106話 幼女と一緒
「朝です。お目覚め下さい……アレク様」
うっ、ううむ。
ユリの声にうっすら眼を開く。
ふぁぁああ。
「おはよう。ユリ!」
いつものように暖かく微笑んでいる。
「おはようございます……お疲れのご様子、回復を致しましょう」
「ああ、いや。良い……問題ない」
うーむ。腰がだるい。
俺も、身体的には、あと十日余りで17歳だし、まあ精力面では問題はない。4時間程寝たが、寝足りない。
とは言え、その疲労の理由が、ユリではないランゼ先生との同衾だったので、素直に頼めなかった。
「それでは、お着替えを」
◇
食堂に入ると、先生が居た。
「アレク殿、遅い。弛んでるぞ!」
誰のせいだ! 誰の!
「弛んでるぅ……うまうま」
何時も俺を見付けると、すぐまとわりついて来るロキシーも、食事時は別だ。
隣に居る先生が、ロキシーの口の周りについたソースを甲斐甲斐しく拭ってやっている。
「こうやって見ると母娘のようですね」
まあ、子供の方は10歳児位の体格になっているので、やや奇異な感じだが。
「先生は、お母さん?」
ロキシーは、フォークを降ろしキョトンとしている。
「お前の母は、もう居ないぞ。私はお姉さんだ」
「お姉ちゃんは一杯居るの。ユリでしょ、ゾフィでしょ……」
「いいから、食べなさい」
「あい」
それにしても、身体の成長はかなり緩やかになったが、髪の伸びが早いな。つい1ヶ月後は、顎のラインだったが、今では肩より下に達している。
やはり人相と獣相を、行ったり来たりしているからか?
◇
「ねえ。ここは、どこ? アレク」
「ここはなあ。壺中天だ」
「コチュウテン?」
「壺の中の世界って言う意味で、小宇宙的空間……なんて言っても分からないよな」
汚れのない目で見られる。
「ロキシーの遊び場とは違う場所だぞ。似てるけど」
「全然似てない。草無い。獲物居ない」
「そうだな。大人しくしてたら、抱き付いてて良いぞ」
「うん。おとなしくしてる」
懐かれたものだな、俺。
さて、作るか。
作ろうとしているのは、ゴーレムだ。ただし、腕も無ければ脚もない。
ざっくり言えば、この前作った魔動モータに簡単な人工知能が付いた物だ。動力だから手足は不要、人工知能も本来要らないが、使う方が制御できないから仕方ない。無駄な物を付けると手間だし、ランニングコストも余計に掛かる。
この前作ったモータと基本構成は同じだ。ただ寸法は違う。トルクは要るが、回転数は要らないので、直径を3倍大きく、軸寸法は同じ位。おおよそ出力は10倍となる。
俺が淡々と造っているのを、じぃっとロキシーは見ている。最初俺に抱き付いていたが、今ではスラックスを掴んでるだけになった。
「ロキシー。面白いのか?」
「うん。凄い、面白い!」
余り返事は期待していなかったが……。
「へえ。どこが面白い?」
「うん。キラキラ……光って、形が変わっていくの。お料理みたい」
はぁ?
なんで料理?
「ロキシー。これは、食べられないぞ」
「知ってる!」
知ってるのか。そう言えば、ユリが料理を作っているときに、ロキシーがじぃとよく見ているそうだ。食い意地が張っているだけだと思っていたが違うかもな。
「ふーーん。じゃあ、見てて良いぞ」
「うん、見てる」
よし、モータのメカ部分はできた。あとは制御だ。
水晶球を魔収納から取り出し、光に透かしてみる。直径約8cm。透明で欠陥がない。
「キレイ!」
ん?
「綺麗な物が好きなのか?」
「うん」
ふーむ。
「じゃあ。これは、ロキシーにあげよう」
「あい?」
「ほらっ。ロキシーの物だ」
彼女に手渡す。
「ロキシーの?! んーー。だけど、大事じゃないの?」
おおう。おどろいた! 気が使えるじゃないか。
まあ、眼は手にした物に釘付けだ! わかりやすいなあ。欲しいって顔に書いてある。
「大丈夫だ、もう1個ある」
水晶玉は、そこそこ希少だが、それなりに手に入る物だ。
「お揃いだね」
「ああ」
「あり……ありがとうございます」
おお。よく言えたな。こう見えて、生後半年だからなあ。
頭を撫でてやると、くすぐったそうにした。
「今度、それに良い呪文を刻んでやろう……って、どこに行くんだ?」
俺から離れると駆けだした。
「ユリに見せてくるぅ」
止める間もなく、迷わず境界面から出て行った。良く場所がわかるなぁ。
──嬉しそうだったね
[そうだな。そう言えば、ロキシーが居るときは何で話しかけてこないんだ?」
──あの子は、フレイヤ並に鋭いからね。アレクが2人居るとか言いそうだし
[確かにな]
──じゃあ、定型部分は私が!
[改変部分は俺が!]
──ズゥワレン・トゥーク ドゥワレン・トゥーク …… ディグ ……
ズゥワレン・トゥーク ドゥワレン・トゥーク …… ディグ ……
──神工の術持て刻め! 古の御名 † 聖刻 †
神工の術持て刻め! 古の御名 † 聖刻 †
共鳴魔法を発動!
冷え切った脳裏が紡ぐ聖句が、指先から迸る電弧で水晶球に刻まれていく。
共鳴の副作用、時空転移が壺中天では起きない。
──後は任した!
ああ──
電弧が消え失せると、刻印魔法は完遂していた。
水晶球は何も変化が見られないが、指先でくるっと捻ると、白く像が浮かんだ。特定の角度範囲からでなければ見えない像だ。
その角度のまま、魔動モータに埋め込んだ。覆いを被せて……完成だ!
動力源となる魔石を差し込む。
「反時計回(CCW)り、3000回転で起動!」
シュ、シュ、シュルルルルルル……。
俺が音声で命じた通り、滑らかに動く。
「停止!」
魔収納から、2mもの長さがある天秤を出庫し、止まった出力軸にが時計が9時を指すように嵌める。
「時計回りに90度回転!」
果たして。すっと天秤が持ち上がり、真上を指した。位置制御も可能な所謂サーボ機能が確認できた。ゴーレムの機能がまともに動くと判断して、作業を終えた。
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