徒を負傷させても、責任が取れませんので」
「責任なら、本官が負いましょう!」
なんだか、さっきのハウンドがやや引いてる。
ほう。やはり、優しいだけじゃ陸軍学校の教官は務まらないよな。
「サーペント」
教官がこっちを向いた。
「はい」
「あちらの教官殿が、ああ仰っているが?」
「こちら教官さえ良ければ」
「そう言うと思った」
ふーと、ゼノビア教官は息を吐き、何度か小さく頷いた。
おお。対人戦闘は久しぶりだな。
学園では禁止だし。メドベゼ先輩以降、誰も突っかかってこないし。まあ、セルーク沖の戦いも、対人と言えばそうだが、距離が有ったからな。
「では! ハウンド、前へ。アレックス卿も」
練兵場の真ん中に促される。
俺は手で、少々待てと答え、レダに歩み寄るとローブを脱いだ。それを渡しながら……。
「カレンとエマを抑えろ。手を出させるな」
「畏まりました」
そこから離れ、中央に寄る。
「アレックス卿、防具は?」
「身軽な方が、好みで」
「承知! では、双方致死となる攻撃は、決してしないこと。それでは…………始め!」
ザッ!
ハウンドは,いきなり横にダッシュした。
速! 身体強化魔法で、残像ができる程の加速。
むっ! ノータイムで気弾が飛んで来る。しかも、2、3,4射と続けざまだ。
─† 光彩壁 †─
肘から先の両前腕に、鮮やかなスペクトルが煌めき、揮う度に圧縮空気弾を遮る。
それにしても、この先輩は、なかなかやる。
軽い魔法ながら、手数と高速かつトリッキーな動きで勝負する俊敏型か。
しかし──
─ 気弾─ ─ 気弾 ─ ─ 気弾 ─ !!!!!!!
グワッ!!!!!!
わざと射線をばらつかせた8連射の気弾を受け、ハウンドが吹き飛んだ。数m先に落ちて転がり、壁にぶつかって止まる。
──敵では無かったか。
おっと!
多くの方向から、火炎弾が飛来した。少し驚いたが、想定の範囲だ。だが、先に手を出したのは、自分たちだと明記して貰おうか!
殺到する火球を、強化した脚力を駆使して回避! そのまま身体を捻りながら、機関銃のように気弾を撃ちまくる。
あと……6!
密集方陣準備!
そう聞こえた……ふふふ……はっははは、襲ってくるのは魔法師だけでは無いらしい。
重装歩兵が、四角く隊列を組み始めた。
いいぞ、いいぞ!
懸念が残る方へ──聴覚増強!
5!
「……カレン、助けに行かなくて良いのかしら?」
聞こえてきた──。
「なぜですか? エマさん」
「未来の旦那様がピンチですわよ!」
4!
眼は目まぐるしく回る景色と魔法師達を捉え、耳はカレン達を。口はカウントダウンだ。
「そうやって、嗾けても無駄ですわ。この程度の人数、アレク様にとってどうということはありません。それにもう、4人しか残っていませんわ」
オイオイ、買い被られたものだな。
「チッ! 流石に引っ掛からないか。 ああ、アレク様が笑い出した……ヤバいね」
「確かに。あの表情、楽しんでらっしゃいますわね。お気の毒ですこと」
3! 2!
「ああ、次は戦士達が準備してる!」
「止めておけば良いのに」
どうやら2人は手は出す気はないようだ。
聴覚増強オフ!
ラスト!
最後の魔法師を失神させると、両足を地に着けた。
密集方陣が、行進して来る。
100人余りが構える長さ4m超の穂先を俺に向けた槍衾が迫る。
ふふふ……さあ、楽しい蹂躙の始まりだ! 無意識な口角の吊り上がりを認識した。これがエマの言っていた笑顔か。
縮地を使って急加速。
鈍く光る槍の穂先が、はや目前!
脚力最大!!
槍が届かぬ高さに跳躍した俺を突かんと、驚きながら身構える重装槍兵達。
甘い。
─ 爆焔 ─
最弱に絞った爆炎魔法だが、着弾周辺の歩兵が盛大に吹っ飛んだ! そして、まだ熱が残る、爆心に俺は降り立つ。
─† 御劔 †─
両の腕が黄金光に包まれる
「ひっ、光の剣!!!」
まずは声を上げた兵をぶっ叩く。
安心しろ。周波数を下げて、鈍器にしてある。斬りはしない!
間合いの遥か手前に入られた槍使いほど脆い者はない。
俺は、ジグザグに駆け抜けながら、両手剣で殴りまくる。
完全武装といえども、衝撃までは殺せない。
はっははは……楽しい、楽しいぞ! 時代劇の殺陣のようだ。無論示し合わせてなど無いが。
調子に乗って倒し過ぎた。50人程残して間隔が空いた。
しかし、問題は無い、再び肉薄すれば良いだけのこと……。どっちに突っ込むか。
御劔の魔力を増強し、刃渡りを倍増させる。
右、左と睥睨──
「それまで!」
何だと?
背後から声が掛かった。陸軍学校の教官だ。
「教官、我々はまだ……」
「1人にここまでやられておいて、何を言うか! それにどれだけ、アレックス卿が手加減してくれたのか分からないのか? この後、全員武装のまま、練兵場20周! 返事は!?」
「はい!!!」
「よし。まず余裕の有る魔法師は、倒れた者の回復してやれ」
「教官殿!」
「済まぬ、アレックス卿」
「これ以上、倒されては、介抱する者が居なくなるのでな」
「分かりました」
俺は御劔を納めた。
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