10話 寝取られた婚約者 (後) 修羅場
記憶に有った呪文だが、うまく発動できたようだ。
それにしても、声に出さないで良いのは、こっ恥ずかしくなくて都合が良い。
えーと、あと使える魔法は…と。黒魔法は軒並み封印されてるし。
使えるのは…魔鑑定低級と魔収納に回復って、白魔法ばかりじゃないか。
まあいい。やるべきことを為そう。
石は30kg位あったが、軽く持ち上げられた。
この細い腕でねえ。
死ぬ前は、ベンチプレスで100kg挙げてたけど…。音がしないようにゆっくりと下ろして乗り、隙間から中を覗いた。
おおっと、予想の範囲内だったが、実際に目にすると動転するね。
中の一角には麦藁が山となっていたが、そこにさっき館に来た2人が居た。
セシルとダリルだ!
横たわる2人は、上半身しか見えないが、従者のダリルが上に折り重なって、息を押し殺し、時折呻きながら、何やら律動している。
──銀水晶を使って
また、あの声が聞こえた。
ああ、なるほど…銀水晶か。
パッシブで発動されている魔収納から取り出す。
魔力を込めると、動画が記録できるという魔導具だ。
中を撮す。
おっと、イメージが取ってる俺にも流れ込んでくる。
確認すると、顔とかもばっちり撮れるな。セクシー動画一丁上がりだ。
このあと、どうするかな。もう記録を止めるかな…。
ん?行為が終わったようで、ピロートークが始まったようだ。
「お嬢様。これからどうしますかねえ」
「そうね…あのまま死んでくれたら、このお腹の子は、アレックスの子ということにして、あの家を乗っ取るつもりだったけど…」
うげっ!なんてこと言うんだ。
うーむ。動画の方はもう良いだろう。銀水晶への魔力供給を止め、魔収納へ戻す。
パッシブに発動している初級ではよく見えないので、意図して感知魔法を発動する。
我に真実の眼を与えん! ─ 魔鑑定 -
セシル・フォーガス。妊娠中、16週か…。
事態は思っていたより遙かにえげつない。
ああ、ちなみに、こちらの、1週間も7日間だ。1ヶ月は30日、1年は12ヶ月だ。実にわかりやすい。
館で感じた違和感。追ってきた理由は、この2人は出来ているんじゃ無いか?そういう疑惑だったが。
冷静に考えてみれば、追ったからといって手がかりが得られる保証はなかったが、なんだかセシルのダリルを見る目が艶っぽかったからなあ。
「でも、今日偵察に来てみれば。あいつは、痩せては居ましたが、全然死にそうに無かったですね」
「そうねえ。ただ、もう猶予はあまりないわ。お腹が大きくなって来るもの」
「じゃあ」
「死んで貰いましょう。おびき出して崖から突き落とすとか…」
殺すと言われると、懲らしめたくなるな。
だが、1度死んだ所為か、あまり怒りが湧いてこない。
この女もどす黒いが、腹黒さなら負けない先生を知ってるからだろうか。
じゃあ。俺の女を寝取りやがって!とか。
うーむ、俺の女にはなってないしな。セシルは。
今日はやめとくか。
「でも相手は、病み上がりとは言え、魔法の天才と呼ばれたヤツですよ」
「大丈夫、あの年増魔法教師に、魔法を封印されたって言ってたから」
「そんな大事なことをぺらぺら喋るとは、馬鹿なヤツ」
燃料を頂きありがとう!先生と以前の俺を、悪し様に言ってくれて!
ガラガラ…。
「なっ、アレックス…様。どうしてここへ」
俺は、小屋を回り込んで、戸を開け放っていた。
2人とも相当驚いている。
ああ、前を隠せ、前を!
見苦しい!
「ああ、セシル。一時の気の迷いで、おまえの申し入れを受けたが。取り消さして貰う。異存は無いな」
「婚約を破棄すると?」
「ああ、他人の子を身籠もって黙っている女を妻にする程、俺は寛容では無いからな。そもそも正式な婚約ですらない」
「ダリル」
「はい」
「やむを得ないわ、その男を殺して!」
グワァーーー…バリバリバリ!!
はあ、はあ、はあ…。
俺は、突き破られ、大穴が空いた板壁の前に仁王立ちしていた。
とっさの行動だった。
穴の向こうには、木っ端と共にダリルが倒れている。そしてピクとも動かない。
えーと。
意識がフラッシュバックした……。
ダリルが、俺に背を向ける。
壁際に立て掛けた、自分のバスターソードを取ろう言うのだろう。
万に一つも俺には負けないと言う油断。
俺は懼れも無く突進した!
肩から衝突!!!
ダリルは盛大に吹っ飛び、後頭部から壁を突き破ると、それっきり動かなくなった。
「俺は魔法が封印されていると言ったな、あれは嘘だ!」
「そ、そんな」
呆けたのか、前が丸見えだ。
「もう一度聞く。破談の件、異存はないな」
セシルは、涙を浮かべ、怯えた顔で何度も頷いた。
「ああ、後。先程のおまえ達の光景は、この銀水晶に記録してあるので、ゴネても無駄だ。憶えておくと良い」
言いたいことをすべて吐き出し、外に出た。サンダーボルトの手綱を解き、鞍を掴むと、軽々と自力で跨がれた。
トロットで走らせ帰路に就く。
ふう。
先程のショルダーチャージといい、今の騎乗といい、身体強化の威力は凄いな。本当に3倍か?ただ元が元だけに確信が持てないが。
それにしても、俺を剣で斬り殺そうとするか。
十分冷静なつもりだったが、躁状態になって結構危ない橋を渡ったのかも知れない。身体強化の副作用とかかもな。いずれにしても、もう少し慎重に…しないと。
身体が…まずい落馬と考えたところまでで、意識を失った。
ふう。間に合ったな。
落ちかけたアレックスを引き上げ、後ろに座る。
危なくなったら、出て行ってやろうかと思ったが。
自力で何とかしたか。
後は何時介入しようかと思っていた婚約の件も、自分でケリを着けるとは、なかなかやるじゃないか。
館まで、寝かしてやろう。
ランゼは、その麗しい唇を微かに吊り上げた。
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