一話 女の子になっちゃった
月明かりが照らす神社、辺りにはセミの鳴き声が綺麗な音を奏でている。
宝石でも散りばめたかのような綺麗な星空。
そこに夏は倒れていた。
「ーーうぅん……」
倒れていた夏が気がつきむくっと起き上がる。
「あれ……? 俺、なんでこんなとこで寝て」
そう言いかけた時だった。
(えっ? 女の子の声……?)
近くに誰か女の子でもいるのかと一瞬考え辺りを見たがすぐさまそれが今自分が発した声だと気がつく。
「え? えええええ?!」
やはり自分の声だ。今まさに自分が発した声が可愛い高いトーンの女の子の声なのだ。
状況を理解しようにも全くわけがわからずただぼーっと座りこんだまま立つ事ができない。
震える手や腕を恐る恐る見てみると、明らかに細っそりしているし綺麗な腕だ。
とりあえず自分の身体をあちこち触ってみると胸部あたりに今までなかった、むにゅっとする感触があった。
「ーー?!」
(こ、こ、これって……胸ー?!)
ーーそう、何故か胸が膨らんでいた。
夏は一瞬にして顔が真っ赤になっていくのがはっきりと伝わっていた。
「あわわわ……な、なんで?! 俺、男だよな……? だけど声も女の子だし、む、む、胸まで?!」
完全にパニック状態とはこのことだろうか。だがパニックになるのも当然だ。ついさっきまでは完全に男の声だったし、当然胸も膨らんでいるはずもない。
さっぱり訳がわからなかった。
「じょ、冗談だよねきっと……きっとそうだ!」
夏はゆっくり立ち上がるとさらなる違和感が襲う。
(え……? う、嘘……)
恐る恐る下を見てみると、夏は顔が真っ青になっていった。
ーースカートだ。
そう、それも女の子達が普段着ている制服のような物を着ていた。
夏はまさかと思い、鞄から鏡を取り出し自分の顔を覗き込んでみる。
「えええええ〜?!」
夏は驚いた叫びとともにその場にへろへろと座りこむ。
鏡を見て驚いた、髪は黒く顎くらいまでのストレートヘアーしかも、明らかに女の子の顔だ。いや確かにもともと女の子っぽい顔立ちだったとしてもだ。明らかにもはや自分でも女の子としか思えない可愛らしい顔立ち。服装も制服、しかもスカート! 絶望しかなかった。
「うぅ〜…なんでよりによって本当に女の子に……って、ん?」
夏はこれからどうしようとため息をつきながら立ちあがると何やら声がした。
「あ、なっちゃんおきたああ!」
勢いよく夏に抱きついてくる一人の女の子。髪は茶色のショートヘアー。夏はもうわけがわからず頭にハテナマークしか出てこない。
「だ、だ、誰ー?!」
夏はいきなり抱きついてきた女の子に驚きを隠せないが今自分の状況を踏まえると出てくる答えは一つしかなかった。
ーー 一緒にいた美月と怜がいない。
「もしかして……」
「うんっ、正解! 僕だよ!」
「ーーっ?!」
やはり予感は的中した。小さめな背丈と茶色の髪の毛、それは美月だった。
美月はくるっと一回転するとぶいっ! というポーズをしながら満面の笑み。夏は不覚にも思ってしまった。
ーーか、可愛い……
美月が自分の事を僕と言っているのは昔からだが、こうして今女の子のしかもロリっぽい声で《僕》と言われると余計にそう思えても仕方ないのかもしれない。
「はぁ…… 美月まで女の子にってれ、怜は?!」
辺りを見渡してみるが怜の姿はなかった。 おかしい、さっきまで一緒にいたはずだがどこにいったのだろうか。
夏が不安そうな顔をしていると美月が察したのか思い出したように言う。
「あー、怜は……」
美月が神社の中を指指すといきなり悲鳴が聞こえてくる。
「いやあぁああ!」
夏は驚いた顔をして急いで神社の中に入るが美月は頭をポリポリかきながら夏の後ろをついていく。
「れ、怜?!」
勢いよく神社の扉を開けるとそこには床に座り込み頬を真っ赤に染めて泣きながらこっちを見ている怜の姿があった。
「これ、夢……ですよね?」
そういうと怜はパタリと倒れてしまった。
「ちょ、怜?!」
夏が怜に近寄ると美月がはぁ……っとため息をつく。
「怜さ、僕が気がついてすぐ目を覚まして、僕と自分の姿を見て気を失ったんだよー」
普通であれば男から女になっていたらそりゃ気絶もするだろう。むしろ美月のその平然とした態度のほうが不思議で仕方ないと言ってしまってもいい話しだ。
とりあえず怜が目を覚ますまで夏と美月は神社の外で座りながら待つ事にした。
「はぁ……それにしても女の子かぁ」
「うん、なんか変な感じだよね。それに家にも帰る訳にもいかないし……」
「家……って、ええええ?! じゃあ俺達これからどうするの?!」
そうなのだ、女の子になっている以上自宅へは戻れるはずもなく、仮に戻ったところで女の子になりましたと言ったところで理解してくれるはずもない。
夏は頭の中で色々思い浮かべる。寝る場所についてとか、ご飯やお風呂など様々な事が頭をよぎる。
すると目を覚ましたのか怜が神社の中から出てくると二人の横に座ってじっと夜空を見つめた。
その姿はなんとも言えないまさに和の雰囲気が漂うロングな髪に大人っぽい顔立ち、綺麗、美人と言ったほうがいいのだろうか。
「大丈夫か?怜」
「先ほどはすまない……あまりの出来事に」
「まぁ、仕方ないよね、ははは」
3人はまず今の状況を話しあった。
とりあえず分かっている事は三人とも何故か女の子になっている事。
そしてそれぞれ色の違うペンダントを持っている事。
ペンダントに関しては小さい時から三人共している物だった。入手経路は定かではないが昔誰かに貰った記憶はうっすらとあった。
「もしかして、このペンダントが原因?」
「わからないけど、僕もなんかそんな気がする」
「現に三人共が女性になっている、そして同じ形の色違いのペンダントを持っているのは怪しいところはありますね」
なにかこのペンダントには秘密があるのだろうか。
とりあえず三人はここにいてもらちがあかないと神社を出てみる事にした。