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104話 塩田と再会

 ゲッツことゴトフリートが、俺に仕えだして数日後。

 俺は彼の伝手がある、パルムト村にある塩田に来ていた。この村は、セルビエンテから見て西方向の海岸線にある。馬車だと3時間程の行程だ。


 だが、俺とレダは、飛行魔法を使い15分程で着いた。

 ぎゅっと抱きつかないと落ちるぞ! そう嘘を吐いたところ、レダは真に受けたので、なかなか幸せなひとときだった。

 地上に降りると、レダは少し紅潮しながら俺から離れた。


 おっ!

 空から見付けた物に歩き掛けると、3歩目で止められる。

「アレク様、どちらへ。事務所はこちらですよ」

「ああ、そうだな」


 俺は、後ろ髪を引かれるような気持ちになったが、レダに随って事務所と思しき建物に入る。


「誰かある! アレックス卿が到着されたぞ!」

 レダが、カウンターの前で叫ぶ。

 無論。今日ここへ来ることは伝えてあるのが、受付には誰も居ない。

 

 ガタ、ダダーン。

 何かが倒れるような物音共に、痛ったぁーと、奥の部屋から聞こえてくる。若い女の声だ。


「あいたた……ああ、今立て込んでいて、ここの皆さんは堤の方へ……あぁぁー!」

「エマ様!」


 奥から出てきたのは、学園の同級生でアレックス親衛隊隊長、エマ・レイミアスだった。


「へっ? レダちゃんに、アレク様まで! なんで? どうして?」

 これはこっちのセリフだ。


「エマ様こそ、なんでこのような場所へ?」

「なんだ、私を訪ねてきたわけじゃないのか……」

「違います」


 エマは、カウンターから出てくると、俺に寄ってきた。

「アレク様。1ヶ月も会えなくて淋しかったです」

「ああ、久しぶりだな。エマ」


 差し出された手を握る。


「この度は御戦勝おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」


「初めて聞いたときは、びっくりしたけど、全然不思議じゃなかった。やっと皆、アレク様の凄さを理解したかと、胸のすく思いでした。ただ、我らのアレク様が、今やルーデシアの英雄になっちゃって、もうどうしようかと」

「ははっ。別に英雄なんかじゃない」


「ああ、謙遜しなくても……王都に居るとばかり思っていましたが、ご実家に戻ってたんですね」

「ああ、王都では外にも出られない状態でなあ」

「ああ、なるほど、そうですよね。それはともかく、沢山縁談が寄せられていると言うことですが」

 ギクッ!


「……ああ、まあな」

「どうなんですか! どうされるんですか?」

 詰め寄られると、レダが間に割り込んでくれた。

「エマ様。お気持ちは痛い程わかりますが、アレク様はお仕事で来られています。その手の話は、また学園ででも」


 痛い程?


「あっ、ごめんね。私としたことが、ちょっと取り乱しちゃった。ふぅぅうう。私も一人っ子じゃなかったらなあ…………じゃ、皆さんのところに案内しましょう」


 事務所の建物を出て、白っぽい地面の上を歩く。


 そして、ちょっとした築山を登っていくと、ちょろちょろと、水が流れ下る音が聞こえる。


 標高数mを登り切ると崖になっていて、大きく海が広がる。

 そこに、6体程のゴーレムと大勢の人が、集まっていた。

 視線を右に転ずると、櫓があって、その下に小さい溜め池があった。綺麗に掃除してある。


「あっ、動き出したようね。よかった!」

 レダは、そう口にすると、うんうんと頷いて居る。


「エマは、ゴーレムの修理にでも来たのか?」

「うーん。鋭い!もうバレているから言うけど。レイムズ商会。まあ家の名前と変えてあるから知らない人も多いけど。セルビエンテにも事務所があるし、この伯爵領というかセルレアンにもいくつか拠点があるんだよ」


「ああ、知ってる」

 レイムズ商会は、ゴーレムを産業に使う商売を進めている。アンに調べさせて分かったことだ。

「だよね」

 少し悲しそうな顔をした。


「ところでエマ。塩田の責任者を呼んでくれるか」

「分かったわ! ビアンカァァアア。ゲイルさんとここに来てー」


 エマの声に、20m程先の女性が振り返り、手を振った。


「ビアンカも来ているのか」

「ええぇ。ちょっと、夏休みだから実家でうだうだしてたら、職人達が出払っていて、お前ら行ってこいってことになって」


「製鉄のリプケン社に行っているとかか」

 エマは、多く目を見開き、口が半開きになった。


「なっ、なんで知ってるの? アレク様」

「いや、ちょっとな……」


 我が国の製鉄業最王手、リプケン社が銑鉄の脱炭する過程の槌撃ちに、ゴーレムを大量に設備投資したと聞いたが。エマの実家のゴーレムだったのだな。


「すっ、済みませぬ。ここの主、ゲッ、ゲイルにございます。子爵様」

 細身の男が、息せき切って、崖を登ってきて挨拶した。

 まだ、はあはあ言っている。


「いやいや、我らが早く着いたのだ、気にされるな」

 ビアンカが小声でなんでアレク様……とか言ってるし。


「あっ、ありがとうございます。では、こちらの塩の作り方を、説明致します」

「ああ、頼む」


「ところで、こちらの方とお知り合いなのですか?」

「ああ、同級生なの」


「ああ、それはまた」

「世間って狭いよね……ああ、ごめん。ゲイルさん続けて!」

 レダの眉が、釣り上がっているのを見たようだ。


「ああ、では。この崖の下の海水を──」


 海水をこの回転式つるべをゴーレムが回して、崖の上の櫓まで持ち上げ、汲み上げた海水を、この溜め池に貯める。そして斜面となった水路をゆっくりと流し、天日に当て蒸発させ濃縮する。

 そして下まで流れ落ちた濃縮海水は、一旦下に溜まり、それをまたゴーレムが柴を積み上げた棚の上に掛け、風が当たり、より蒸発して水分量が減った鹹水かんすいとなる。

「それをあの小屋で火に掛けまして、最後に乾燥した物が、塩になります」


 いわゆる流下式塩田だ。潮風が強い、ここでは、かなり効率が良い製塩法だろう。


「なるほどなあ。考え抜かれた方法だな」

「ありがとうございます。しかし、10年前までは大変でした。ゴーレムをこちらのレイムズ商会に納入して貰ってから、楽になりました。もう少し魔石の減りが少ないと良いんですけどね。ははは……」


 確かに。ゴーレムはなかなかのテクノロジーだが、効率面では無駄が多い。単純にポンプを回した方が、エネルギー消費量は少ない。そう言いたいところだが、完全に営業妨害になる。


「子爵様?」

「ああ、そうだ。あの小屋も見ておきたいのだが」

 煙突から白い煙が出ている建物を指差す。

「へえ」


 俺達は、丘を下った。

 小屋の中には大きな竈があり、釜が乗っており、年配の男が薪をくべている。

 段を上った。これで釜の中を見下ろせる。


「この釜で、半日火に掛けますと、ちょうど今時分ですが。あのように結晶ができてきます。最後の残った液、苦汁にがりを汲み出し、少し焚いて。冷ましてできあがりです」


「なるほど。良く判った。ためになったぞ」

「そう言って戴けると。こちらも嬉しい限りです」


「ああ、時に。さっきの少し汲み上げていった……」

「苦汁ですか」

「そうそう。その苦汁は、この後どうしている?」


 ゲイルは、怪訝な顔をした。

「ああ。昔は少し使い途が有ったのですが、今は全く使わないので。裏にうっちゃっています」


「ほう。それも見せて貰って良いか」

「へえ。それは、お安いご用ですが……」


 俺たちは、ゲイルさんの案内で釜焚き小屋の裏手にやってきた。

 やや茶褐色に染まった白い小山が有った。


「10年程、ここに苦汁を捨て続けていまして。山になってますな。お恥ずかしい」


 恥ずかしいものか。

 俺が塩田に来たのは、実はこれを狙ってきたのだ。ここに着いたとき来たかったのは、ここだ。


「これは、これからどうする?」

 訊いてみる。


「いいえ、ここも手狭になってきたので。どこかに良い場所があれば、捨てに行こうかと思っていたくらいで」


「ならば、俺が貰っても良いのか?」

「はっ? 子爵様がですか? へえ、まあ、こんな物でよろしければ、いくらでも差し上げますが」

「真だな?」

「はい」

「では」

 と言うが早いか、俺は右手を苦汁が堆積した山に向かって手を伸ばした。

 次の瞬間、ゴーっと風が吹き、山は跡形もなくなった。残されたのは更地だけだ。


「こっ、こりゃ。たまげた」

 自分の目が信じられないのか、その場に小走りで行った。


「本当だ! 本当になくなっちまった。あの山はどこへ、行っちまった……いや、どこにやってしまわれたんですか?」

 興奮で口調が荒っぽくなったが、我に返ったようだ。。


「魔法で収納したのだ」

「本当ですか?」

「何なら、もう一度戻そうか?」

「いやいやいや。それは勘弁して下さい。こっちとしては厄介払いできたんで、願ったり叶ったりです」


「ふふふ。では、貰っていくとしよう」

「ええ、もう返品とか言わないで下さいよ」

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2016/11/13 細かく訂正

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