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105話 工芸三昧

「これが塩の絞りかすか?」

苦汁にがりと言います。先生」


 最近憶えた、亜空間魔法の初歩、壷中天ユニヴェールを発動して作った、とにかく白くてだだっ広い空間に、俺と先生が居る。

 先生は、ふーんと肯いたが、あまり釈然としていない顔だ。


「それで? こいつで、何をするつもりだ?」

 こいつとは、俺達の目の前に浮かぶ、僅かに茶色く染まった白い粉体、おおよそ60トンだ。

 レダの眼を通して遠隔監視していた先生は、館に戻って早々、根掘り葉掘り訊いてきたので、じゃあ立ち会います? と言ったのが運の尽きで、ここまで付いて来られてしまったわけだ。


「欲しい成分を取り出します。マグネシウムですが」


「マグネシウム……ああ! 暖めると光って燃えるヤツな」

 そう、粉体を燃やすと閃光を放つので、前世では昔、カメラのストロボに使われていたそうだ。


「はい。正確には酸化マグネシウムですが」


 先生は、宙に浮かぶ苦汁を数秒眺めた。

「確かに、マグネシウムが含まれているな。塩素や硫酸と化合しているが」

「火属性魔法で溶解し、土属性魔法を使って分離レゾルブして、その後で酸化させます」

「その先を言わぬところを見ると、何に使うかは内緒ということだな」


「できてから、分かった方が楽しいと思いますが」

「ふん。まあいい。私は、アレクが溶解と分離をするところを、見守れば良いんだな」


 いや頼んでないけど。

 とは言え、これからやるのは、原初魔法をアレンジしたもの、しかも無詠唱でいくつも並行で発動するのでリスクが結構あるかもな。


「ええ。失敗して死にそうになったら助けて下さい」


 先生は、嬉しそうに笑った。

「そうだな。この貸しは身体で払って貰うとするか」

 ああ、そう来ますか。


「今晩が良いなあ……」

「分かりました」

 はあ。後でユリに言っておこう。


「では行きます!」


 ─† 眞空障壁レーレリフレク † ─

 

 まずは、苦汁全体を真空の壁で、外部への熱伝導を遮蔽した。


 ─† 亢熾煌オートカロール †─


 分子振動によって、加熱していく。自己発熱するので効率が良い。熱が籠もるので、あっという間に温度が上がり、赤熱していく。


 暑っ!

「あちち、あちっ、あちぃー」

 むっちゃ、前が熱くなってる。ヤバイことになってる。


「おい!」

 と言う声と共に体感気温が下がった。

 ふうぅ。

 先生が魔法で何とかしてくれたようだ。


「お前は、輻射を知らぬのか」

「いや、知ってますが。ここまで熱くなるとは」

「とにかく、貸し3回追加だな」

「へいへい」

「嫌なら、魔法を止めるが」


「喜んで! ……できれば分割で……」

「それより集中しろ!」

 脱線させたのは先生だよな。どうでも良いことが一瞬過ぎったが、振り払う。


 赤外線だけなく、可視光まで遮られたので、肉眼ではなく、上級感知魔法で見ていく。

 どんどん温度が上昇していく。700℃を超えて塩化マグネシウムが溶け、1100℃を超えて硫酸マグネシウムも溶解した。


 今だ!


 ─† 万物分離オムニレゾルブ †─


 塩素ガス、硫酸ガス、カルシウム……に分かれた物質を魔収納に入れる。真空空間に、マグネシウムのみを残した。


 ─† 光輝発散ダイバージェン †─


 可視光を亜空間に放って急速冷却、600℃まで下げる。

そして、予め水から万物分離で作ってあった酸素ガスを出庫した瞬間、煆焼を始めた。感知魔法をもってしても真っ白くしか見えない。一気に温度が上がったので、再度光輝発散を発動して室温に戻した。


 よし、できた!

 全ての魔法障壁を外すと、真っ白い球体が見えた! 酸化マグネシウム。通称マグネシアだ。


 おっと!

 重力も作用するようになって、球体が落下。床でバウンドして少し転がった。


 しかし、疲れた。

 いくら俺の複素魔法インピーダンスが小さいと言っても、原初魔法を連続並行発動するには、多くの魔力が消費されたはず……調べるか。そう言えば最近見ていなかったなあ。ステータスを開いた。


「げっ!」


 何だこの魔力! 上限値が10万超えてる。我ながら何とも。


「どうした? アレク!」

「いやあ、久しぶりにステータス見たら、魔力が……」

「ああ、最早ちょっとした人外だな」


 人外とは心外な! 語感は似てるが。

 あと、ざっと見ただけだが、称号も増えてるし。


「はあ、じゃあ、昼食を摂ったら、また出掛けますので」

「ああ、早く帰ってくるのだぞ」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ややアクシデントがあったものの材料調達と処理が、午前中に終わったので、加工を頼みに外出だ。


 行き先は、セルビエンテの城外ではあるが5km程の距離なので、馬で行くことにした。お供はゲッツにゾフィだ。ロキシーが付いていきたいとごねたが、ユリが窘めて留守番となった。


「こちらです……おお、社長が待ってくれてます」

 先導している、ゲッツが振り返ってそう言った。


 トーマス煉瓦製造所と古びた、木製看板が掛かっている。

 敷地を区切る塀も建物も、もくもくと煙を吐き出す煙突も、皆煉瓦造りだ。

 我々はここで下馬し、番をするというゾフィに手綱を委ねた。


 がっしりとした身体の男はが近寄ってきて、片膝を着いて礼をした。


「ようこそお出で下さいました、子爵様。マルズ(ゲッツ)様。私は、こちらの社長のトーマスです」

 寄ってみると、30才代だろうか、大柄で中年のドワーフだ。


「突然押しかけて済まないな」

「ああ、いえ。マルズ様からもお伝え頂いておりましたし、先程、お城の警護隊の方が見えられまして。とにかく、このような場所ではなんです。中へお入り下さい」


 ゲッツもなかなか顔が利くようだ。

 いずれ行きたいとは言っては居たが、今日ここに来たいと伝えたのは、ほんの2時間前なのに。それにしてはしっかり手配していて、気も効く。


「ああいや。悪いが、まず煉瓦を作る作業場を見せて欲しいと、主人は申している」

「承知しました」


 貴族の坊ちゃんが物好きな! そう思っているんだろうなあ、トーマスは。

 赤茶けた鉄分の多い土が、敷地を覆っている。そこを歩いて、別の建屋に向かう。中に入ると、結構広い土間の作業場になっていた。水を撒いているようだが、総じて誇りぽい。


 大勢の人間が働いている。何人かが俺達の方を見たが、すっと視線を外して、作業に戻る。

「子爵様。工程を説明します。ここでは、整形まで行います。

 採ってきた粘土と、あの臼で別の岩を砕きまして。

 その大きな盥で多少の水と共に混ぜ、その右隣で練り上げます。

 最後に多く積み上がっている型に詰め、あの板にひっくり返して外し、並べます」


 ふーむ。なるほど。

 混練の部分に8人従事している。

 あそこを機械化……そこまで行かなくても、ゴーレムを導入すれば、もっと生産性が上がるだろうなあ。


「この後は、天日で3日ばかり干して、別の建屋の窯で焼きます」

 

「今作っているのは、建材用か?」

「はい」

「あの粘土と岩は、どこから採ってくるのか?」


「はい……粘土は近くの丘から、岩の方は、ここから2kmばかり、北にある山から採ってきます」

「ふむ。他の材料は使ったことがあるか?」

 トーマスは、少し考えた風だ。


「はあ、もう10年前になりますかな。それまでは耐火煉瓦も作っておりました」

 それは良い。


「ああ、アレク様。このトーマス殿は3代目で、こう見えてアトラシアの王都に留学した経験もあるそうです」

「こちらとは親しくさせて貰っているのか? ゲッツ」

「ええ、先代と父が同郷で。その縁で」


 なるほど。


「ところでトーマス殿。主人は、新しい素材で煉瓦を作って貰うことを所望している」

「それはまた……どんな素材でしょうか?」


 おお食いついてきた。トーマスは、見るからに職人。ゲッツの言葉に大いに興味を示したようだ。


「今日は、素材を持ってきた。引き受ける気が有るなら見てくれないか」

「はい。そのようなお引き合いは、職人冥利に尽きます。是非お見せ下さい」


 俺は、用意された金盥の上に、マグネシアと黒鉛を混ぜた物を10kg分出庫した。

 トーマスは一瞬その状況に眼を瞠ったが、視線は盥に釘付けとなった。こんもりと粉末が小さい山となっている。


「これは?」

「マグネシアという、酸化した金属に炭素が混ざった物だ」

「ほう。私の師匠が、煉瓦をマグネシアで作ってみたいと申していましたが、なかなか手に入りづらい素材と言ってましたが」

「ほう、そうなのか」


「でも色が白のはずなのに、これは黒い……ああ、炭素が入っているからか」


 トーマスは、その山に指を突っ込んだ。ちりちりと指先で感触を確かめている。

「子爵様。この材料で、私に作らせたいのは、炉壁材ですか?」

 おお!

 その言葉で、ゲッツがこちらを向いた。


「その通りだ」

「では、なるべく成形時の水分量を少なくして、成形圧力を高める必要があります。ああ、これは以前作った耐火煉瓦の経験で分かっています」

 そうなのか。そこまでは、あの本に書いては居なかったが……。

 それはともかく、遠回しにできないと言っているような?


「トーマス殿。現状足らない物があるのか?」

「はい。それは……」


 その後、足らない物を、俺が何とかする約束し、新しい煉瓦を作って貰うことになった。


──────────────────────────────

   アレックス・サーペント


・基本

   人間ヒューマン:男性16歳

   位階 : 貴族(子爵)

   婚姻 : 未婚


・状態

   クラス: 魔法師 レベル51

   生命力:  4200/  4200[-]

   体力 :   510/  1010[-]

   魔力 : 65750/101650[-]

   素早さ:   510/   510[-]

   精神 :  9880/  9880[-]

   異常 :    なし

           ・

           ・

           ・

・スキル

   剣技:LV 35   槍技:LV 16   弓技:LV 30

   乗馬:LV 31   回避:LV 68   索敵:LV199

           ・

           ・

           ・


   火炎   / 炎弾    / 焔陣  ─ 熾焔陣

   火焔   / 爆焔    / 恩寵

   光輝   / 光輝発散  

 

   烈風   / 気弾    ─ 潰榴弾 / 旋風  

   風壁   / 眞空障壁

   天駈   / 拡声

   水流   / 水礫    / 水斬  / 豪波

   雷襲   / 鉤爪紫電

   氷礫散  / 尖氷錐   / 滅劫

   土槍   / 土銛    / 版築  / 長城版築

   牢固   / 万物分離

   縮地   / 禹歩 

   地蜘蛛  / 地蜘蛛 改   

   貪婪闇珠


   旋回   / 亢熾煌 

   獣懐柔  / 獣操縦

   身体強化 / 強力

   身体活性

   回復   / 強壮    / 謳歌

   解毒   / 治癒


   詠唱短縮 / 無詠唱   / 瞬間発動 / 並行励起

   魔鑑定(上級)

   魔感応(上級感知、静的感知、索敵、威圧、上級阻害)

   魔収納(極大、高遮断、促成)      / 壺中天(中級)

   結界 (不識、上級迷彩、詐容、避圏)


・ユニークスキル

   獣懐柔  / 獣操縦

   金剛   / 鉄壁

   共鳴


・称号

 聖者の曾孫

 竜族の天敵ドラグエネミ

 討竜魔法師ドラグベイン

 亜神狩人デミゴッドハンター


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訂正履歴

2016/11/16 色が違うのにトーマスが即座に理解できるのは不自然なので言い訳を追加。

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