1話 プロローグ (前) 俺が俺じゃない?!
第3作を連載開始しました。
天界バイトで全言語能力をゲットした俺最強!
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よろしくお願い致します!
ゴールデンウィーク明けの月曜日。
駅のプラットホームに着くと、ついさっき発車した通勤電車の最後尾が通り過ぎていった。
大丈夫。後続の電車はすぐ来る。
乗車位置の一番前に立った。
新人研修は先月で終わり、いよいよ部門配属だ。
今日から行く、エンジニアリング部第2課は、残業が多いブラックな部門と同期の噂だが、俺は体力には自信がある。どんとこいだ。
しかし、眠い。
緊張半分、期待半分で、夕べは余り眠れなかった。
まだ頭が覚醒してない。
ティーン・ティティテイン…。
「…1番線電車が参ります」
ゴーーー。
来た来た。
その時だった──
後ろからヒール特有の堅い足音がして、悲鳴が上がる。
背後から抗しがたい衝撃を感じたのは、その直後だった。
身体が押し出されるときに、女性を押しとどめる姿が…
そして、近くで警笛が聞こえた気がした。
◇◆◇◆◇◆◇
「はい、あーん」
俺は、ベッドで身体を起こし座っている。
あーむ。
甘酸っぱい。林檎を磨ったものだ。
ベッドの側に立った、少女の白い手が運んでくれる。
最初は気恥ずかしかった食事だが、今ではとても好きになった。
果物より甘い香りがするこの娘が、食べさせてくれるからだ。
大きく優しい眼が印象的な顔立ちは清楚だが、前屈みになって襟から覗く谷間は深く切れ込んでおり、白い双球がたわわに実っている。
「あぁん。まだ日が高こうございます」
眉根を寄せ、口ではなじるものの、胸をまさぐる俺の手を拒みはしない。
それに甘えて、掴むように少し力を込めてみた。
「もう。アレク様ったら」
そう、俺はアレク様になっていた。
俺は数日前のことを思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇
「いやぁああああ」
随分長く寝ていた気がしたが。
俺は揺さぶられてる。
誰かが悲しんで、嗚咽しているようだ。
ああ、やっぱり俺は死んだのか。
最期の光景から察するに、飛び込もうとした女性を俺の後ろの男が止めようとして、とばっちりが俺に…ってところか。
轢かれたんだなあ。
ぶつかった瞬間の記憶はないが、苦しまずに済んで良かったというべきか。
どれだけ身体を鍛えても、電車には勝てないよなあ。
あぁ~なんまんだぶ、なんまんだぶ…。
ところで、死んだのに意識があるって。どういうこと?
が、まあ案外こういうものかも知れない。
なにせ死んだは初めてだからなあ…。
ん?
重い。重いよな!
誰かが俺の胸にかぶさっているって感じだ。
あれ?
さっき揺さぶられてるのもわかったし、感覚が有るよな。
いまだに泣き声も聞こえているしな。
俺、本当に死んだのか?
それに。何だか、身体が動きそうな気がするのだが。
瞼は重かったが、力を込めると目が開いた。
えっ。
ええ?
大量に涙を流す金髪の女性と目が合う。
20歳台中盤ぐらい?
女優さんでも、見たことがないぐらいの美人だ。
お互い、何回か瞬きした。
誰?
あいたたた。偏頭痛が来た刹那、もっと大きな衝撃に襲われる。
「アレクぅうう」
げふっ。
結構な勢いで、がっつり抱きつかれた。
いや、痛いから。
鳩尾に入ったし。呼吸できないし。
嫌と言うぐらい腹筋鍛えてたのに、油断したか?
あれ?
呼吸って。
俺、生きてるんじゃない?
生きてる、生きてるよね?痛いし。
オオーーって、叫ぼうと思ったけど、口が開かない。
ムーーーーーって鼻で声を出してみたが、抱きついてる女性の嗚咽の音量の方がでかいし。相変わらず痛い。
痛いけど、こんな美女に抱きつかれるのは、悪くない気分だ。
いやいや、悪くないどころの騒ぎじゃ無い。
毛布越しだが、かなり大きめの胸も当たってるし。
気のせいか柔らかい感触がお腹の上に。
あと、斜めに被さってるから、襟ぐりから覗けるんだよねえ。
その谷間の深さたるや…。
なんたる幸せ!
夢なら醒めないでーー。
しかし、この美人さんは誰なんだろう、なんだか思い出せそうな気が…。
脳裏で無意識に呼んだ!
母上…。
ははうえぇえ?
俺、今そう言おうとしたよな。
覚醒してきた。
口が開かないのは、長く寝てた所為だ。唇がくっついているし。喉もガラガラだ。
「…クぅう」
母と呼んでしまった女性の頭が、俺の胸にごしごしと押しつけられる。
この人…俺の母親なのかよ?
危ない危ない。もう少しでおふくろさんに欲情するところだった。
名前はセシリア…と仰いますか。
ああ、それにしても、嬉しいような残念なような。こんな美女が、よりによっておふくろさんかぁ…って、何考えてるんだ、俺。
ああーその襟ぐりから覗く危険物を隠してくれませんかね…。
おっと、そんなことを考えてる場合じゃなかった
さっきの、アレクって言うのが、俺の名前…だよな。おそらく。
初めて聞いた割りには、妙にしっくり来る。
あたたた。頭痛が来て思い出す。
俺の名前は、アレックス・サーペントだ!
アレックス・サーペントって…。
いやいや、なんでだ!
俺は日本人だぞ!!
落ち着け俺!
しかし、この金髪女性が、おふくろさんなんだよなあ。
絶対日本民族の顔じゃない。
綺麗な髪の頭頂部を見下ろしていると、視界の上の方に視線を感じる。
うわっ!
これまた金髪のイケメンと目が合った。
「ア、ア、アレックスがぁあ。生き返ったぁああ!!!」
でかいでかい。声がでかいって。
耳がキーーンってなってるし。
わああああと、部屋に歓呼の声が広がる。
うっ。また、偏頭痛と共に、情報が来る。
ガイウス・サーペント。
おお?この人、俺の父さんなの?!
見回すと、この2人以外にも、部屋に6人くらい居る。
しかし、部屋が変だ。
少なくとも病院ではあり得ない豪華さ。
薄いベージュの壁紙に至る所に凝った豪華な彫刻が施された調度。
The洋館!
それに、ここに居る人たちの衣装も、普通の洋服じゃなくて、映画で見るような中世ヨーロッパの風情があるような気もする。コスプレ大会…じゃないよね。
猛烈な違和感だ。
伯爵様。おめでとうございます。本当にようございました…そんな声が聞こえる。
どういうことだよ?
何が、めでたいんだ!
というか、俺が、アレックスってどういうことだ?
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訂正履歴
2016/03/27 ユリとのやりとりを追加