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115話 海軍工廠

 昼食を摂っていると、食堂にゲッツがやってきた。


「ご苦労!」

「はい。商会番頭のダンテ殿と、条件の確認が済みました。やはり、当方の配分が売上の3%と言うのが信じられない程低いと言っておりました」


「それでいい。我々は、別途事業税を取っているのだからな」

「それとこれとは……」


 税と許諾料ロイヤリティは違う。論理的にはそうだ。が、納める先が同じだからなあ。


 俺が、3%と決めようとした時に、ゲッツは反対したのだ、安すぎると。この世界の常識は10%だと譲らなかったが。俺は暴利だと思う。原材料費が、販売価格の30%程度を占めるような商品だからな。


「で、感触は?」

「こちらが提示した条件で、契約を結びたいと言ってくるかと」

「ならばよし。良くやってくれた、ゲッツ」

「はあ……」

 褒めたのに表情が冴えない。こんな案件なら、誰でもまとめられると思っている感じか。


「それから、こちらが届いておりました。トーマス煉瓦製作所からです」

「危険物の可能性もありますので、中を検めました」

 

「真っ黒だな」


 おっ、びっくりした。先生だ。


「ほう。あれがこうなったとはな……」


 そう。亜空間・壺中天ユニベールの中で分離精製したマグネシウムから作った。酸化マグネシウム、つまりはマグネシアだけなら白いが、黒鉛グラファイトを混ぜた材料で作った煉瓦なので真っ黒だ。


「悪くないな」

 先生は、にぃっと口角を吊り上げると、そのままスタスタと食堂を出て行った。

 流石だ。瞬時に鑑定して理解したようだ。


 俺も鑑定魔法を発動して視てみる。

 ──確かに、欠陥もなくきっちり焼成されている。


「そして、こちらの書状が添えられていました」

「ふむ」


 時候の挨拶から始まり、圧力、温度を様々試し、条件の適正化を完了したとある。

 2枚目には、打検検査、耐熱温度、耐薬品試験結果まで書いてある。

 凄い。

 やるなあ。トーマスさん。学究肌というか、20世紀以降の業者ぽい。本場へ留学しただけのことはある、いやそれ以上だろう。感心した。


 3枚目。

 お陰で良い経験を積むことが出来ました。次の機会があれば是非よろしくお願い致します。


 追伸

 試験品の条件で注文数分増産し、既にカッシウス精鋼研究所に送付しました……だと! おい!


 うーーむ。相当の自信家でもあるようだな、トーマスさん。

 まあいいか、凄く良い出来だし。結果的には日程を短縮したしな。


「ゲッツ! トーマスさんに、後金を支払って置いてくれ」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 次の週明けの平日。

 俺とレダは、転送門を使って海辺の街ゼルクスに来た。

 外に出ると、物々しい警備兵が多く歩哨を務めている。幾重もの金格子の向こうに港が見えた。ここは軍港なのだ。

 この町は、貴族と雖も普通には転送門では来られない。軍部の許可が必要だ。俺は国防評議員のため、従者と含めてフリーパスだが。

 軍港出ると、軍人相手の歓楽街だろう、ちょっとした町だ。辻馬車を拾って、走り始める。

 目的地は、海軍工廠。港の湾に注ぐ川の向こう岸にある。


 工廠の門衛に名乗ると、若い女性が迎えに来た。大きな建屋に入り、応接室へ通された。

 待つこと3分。

 30歳代ぐらいに見える男が入ってきた。相手にしては若い。

 ダレクス主任技師……ほぼ無意識に感知してしまう。


「申し訳ありません。技監……モーリス技監は、ただいま手が空きませんので、小官が……」


「きちんと面談の申し入れをし、そちらの了承も得ているはずですが?」

 間髪入れず、レダが無表情で突っ込む。

「はっ、はあ……」


 評議員とは言え、ぽっと出の若造が面会を命じてきたのだから、気に入らないのも無理はない。


「それで?」

 レダが、少し引っ込む。

「はっ、はい。小官が、廠内をご案内します」

「では、よろしくお願いする」


 事務棟から200m以上歩き、天井の高い煉瓦造りの建屋に入る。

 広い室内に、小型船や船の一部がいくつも置かれ、作業服姿の職員が10人程実験をしているようだ。


「ここでは、軍船の性能向上に向けて、様々な研究と開発を進めています」

「研究員の数はどの程度ですか?」

「50人余りです。ここには実験班の領分で、別の建屋に設計班が居ます。ああ片付かなくて申し訳ありません。足下にお気を付け下さい」


 骨組みがむき出しのままの木造船の間を通り抜け、小さな水路の前に来た。若い研究者が2人居て、粘土を捏ねながら、全長2m、幅30cm程度模型に手を加えているようだ。


「ここは、船が極力少ない風で速力を上げられるように、舳先へさきの形を改良しています」


 2人の研究者は、こちらを認めると立ち上がって前に立った。まるで自らの身体で後の物を遮るように。そして会釈した。


「造波抵抗低減ですか……」

 俺がぼそっと呟いたのを、若い方の研究員サザーランドが聞き咎めたようだ。


「主任。こちらは?」

「国防評議員のアレックス・サーペント卿であらせられる」


「しっ、失礼致しました。セルーク沖海戦の……」

「いかにも。ああ、その形造りうまく行っていますか?」


 サザーランドは、ダレクスの方を向き頷いたのを確認……。

「正直言って、うまく行っているとは言えません」


 一瞬見た限りでは、普通に尖った舳先で、滑らかに船底に繋ごうとしているようだった。


「ああ、突然で申し訳ないが、少しやらせて貰っても良いかな?」

「アレク様?」

 レダは、一瞬止めに掛かったが、思い留まったようだ。


「やらせて貰うとは、どういう意味でしょうか?」

「ああ、土いじりが好きでね」


 答えつつ、魔収納から粘土を1リットルばかり出庫。


─ 天工夢幻アフセンディア ─ ─ 牢固アレイスト ─



 立方体だった粘土が、形を変え、そして硬化した。

 ほぉうと、複数の感嘆が洩れる。

 手に乗ったので形を見てみる。直径5cmの半球から、伸びて広がる弧の断面。俺の意図通りにできている。


 何だか最近、土属性の工芸魔法が予想以上に上手くなってきたよな。

──僕が制御していることをお忘れなく!

 そうだな。アレックス。


「魔法! こんなことが……いや、こんなこともか」

「すっ、凄いですね。アレックス卿! とても便利そうで羨ましいです」


「素人の手慰みで申し訳ないが、これを試してみてくれないか」

 サザーランドに渡す。


「これを?」

「舳先の吃水下に、その半球が前になるよう取り付けて、試してみて欲しい」


「この凹みを、今の模型の舳先に合わせるのですか?」

「目測だが、ぴったりの形になっているはず」


「しかし、このような形が良いはずが……」

「いや!」

 もう1人の研究員が止めた。

「ローソン先輩」

「この目で、見せて貰って思い出したが、衝角ラム付きの軍船の造波抵抗が、意外と良かった言う話を聞いたことがある。素人でも何でも、可能性があれば試すべきだ! ああ、失礼致しました。アレックス卿」


 衝角とは舳先の吃水下、つまり水中に鋭利な角を取り付け、体当たりを噛ませて敵船を沈める装備だ。紀元前の兵器だが、この世界にもあるようだ。


「実験はどのぐらい時間が掛かるか?」

「1時間もあれば……」

「では。良い結果が出たら教えてくれ」

「はっ!」


 その後、30分程、工廠実験棟内を見学して事務棟に戻った

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