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96話 ストラーダ侯爵

「それで、そのゾディアックとかいう、学園の卒業生に助けられたと」

 ん?

「先生、視てなかったんですか?」


 王都に戻ってきた晩、先生の亜空間部屋に来ている。


「無理だな。あそこは感知阻害の魔石が、敷地を囲っていてな。外から見るには30分ほどで魔力以前に集中力が切れる」


 って、やったことあるのかよ。


「それは、ともかく」

「はあ……」

「その卒業生に、なぜレダが頼ったのか?」


「ああ、子爵叙任の式典で、話しかけられました」

「そうか、その時レダが同席していたのだな」


「まあ。あの人に助けられなくても、自力で何とかなっていましたが。感謝はしないと」

「えらく殊勝ではないか」

「俺は何時でも殊勝ですよ」


「ははは。ただ参謀本部にいるような軍人になど、心を許すなよ」

 なんか偏見持ってるな。とは言え異存もない。


「そうですね。酷い奴らもいましたし」


     ◇


 翌日、再び王宮に参内した。前回は春の1月だったから3ヶ月強ぶりだな。

 今日は、溜まりではない個室の控室に入り待っていると、30分程で迎えが来た。


「昨日のようなことはないと存じますが、お気を付け下さい」

 随行してきた男装のレダも心配そうだ。

「ああ。分かった。行って来る」

 頭を撫でると、少し表情が和らいだ。


 王宮宣明の間に通されると、既に大勢の参列者がいた。

 壁に、大きな金獅子の紋章、そして玉座が有った。この前来たときのままだ。そしてその両脇に並んでいる顔触れには、見覚えがある。列候だ。右側は在都の大貴族が並ぶ。ハイドラ侯爵とタウンゼント侯爵には目礼しておく。左側は官僚と軍人だが、ゾディアック少佐がいた。少佐というと国王臨御の式典に参列する程高い階級ではない気もするが。男爵だしなあ。実家が大貴族とかか?


「国王陛下ご入来!」


 前回と同じように、跪礼する。


 歩く肉塊……ヨッフェン4世。相変わらずでかいな。空調は十分効いているが、思いっきり汗を掻いている。

 宰相ストラーダ侯爵も後を歩いてきた。その後を女官が付いてくる。


「アレックス・サーペント子爵。王の御前へ」

「はっ!」

 答えて立ち上がると王の前で跪く。


「アレックス・サーペント。こたびの対ディグラント戦役における戦功抜群なり。ヨッフェン・スヴァルス4世の名において、ルーデシア王国極星大勲章を汝に授与する」


 俺が立ち上がると、女官から受け取った青い星形の勲章を、侯爵が俺の胸に付けてくれた。

 極星大勲章と言えば、上から9番目の勲章か。まあ上から3つは皇族、さらに6番目までは閣僚か軍人なら将軍でないと授与されないから、実質は3番目か。


「ありがたき、幸せ」

 俺は、王に跪礼した。


「引き続き励むが良い」

「ははぁ」

 まあ余りその気は無いが。


「また、報奨として、金10万デクスを下賜する」

 10万デクス……子爵の俸禄と同じだな。1万デクスで結構良い家が建つらしい。前世の価値に換算するのは、金属製品は高く、食料品や人件費は安いとか品目で差があり色々難しいが、1デクスは1千円から2千円ぐらいだろうと思っている。


「さらに」

 さらに?

 思わず侯爵を見上げる。


「併せて、王国子爵に叙するものなり」


 はっ?


「あっ、ありがたき幸せ」

 反射でそうは答えたが、意味不明だ。俺、今でも子爵じゃなかったか?

 それをまた子爵とはどういうことだ。


 羊皮紙の国王勅許状を受け取って、後に下がる。のっしのっしと王と侯爵が退出し、式典は終わった。まだ間があるが、そのまま場所を移動して、祝宴に移るんだったな。


 取り敢えず、顔見知りの参列者に挨拶しておこうと思ったところ、女官が近付いてきた。


「アレックス卿、宰相様がお呼びでございます」

「ストラーダ様が、私を?」

「はい、祝宴開始まで時間がございますので、執務室でと」

「わかった」


 参列者達に目礼をしつつ、女官について廊下に出る。そこに控えていたレダが、寄って来る。

「アレク様?」

「ああ、従者の方もご一緒に」

 大きな廊下を通り抜け、王宮の主殿に入る。階段を上って、豪奢な扉の前に止まる。両脇には兵が短い槍を持って立っている。女官が頭を下げると、扉を開いてくれた。中に入ると広めの部屋だ。奥のバルコニーからは、レースのカーテンを通して柔らかな光が差し込んでいる。

 壁際には、ルーデシアの旗が立てられ、その横に大きく重厚な執務机がある。左手に大きなキャビネットがあり、何かの賞品なのか杯やら楯が並び、奥は書籍が収納されていた。が、部屋の持ち主は居ない。


「どうぞ、お座りになってお待ち下さい」

 手で指された方が、ソファーセットの下座で合っていそうなので、着座する。レダはすすっと俺の背後に立つ。


 数分後。扉が開いた。

「おお、アレックス卿。お待たせした」


 俺は立ち上がり。レダと共に膝を付いて跪礼する。

「おお、そんなに改まることはない。座られよ」


 ソファに座ると、侯爵は品良く微笑んでいた。式典の時の謹厳な雰囲気とは別人のように見える。後から付いてきた如何にも切れそうな、従者が侯爵の背後に立っている。


「あはっっははは……」

 俺の顔をまじまじと見て、突然笑い出した。

「あっ、あのう」

「ああ。すまんすまん。さっきの子爵に叙すると言ったときの、ぽかーんとした表情が傑作でな、あの時は笑わないように苦労したぞ」

「はあ……」


「なぜ今も子爵なのに、改めて叙されたのか分からなかったのだろう?」

 図星だ。

「はい」

「あれはな、大貴族子弟が出仕した褒美と違い、そなたが家を継いでも、子爵位が別に継承できると言うことだ」

 前者、つまり俺が1月に叙された方は、俺が親父の跡目として辺境伯となった暁には返上することになっている。

「つまり、そなたの嫡子以外の子か、まあ養子にでも継がせることができる。新たに子爵家ができたのと同じだな」


「そうでしたか。ありがとうございます」

「いやいや。アレックス卿がなした武勲には到底見合わない。よくぞ、ルーデシアの国土と国民を護ってくれた。このランベスク、心より礼を申す。ありがとう」

 侯爵は、右手を胸に当て謝意を示してくれた。


「もったいないお言葉にございます」

 貴族の中の貴族、そして政治家トップでありながら、豪放磊落な気質とは聞いていたが、まさにその通りだった。


「閣下。お時間が……」

「ああ、ミハイル。そうだったが……もう少し待て。アレックス卿に、こちらに寄って貰ったのは、礼も言いたかったのだが、もう1つある」

「はい」


「私は、セルーク沖の戦いも無論高く評価しているのだが。それと同じ、いやそれを上回って、卿の功績と思っているのは、セーカムの海戦を未然に防いでくれたことだ。話の本題だが。国防評議会議員に任命したいと思っている」


「はあ……浅学で恐縮ですが。国防評議会は。委員会とは違う組織ですよね」

「うむ、違っておる。軍人や辺境伯、それに政治家中心の国防委員会とは違って、もう少し先の計画や方針を提言してもらう諮問機関だ」


 なるほど。

 親父さんがやっているのは委員会の方だ。

 軍費、作戦計画の承認や、極端に言えば戦争の開戦など、軍や王の要求を聞いて審議すると聞いている。


「ぜひ、卿の識見をもって新風を吹き込んで貰いたい」


 ううむ。結構大役かも知れないな。勝手に受けるのはまずそうだ。

──受けたら良いと思うけどなぁ。


 簡単に言うなよ。


「私も貴族の身なれば、王国のお役に立ちたいとは思いますが、何せ、まだ学生ゆえ……その大丈夫でしょうか?」

「ははは。謙遜はやめ給え。それに悪いがこの国の国防は、ディグラント台頭に危機的な状況を迎えている。その辺を良く理解してな。お父上のサーペント泊と相談して決めると良い。次の評議会は……」

「6月10日です」


 後のミハイルという30歳くらいの男が答えた。どうやら秘書らしい。

 あと43日後か。

「そうだな、来(5)月の中頃までに返事してくれ」

「閣下そろそろ……」


「うむ。アレックス卿、今日はありがとう。色好い返事を待って居るぞ。君も祝宴会場に向かい給え」

「はっ」


 侯爵が部屋を後にするのを見送った。


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2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)

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