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95話 嫌がらせ

 親父が帯同してきた魔法通信兵が、セルビエンテに多面上陸作戦の可能性を伝え、それが王都の軍司令部に伝達された。

 ディグラントの士官を魔法尋問して得た情報を合わせて知らせたところ、先の情報で準備していたルーデシア海軍を威力偵察に出したそうだ。この辺りは、親父殿の名が効いていると言えるだろう。

 果たして、王都につながるセーカム大運河の河口沖で、夕方に船隊と会敵したそうだ。大運河の河口の東にも、遠浅の海岸線がある。そこ攻めることを企図していたのだろう。


 しかし、海戦とはならず、睨み合いの末、ディグラントの船隊は撤退したと、夜半になって連絡があった。

 王都への出頭命令を添えて。


     ◇


 はあ、俺のバカンスも終わったな。

 セルーク沖の戦いと名の付いた日から2日後。転送門を使って、3週間振りにぐらい王都に戻ってきた。まだ、学園が再会するまでには1ヶ月以上あるが、もうサーペンタニアに戻るのはあきらめている。


 よし。全員転送門から出てきたな。出口に向かう


 蒸すなあ。

 ああ、サーペンタニアは寂れては居たが、涼しくて良かった。セルビエンテも暑いが海風があって、ある程度爽やかなところがあったが、王都は辛い。暑い上に、内陸だから、この時期は風も余り吹かず、日中はとにかく不快指数が高い。


 速攻で自分と同じような表情になったメイド達にも、空調魔法を掛けてやる。


 わざわざ家宰が転送門まで迎えに来ていた。

 なんだ?


「お帰りなさいませ。若様。こたびは大変でしたな」

「ああ、ダイモス。出迎えご苦労」

「こちらを」


 ダイモスは、紙を差し出した。

 これは、新聞と言うか、かわら版のようなものか。日付は昨日だな。

 なになに。

 ディグラントとの海戦に勝利!! と、見出しが躍っている。昨日早暁サーペント伯爵領大内海沿岸のセルーク村沖で、攻めてきたディグラント船隊を発見、偶然居合わせた、アレックス・サーペント子爵(16歳)が、大魔法をもって対戦した。具体的な戦法は非公開なれど、子爵1人で、大型船3隻を撃沈し、敵を降伏せしめたことは間違いなし。残る4隻を鹵獲の上、捕虜多数を得た……か。

 まあ、書いてあることは間違っていないが、情報量は乏しいな。


「王都では、かなりの騒ぎになっておりまして、上屋敷にも何人も客が詰めかけております。特に御曹司の問い合わせが、多くて。下の方をご覧下さい」


 下の方?

 小さい文字で続きが書かれている。なお子爵は、彼の聖サーペントの曾孫に当たり、同一族の美男美女家系との評判通り、浮き名を流す程の美男子とのこと。また王都にある王立パレス高等学院に在学中とのこと。昨日は夏休みで戦地に偶然避暑で居合わせていた。うーん、余分なことが書いてあるな。


「私にも見せてくれ」

 先生に渡す。

 視初めて数秒で、ニマニマと笑い出した。主に下の方を読んでいるな。 


「ほれ。私が褒めたことを大げさと言っていたが、正しかったであろう!」


 確かに珍しくベタ褒めだった。戦闘終了時は、信じていたが、無事で良かったとだけだったが。セーカム沖の戦いが回避できたのは、アレクのお陰だ。これは誇れることだ! 良くやった。アレックスを育てて来た甲斐があったとまで言ってくれた。まあ育てられたのは俺ではなく、アレックスだが些細なことだ。

 先生は読み終えると、読みたそうにしていたユリに渡した。メイドの皆が顔を寄せて読んでいる。嬉しそうな表情を浮かべて。


「ところで、お疲れのようですが、館にお戻りになる前に、行って戴きたいところが」


 ん? 

「参内は明日であろう?」

「ええ。王宮はそうなのですが、別途、国軍参謀本部へ出頭せよとの連絡がありまして。そちらに」


「ふーん。分かった」

「どうやら監察局のようです。文書もありません。お気を付け下さい」

 剛毅なダイモスが少し心配そうだ。


「監察局だと?」

「はい。ランゼ様」


 先生の眉がぴーんと逆立っている。

 監察局と言えば、軍監の総元締めだ。

「きな臭いな……レダを連れて行け」

「はあ。そうしますか」


 馬車で転送門から10分程。黒く重厚な石造りの建物が見えてきた。ルーデシア軍参謀本部だ。玄関に馬車を横付けし、下車して中に入ると。士官服を着た女性と憲兵2人が近付いてきた。


「アレックス卿であられますか」

 整っているが疳の強そうな顔立ちだ。

「そうだが。貴官は?」


「ご案内するように、言付かっております。こちらへどうぞ。ああ、従者の方は。ご同席できません。お帰りになるか、こちらでお待ち下さい」

 名乗る気は無いようだ。

 ペリシタ准尉ね。上級感知魔法で読み取る。


「いかなる権限をもって許さないと言っておられるのか?」

 おっ。レダが無表情で喰って掛かった。

「いえ、お願いです。ただし、抗されますと、公務執行妨害で拘束します」

 それは、一般には強制というのだが。


「それで、いつ頃お戻りになりますか?」

「さて、小官は聞かされておりません。失礼します」

 さてさて。なんだか罪人のような扱いだな。


「ペリシタ准尉」

 一瞬、なぜ分かる? そう一瞬目を見開いた。感知阻害魔道具を使って居たのにと言うことだろう


「……なんでしょう?」

「私は召喚された訳ではないのだがな。我が従者に失礼ではないか?」

「申し訳ありません」

 しかし、言葉だけで、何も恐れ入っては居ないようだ。まあ仕方ない。レダと分かれて、後に随う。


 長い廊下を歩かされ、こちらでお待ち下さいと、通された部屋は、床が2段となっている。無論、俺は下段に座らされる。

 そのまま背後には、憲兵が居座り、出口を塞いでいる。


 10分程経ったが。そのまま放置だった。


「ああ、いつから始まるのかな?」

「我々は、別命あるまで、あなたの監視を命じられているだけです」

「監視ねえ」

 無言のまま時間が過ぎていく。静かだ……目を瞑る。


 30分後、上段側面の扉から3人の男が現れた。


「起立し給え」

「貴官は?」

「職務上名乗るのは控える。君の名前は、アレックス・サーペントかね」


──うわー。嫌な感じ。


[意見が合うな。では俺も同じやり方を返してみるか]


「どうした? 答え給え!」

「はて、ここはどこかな?」


「何を言う、参謀本部に決まっておろう」

「俺の目の前に居る男は、参謀本部の職員を名乗るが、本当かな?」

「当法廷を侮辱する気か!!」


 中央の男が激高した!


「ほう、法廷! それは知らなかったな。それで私はどのような罪状で出頭させられたのかな? マクエス君……ああ、準男爵。それとも監察局参事官と呼んだ方が良いかな?」


「魔法を使ったのか。アレックス卿!」

「ルーデシア憲章 第21条3項 五爵の地位にある者は、王命の他、正式な召喚手続きを経ることなく拘禁されない。この状況は、明らかに憲章違反だが。分かっているかね?隣に座っている、バネッタ、セブルス参事官」


 ぐっと詰まったように、応答が来ない。


「では、退席させて貰おう」

 憲兵が、棒をクロスさせて妨げる。


「しゅ、出廷した以上、こちらの許可を得るまで退廷は許されない。反抗すれば公務執行妨害だ」

「ふふふ、面白い。違法な公務には執行妨害は成立しない。ならば力尽くで破ってみても問題は無い、そうでは無いか?」


「まあまあ。アレックス卿。落ち着かれよ。我々は、君のために、無用な誤解を解くべく開廷したのだ。ここは年長者の顔を立ててはどうかな?」

 右に座った柔和そうな男,バネッタが宥めてきた。


 俺は座り直す。


「如何にも。子爵のアレックス・サーペントだ。その無用な誤解とは、誰の誤解を言っているのか?」


 中央に座ったマクエスが、青筋を立てつつも、拳を握りしめた。続けるようだ。

「静かにしたまえ。今般発生したセルーク沖海戦において、君に疑惑が生じている。王に会見した後では遅いので、ここで明らかにする。君のためだ!」


 遅いのは彼らの都合に過ぎないな。

「頼んだ憶えはないが!」


 むう!

 いきり立った。いい大人の割に沸点低いな。

「マクエス、いちいち反応して居ては、時間がいくらあっても足らないぞ」

「分かっている!」


 居住まいを正して、書類に目をやる。

「第1の疑惑だ! 君は、海戦において7隻のダーレム型船と戦い。3隻を轟沈。4隻を鹵獲、1734名を捕虜とした。随分と輝かしい功績だな」

「羨ましいのか?」


「くっ! ディグラントの侵攻を何時知った。反応が早すぎる。不自然だ」

「つまり、俺は予め敵が攻めてくるのを知っていたと言いたいのか?」

「質問に答え給え」

「ほう。高度に戦術上の秘密に該当するが、君はそれを開示される権限があるのだろうな?」


「アレックス卿。我々を信じて戴かないと、話が進まないし、お帰り頂く時刻が遅れるが」


「ふん。別に、気が向いたら勝手に出て行くが……まあいい答えてやるか。知ったのは、7月20日の午前4時頃。わが家庭教師のランゼ・ハーケン女史の魔法感知により現認した。干潮時刻の5時前後に侵攻すると読み攻撃した。どこが不自然かな?」


──良いぞ! アレク!


「黒き魔女か! それにしても早すぎる。対抗する兵を集めるのに2時間は掛かる。予め知っていただろう!」

「別に、兵など集めていない。集めたとしてもセルーク警備兵は高々100人だ。意味が無い、俺とハーケン女史が駆けつけたに過ぎぬ」


 苦虫をかみ潰したような顔になった。

「それにしても、実質1人で闘ったわけだ。随分無謀なことをしたと思わないかね。前代未聞だ」

 左の真面目そうなセブルスというやつだ。


「無謀……?」

「無謀だろう。失敗すればどう責任を取るつもりだったのかね」


「責任? 何の責任かね?」

「ディグラントに侵攻を許したという責任だよ」

「ほう。参謀本部という組織は、架空の敗戦責任を一介の学生に問うつもりか。これは驚いた」

「もちろん責任を問う。君は何の権限を持ってしたか、他国と無断で開戦したのだからね」

 マクエスがしたり顔で言った。どうやら、これが彼の切り札のようだ。

 だが、そのとき右の男が頭を抱えた。しかし、マクエスは気が付いていないようだ。


「左を向き給え。どうやら、バネッタ参事官が、君とは別の見解を持っているようだが」

「ん?」

「ああ、つい先程訊いたばかりだが。アレックス卿は指揮権を委譲されている。父の辺境伯からだ」

 やはり知っていたか。


「はあ。なんだと。そのようなこと辺境伯の独断で……」

 マクエスの顔が真っ赤になる。

「いや、独断ではない。セルビエンテの軍監の承認も得ている。つまり正式な指揮権委譲だ」

 そう。先生が渡してくれた緊急時指揮権委譲証には、軍監の署名があった。見たときは良くこんなことできたなと感心した程だ。


「さて、私への疑惑は解消した……で良いかな?」


「いいや……まだだ。第4の疑惑だ。君は、ディグラントの捕虜の武具を、海へ投棄させたな。これは鹵獲品の私的な横領だ」

「ところで。第2、第3の疑惑はどうしたのかな?」

「だっ、黙れ」

 図星か。既に不発になったようだ。


「それより、君が指揮権を持っていたとなれば。見なし軍人だ。服務規程に違反している」

 俺は、呆れて頭を振った。無理な言い掛かりの上、なんだか話が矮小化したな。


「友軍の軍人を危機に陥れない措置を、服務規定違反だと言いたいのか?」

「危機の程度は分からないが、そこは、努力すべきだろう……」


「努力ねえ……ところで戦闘が継続中の敵の所有品は、鹵獲品という定義だったかな? 降伏の意思表示されていたが、今だ拘束していない敵は捕虜ではないが」


「ぐっ。しかし、いずれ……みすみす」

「マクエス。アレックス卿の言う通りだ。敵から奪い取るか、捕虜たる身分を確定してから供出させた物でない限り、鹵獲品とはならないぞ。」


「バネッタ。貴様、どちらの味方だ?」


 はあ……答えた男も、溜息を吐いた時、上段の側面の扉が開いた。

 マクエスという中央に座った男が、そちらを向くとふらっと立ち上がった。


 ん?

 そのまま扉から出て行くと、数分して戻ってきた。


「当法廷は、閉廷する」

「理由は?」

「答える義務を有しない」

「貴族を呼び出しておいて、随分失礼ではないか? 我が伯爵家より正式に抗議するぞ」


 マクエスというおっさんの顔が、紅くなったり青くなったしているが、答えはなかった。

 立ち上がると、今度は憲兵も開けてくれたので、部屋から出た。

 廊下にレダと青年の将校が待っていた。


「アレク様!」

 表情を綻ばせたが、すぐさま無表情に戻した。

「こちらの方が……」

「ご無沙汰しております。ゾディアック先輩。助けて戴いたようですね」

 俺は胸に手を当て感謝を示す。子爵の叙爵式典で話しかけてくれた人だ。笑顔に品があるね。


「ああ、災難だったね。英雄である君をいびろうとは、ふざけた連中だ。ああ、このお嬢さんが、ご主人様が大変だって小官を尋ねてきてね」

「ええ、確か参謀本部に勤務と伺っていましたので」


 良く憶えていたな……。


「まあ、とにかく良かった。ああ、すまん。これから会議なんだ。また会おう」

「ありがとうございます」

 俺は先輩の背中を送った。


「さて、帰るか」

「はい」


     ◇


 薄暗い部屋に、マクエスが入ってきた。


「申し訳ありません。男爵様」

「いやいや。良くやってくれた、参事官。まあ……少し予想外なことは有ったが、かえって良かった」


「ですが……」

「いいのだ。彼が軍に嫌気が差せば、我らの利益となる」

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2016/10/23 細々訂正

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