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94話 尋問と推察

 セルーク警備兵は全て合わせても100名足らず。親父がいるセルビエンテまでの道すがらの軍事拠点から兵がやって来たが、250名程だ。それを用意させた小舟に乗せて、わざと座礁させた大船に錨を降ろさせ、拘束すると共に外から監視をさせる。

 7隻で来たディグラント兵は、4隻に乗せられている。戦闘で減ってはいるが、すし詰め状態との報告を受けた。


 降伏受諾から4時間、セルビエンテの先行部隊が500名程がやって来た。

 その中に伯爵である親父も駆けつけてくれているそうだ。

 俺の役目も第一段階を終えたな。


 海岸で佇んでいると、防砂林の手前に騎乗の団体が来た。

 親父だ。従者の他、伯爵領軍の将軍もいる。下馬したので、そちらに近付く。跪礼する。


「父上。お早い、ご到着ありがとうございます」


「はっははは。何を申す。アレックス殿。伝令から聞いた。こたびは、良くセルークの村、そして我が領地の住人を救ってくれた。領主として深く感謝する」


 えっ! 親父。胸に手を当て、顔を伏せた。他の者の前で……自分の息子に、そこまでしなくても。この人は、大きい人だなあ。


「父上。もったいない……」

「いやいや。アレックス殿。自分が何を成し遂げたか、理解していないようだな。まあ前代未聞だ、無理もない。そして、そなたの父として、私は大層誇らしいぞ」


 俺の手を取って、力強く握り合わせた。

 大きい手だな。


「この前まで、どうなるかと思っていたのが、今ではなあ……」

 目の周りが紅くなっている。

「父上……」


「いかんいかん。タウロス。捕虜の上陸の件、船の鹵獲の件、進めてくれ」

「はっ! 御曹司。小官も感謝申し上げます。詳しい話は、いずれまた」 

 将軍は、親父と入れ替わりに俺の手を握ると、代官のゲッツと共に足早に辞していった。


「ところで、ランゼ殿は?」

「私ならここに居るぞ」


「先生!」

「メイド共が来たのでな、代官所に待機させている」

「ランゼ殿!この侵攻を食い止められたは、あなたが敵艦隊を早期に発見してくれたお陰と聞いております。心から感謝申し上げる」

「その通りです。父上」


「ふむ。ここでは人目もあるし、落ち着かぬ」

「伯爵様、代官所に移動されてはいかがでしょう」

 従者の申し出に随って歩いてセルーク代官所へ赴く。

 応接室に入った


「ランゼ殿。それにしても、よく敵を見付けられたものですね」

「ああ、アレク殿の予言にしたがってな、魔道具を配置したのが功を奏したな」


「予言?」

「ああ、今日の侵攻の戦術は、アレク殿が看破しておった」


 親父さんが、身を乗り出す。

「どういうことか説明してくれませんか?」

「もう一週間程前になるが。サーペンタニアに赴く前だ、当地に寄ったおりに、代官に向かい、遠浅であっても油断するな、吃水の浅い船をもって急襲して上陸することも考えられると申してな」


「真か、アレックス?」

 親父さんの顔が、ちょっと恐い。


「ええ、まあ。ああ、いえ。そういう可能性もあると言ったに過ぎません。それを先生が拾い上げたところが凄いわけで……」


「流石は、魔女と言われるだけある。そして、発想に加え、魔法戦闘についてもアレックスを鍛えて戴きありがたく存じます」

「何を言うか。伯爵殿も学園の折から……」

「そうでした」


 そうだ、先生は、俺だけでなく、親父さんにとっても師だったんだ。

 その動機はとんでもないが。


「失礼致します!」

「何か!」

 伝令の兵が来て、親父さんが応えた。

「はっ。ディグラント兵の代表2人を引き立てました。将軍が玄関までお出で下さいとのことでした」

「わかった。参る……アレックス殿も同席されよ」

「はい」


 玄関に出ると、いつの間にか陣幕が張られていた。床几いうかディレクチャーチェアのような椅子が、準備されていたので、そこに着座する。


 ロープで後ろ手に縛られた軍人が、引き立てられてきた。膝立に座らせられ、親父さんが尋問を始めた。

 濃紺の制服が、筋骨隆々とした体躯の男だ。

 

「そなたが、こたびの司令官か?」

「ふん。ルーデシアの者に答えるものか」

 チャ!

 後に控えていた兵が、首筋にブロードソードを当てた。


「くっ。そっそうだ」

「官、姓名を名乗れ」

 兵に言われる。

「ディグラント海軍大内海方面大隊所属、グロース・バスクアーレ中佐だ。名誉ある捕虜の待遇を要求する」


「ふむ。中佐とやら、なぜ我が国を攻めるか」

「知れたこと! ディグラント人こそ世界を支配すべき、選ばれた民だからだ。悪いことは言わぬ、この場で降伏せよ! はははは」


 はあ?

 縄目を受けている者がよく言う。だが、狂人ではないようだ。心底からそう思っているな、あいつは。


「ふむ。それで、なぜここを攻めた」

「9年前の屈辱を晴らすため……」


 親父さんが、王都に繋がる2大運河、ロザミア大運河河口に攻めてきたディグランド軍を撃退し、戦功を立てた戦いのことだろう。ちなみに、ロザミア大運河は、ミュケーネ川の左岸と言っても河口で30km程離れているが、つまりはセルビエンテがある側に旧流を活かして開削された運河だ。もう一つのセーカム大運河は右岸にある。


「なるほど、私への恨みを晴らそうと言うことか?」


「それもある。要は遠浅の海岸がある場所で有れば良かったのだ。それが、バケモノ1人にしてやられたわ。お前達は運が良かったな。本来であれば……あのバケモノさえ居なければ、こうして引き立てられていたのは、お前達の方であったはずなのに」


 すうっと目の前に、親父さんの腕が出て来て遮った。

 俺は、無意識に腰を上げていたのか。


「確かに! 我らは運が良かったようだ。中佐とやらが司令官でな」

「くっ!」


 バスクアーレが詰まった。

 親父は手を振って、連れて行かせた。この後、軍人による尋問もある。


「運が良かったのが、もうすぐわかる! ははは……」

 高笑いが小さくなっていく。


 入れ替わりに、もう1人の捕虜が連れて来られた。同じように座らされる。

 あいつは……。


「官、姓名を名乗れ」

「ディグラント帝国属、ハークレイズ軍所属マルビアン准尉です」

 船の上で俺に協力的だった、あの男だ。


「ハークレイズか」

 親父がやや顔を顰めた。


「我々が到着時に、指揮を執っていた者です」

 あれ?

 兵と一緒にゲッツも幕内に入ってきた。下座に待機した。


「司令官は、先の中佐とやらではなかったのか?」


「お答えしても」

「ああ。許すぞ」

「そちらにおられる、魔法師様に降伏を受け入れて戴きました折り、司令官が座乗していた船が既に沈没しておりました。魔法で我が船が狙われ、ディグランドの士官が全て海に逃れましたので、小官が指揮しました」

「ふむ」


 そうか。3隻目が司令船だったのか。あれから急に反撃が途絶えたからな。


「ハークレイズの者と申したな。噂では聞いていたが、従軍させられているのか」

「はい。我が国は丸ごと人質に取られているようなもの。ディグラントの主な戦場には、我らが、無理矢理出兵させられております」


 俺も聞いては居たが。ディグラント帝国がやたら好戦的なのは、やはり無償の兵力が手に入ったからだろう。


「ふむ。ところで、この作戦は誰が考えたのか?」

「はあ。ハークレイズの者には詳らかにされておりません。この船の建造を命じられたのが1年程前で、我々が金を結構掛けております。いつもの力押しと違いますので、中央の作戦には間違いないと思われます」


「今回の作戦は良いと思ったということか?」

「結果としてこのようになりましたので、申し上げにくいですが。少なくとも新機軸ではあると思います」


 気になることを聞いてみよう。


「父上」

「おお、アレックス殿。何かな」

「マルビアンに訊く。お前達が建造したダーレム型は何隻だ?」


「それは……」

 答えにくいようだな。ならば、7隻ではなく、もっと多いということだ。


「14隻以上だろう」

「なぜ、それを!」

 答えて、しまったっという顔をした。


 やはりそうか。

「父上。今この時、もしくは近々、別の場所で上陸作戦が実施される可能性があります」

「なんだと。誰かある! ふむ。こやつを連れて行け」


 さっきの帝国士官の捨て台詞が気になったのだ。ヤツは、まだ知っていることがあるだろう。


「アン!」

「はっ! ここに」

 やはり居たか。姿は見えないが気配はある。


「聞いていたな。ディグラントの士官から別の作戦場所を訊きだせ。手段は問わぬ」

 はっ! 答えて、気配が再び消えた。


「父上。こちらが攻められたことを王都には」

「無論知らせてある」


「先程のハークレイズの士官が申したように、新機軸の作戦ではありますが。種が分かれば、所詮は旧式軍船を使う戦術。沖で見つかれば、圧倒的に不利です」

「つまり、戦術が周知される前に効果を最大化するため、多面作戦を取るということだな!」

「ご明察!」


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2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)

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