102話 子離れ兄離れ
うーむ。まあ叱られなかったというか、企業誘致で皆に迷惑が掛からなくて良かった。
まあ、結構褒めて貰う状況だったしな。
が、しかーし!
それぐらいで、俺の心は晴れない。
親父さんの指令は守らないとだめだが、嫌な予感しかしない。
お袋さんが居るはずの奥館の居間に来た。
中を窺おうと扉がそぅと少し開いたところで……。
ゲッ!
「あっ、お兄様だ!」
悪寒がしたので閉めようとしたら、音もさせていないのに速攻見つかった。フレイヤ、勘が良すぎるだろう。普段は可愛い妹だが、今は嫌な予感を増幅しかしない。
逃げたいが、逃げては状況がより悪化するのは火を見るより明らかだ。
仕方ない。大きく扉を開いて中に入る。
「あっ、ああ。ただいま戻りました。母上、フレイヤ」
「お兄様ぁぁあ」
ソファから飛んできたフレイヤに抱きつかれた。
「お兄様。フレイヤは、淋しゅうございました」
最近とみに大きくなってきたであろう、胸をぐいぐい押し付けてくる。
「そっ、そうか?」
どう反応して良いのか、固まった。
「アレックス!」
「はっ、はい」
なんだか知らないが、お袋さんが怒っている。
だが、その声で真顔に戻ったフレイヤが離れた。
パンパン。
はっ?
パンパン。
お袋さんが、自分の座る隣の座面を叩いている。ここに来て座れと言うことだろうか。
はあ、まあ良いですけど。示されたところに腰掛ける。
「アレックスぅぅう!」
ムギュッ。
座った途端に抱きつかれた。
しまった。お袋さんもこういう人だった。
脳裏に、転生直後に泣いて抱きつかれたことが過ぎった。素晴らしい肉塊の感触だが、完全に守備範囲外だ。
「セルークの村で闘いになったと、あの人から聞いたとき、卒倒しました。ソファに座っていましたから事なきを得ましたが。もう、これ以上、母を心配させてはなりませんよ」
「お母様だけずるいです。私も凄ーく心配したのですからね。お兄様」
反対側に回り込んだ、フレイヤに再び抱き付かれた。
むう。この完熟とまだ蒼い果実に挟まれるという、とんでもない状況に追い込まれた。どちらかでも、肉親でなければ桃源郷なのだが。
「済みませんが、暑いので離れて下さい、2人とも!」
「「ああん」」
このところ力が付いたので、ふりほどいて対面に座り直す。
「ご心配を掛け申し訳ありません。父上から、ご用と承りましたが。もしかして、これですか?」
センターテーブルに積まれた箱と巻紙を指す。
「ええ。そうです。この忌々しい……ではなかった、喜ばしいお手紙の数々です。もちろん、あなたの縁談ですよ」
えーと、わざと言い間違えました? お袋さん。
縁談ねえ……。手近な巻紙を、手に取る
「ご覧になるのですか? それを?」
ん? フレイヤは何を言っている?
当然見るだろう。自分宛の縁談は! と言いかけたが、眉が吊り上がっているので言葉を飲み込む。
どうやら、フレイヤはお気に召さないようだが、見ないわけにもいかない。構わず巻紙を開く。
「ソルベイグ子爵第2息女マリアナ……」
「えっ?」
「ん? どうしたフレイヤ?」
「なっ、何でもありません」
いやいや、何でもないって顔じゃないんだが。もしかして知り合いか?
フレイヤの同級生……じゃないな、13歳だし……っておい! 若過ぎるだろう。そっちの趣味はないぞ!
いや待て。この世界では、それ程珍しくないぞ。前世の日本に比べれば、大体発育が良いしな。
が、しかし、この巻紙。これだだけでは、見た目分からないし、能書だけで判断しろってか? この世界では、写真が存在しないから仕方ないが。
平安時代、和歌で見初めるのと良い勝負だな。
で、この箱は何だ?
──銀水晶が入ってるんだよ!
[ん?]
──相手の姿が観られるよ
おお、そうか! すごいじゃん!
動画で見られる訳だ。大したもんだ。むしろ前世より進んでるんじゃないか? 平安時代並みとか思って、申し訳ありませんでした!
「お兄様。そちらもご覧になるんですか?(けがわらしい)」
はっ?
いや、見るだろう。何か最後の方、小声で良く聞こえなかったが。
「お兄様に気に入られようと、科を作り、男に媚びた姿など、けがわらしいとお思いになりませんか?」
「フレイヤ。それは言い過ぎです。あなたにも銀水晶を作るように申し付けてありますよね。どうなりましたか?」
いいぞ。お袋さん。
「そんな物、作る気はありません!」
はっ? 好きなヤツでも居るのか?
「困ったものですねえ。私に似て器量が良いのに、そんなことでは行き遅れますよ! そもそも申し込みの書状が、あなたにも、たくさん来て居るではありませんか」
「あんな物、読まずに燃やしました! いいんです。私は一生独身で、この家に居るのですから」
読まずにって、くろやぎさんか!!
「はぁぁ……」
「えーと、母上」
「何です、アレックス」
「こちらは、まだご覧になりますか?」
「いいえ。もう見ません。アレックスに任せます」
「お母様!」
「では!」
魔収納に、全部収納した。
「お兄様! 不潔ですぅぅ、わぁぁぁあ」
乙女にあるまじき声を上げながら、居間から去って行った。
「母上。あれは何とかした方が……」
「そうですね。早く兄離れさせないと。それはともかく。あの人から伝言です。取りあえず、仮婚約した方が身のためだ……だそうですよ」
「……承りました」
◇
自分の館に戻る。
まだ昼食の時間までは間があるな。
魔収納から、銀水晶を1つ取り出し、再生させる。
扉が開いた。そこに関心が行った時には、何者も存在しなかったが、目線より上に放物線を描いて落下する人影が!
「オフゥ……」
刹那で身体強化魔法を発動し、受け止める。
「アレクぅ!」
跳びかかる前に声を掛けてね。
「ロキシー! 痛いぞ」
獣人少女は、人族と変わりない姿で、とんでもない瞬発力を発揮するから厄介だ。
俺の苦情が理解できないのだろう。最近頓に可愛らしさを増してきた容貌が、きょとんとした表情を見せる。
「アレク強い。問題ない!」
問題大有りだ。
「ねえ。遊んで、遊んで。………退屈!」
どうやら退屈という言葉を思い出そうとしていたようだ。床に降ろそうとするが、まとわりついて抵抗し、結局俺の膝の上に座った。
「これ何?」
「これは銀水晶と言ってだな……」
「これ誰?」
……質問したら、説明を聞けよ!
躾がなってないぞ……って、俺の役割か。ずっと、ほっぽってるからなあ。
「ロキシー!」
「うん」
「うんじゃない!」
「あい」
うーむ。まあいいか。
「ロキシー。いいかぁ、どこでもところ構わず俺に抱きついちゃ駄目だ!」
「…………くぅぅ、だめなの?」
おおぃ。いきなり泣き顔になるなよ。
「俺が、来いって言ったら、抱きついて良し!」
「うぅぅう。言って! 来いって言って!」
「もう俺の膝の上に座ってるだろうが」
「あっ。そだね!」
しょうが無いやつだな。
頭を撫でてやる。うふふ……と笑っている
「それでだ。この娘は、俺の花嫁候補だな」
銀水晶が宙に映し出す、画像を指差す。
「花嫁?」
ああ、これからお呼ばれの宴で、顔を合わせるかも知れないからな。断るにしても名前ぐらい覚えておかないと、失礼と思ったのだが。入庫して分かったが20通以上あるんだよな。
「ああ、どうしたものかな」
ロキシーは、目をパチパチと瞬きさせた。
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