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えろげ狂想曲 前編

ある夏の暑い日。

私は、雑居ビルの4F、探偵事務所に出勤した。

「おはようございます……、あれ、叔父さんいない?」


鍵は空いていたのに、人の気配が無い。

勝手知ったる勤務先。そのままずかずかと入っていく。

どうせ、叔父さんは1階の喫茶店で朝食でも摂っているのだろう。



この探偵事務所には、3つの部屋がある。

一つ目の部屋は、お客さんを応接する、応接室兼執務室。

古びたソファが並ぶ応接セットと、叔父さんの執務用デスク。

壁の本棚には、「それっぽく見える」本が並んでいる。

探偵事務所を開くときに古本屋で二束三文で集めてきた本だ。

二つ目はリビング兼休憩所。

こちらには仮眠用のソファやTV、浮気盗撮用のカメラ等の備品が並んでおり、

叔父さんは、ときどきここに泊まり込んでいる。

三つ目は小さな台所。

給湯室に毛の生えたようなものだが、ちゃんと冷蔵庫とガスコンロがある。

作り付けの棚には小鍋やフライパンも置いてあり、ちょっとした料理はできる。

士郎叔父さんが事務所に泊るようであれば、1Fの喫茶店から野菜やお肉の残りを貰ってきて夕食を作ることもある。



応接間を抜けてリビングに入ると、やたらとゴミが散らかっていた。

机の上にコーヒーの空き缶が何本も散乱しているのは、徹夜明けだろうか。

そして、普段は部屋の隅に置いてあるPS4が、テーブルの上でうぃんうぃん動き、自己主張している。

しかし、繋がったTVは真っ暗だ。


「叔父さん、徹夜でゲームでもしてたのかしら」

そう独り言を言いつつ、TVのリモコンを探しだして電源を入れた。

光がともった液晶の中で、半裸の女の子が恥ずかしげに微笑んでいた。




「あ、いや、雲子ちゃん、これは仕事なんだよ」

「へぇ、仕事ですか。それはずいぶんと楽しそうな仕事ですねぇ」

「ま、まぁ、聞いてくれ」


叔父さんがあわててTVを消して語るには。

この年齢制限付きゲーム『アメージング・デザイア』の始まりは、PC用18禁エロゲだった。

背景に流れる音楽が秀逸で、登場する女の子も可愛いとのことで人気が高まり、

Hシーンを抑えた深夜アニメとして展開されると大ヒットとなった。

そして、PS4用のゲームとして過激なシーンを抑えてリメイクされたそうだ。



このリメイク版の発売に当たり、販促キャンペーンが行われた。


このゲームには、ある『謎』が隠されている。

その謎をとき、キーワードをゲーム会社のサイトに入力すると、

人数限定で、出演声優を交えた座談会のチケットを手に入れることができる。

さらに、今後出てくる予定の新キャラ拡張パッチを一足先に入手できる というものだ。



「で、それのどこが仕事なんですか?」

心なしか、自分の声の温度が下がっていくのを感じる。

「ふふふ、聞いて驚け。

うちのお得意先の真田さん、あそこのニート坊やからの依頼でな、

謎を解いたら貰える座談会チケット、30万で買い上げてくれるそうだ」

30万を現すつもりか、手で指を三本を出して突きつけてくる。


お得意先の「真田さん」は季節ごとに浮気調査を依頼してくる奥さんだ。

浮気調査の結果、8:2くらいでシロ。

半ば旦那の自業自得ではあるが、季節代わりになると依頼が来るので、

かなりの金額が入ってくる。

その伝手から、今回の仕事が飛び込んできたらしい。

ゲームの『謎解き』で50万とは、かなり美味しい商売だ。



「でも、結局のところ抽選とかになっちゃうんじゃないですか?

皆が謎をといちゃって」

「いや、キャンペーン期間3か月のうち、残りはあと1か月。

でも、まだ3人しか正解していないんだ」

となると、かなり難しい謎のようだ。好奇心が湧きあがってくる。

「そういう事なら、私も『謎解き』にチャレンジしてみようかな」

そう言った途端、叔父さんが驚いたような顔をする。

(さすがに、女子がやるもんじゃないかな?)

「これ年齢制限があるゲームだけど」

「そっちか!20歳なので問題ありません。

絶対、叔父さんよりも先に解いてやるんだから!」

売り言葉に買い言葉、私はその日の仕事ノルマを終えると、

事務所に10枚(!)も積まれたパッケージの1枚をバックに詰め込むと、急いで家に帰った。




『アメージング・デザイア』の主人公は高校2年生。

彼がある街に引っ越したところから、物語が始まる。

ゲームは今年(2015)と来年(2016)の、2年間の疑似的な高校生活を行う。

そこで出会った5人の女性と色恋沙汰に発展し、いろいろな経験を積んでいく

 というストーリーだ。



まずは、説明書を読まずに直観勝負でプレイしてみる。

セリフを早飛ばししながらプレイすることおよそ1時間。


うまく「好感度」を稼げなかったせいなのか、過激な濡れ場や絡みは無く、

水着シーンや風呂場の生着替えハプニングがせいぜいだった。

こんなんじゃ、温泉でじゃれあう女子高生のほうがよっぽどエロい。

何のヒントもひらめきも無いまま、淡々と「バッドエンド」を迎えた。


親友と肩を組んで、高校を卒業していく主人公。

「いや、これ普通に難しいよね!?どうやって脱がすんだ?

いや、謎は何処にあるんだ??」


ストーリー上、特に謎っぽいものは見当たらなかった。

登場人物が殺人事件に巻き込まれる事も無く、

学校七不思議があるわけでもなく。


「とりあえず説明書読むかぁ」

とりあえず、萌え絵が並ぶ説明書をめくり読み込むことにした。



ヒロイン一人目は、主人公の幼馴染で同級生『土江 にこ』

主人公が引っ越す前の中学が同じだったという設定。

栗色でさらっさら~の長い髪。

特徴的なアホ毛が跳ね、出るとこが出ているスタイル抜群の正統派ヒロイン。

性格は、嘘が嫌いで誠実な女の子。

誕生日は、12月31日。

キャラクターソングは"Take It Easy"(お気楽に)



二人目は隣の家に住む、妹キャラ『杖村 ほむら』

主人公を「お兄ちゃん」と慕う中学3年生。

陸上部に所属する、赤みがかかったショートカットで男勝りな女の子。

主人公に、ちゃんと「女の子」として扱ってもらった事で恋が芽生えた らしい。

学校が中高一貫校であるせいで、主人公と同じ高校に行く事は確定。

誕生日は、10月31日。

キャラクターソングは"Music Under Rainy Afternoon"



三人目は、ひとつ年上の高校3年生。『角南 香蓮』

黄色の髪の毛をツインテールに纏めている。

身長は全ヒロインの中で最も小さく、なんと140cm台。

さらにバストサイズがAカップ。

水着姿のイラストでは胸元がスカスカ。どう見ても小学生。

ロリコン規制法に引っかからないのか、心配になってくるレベルだ。

彼女は芸術部に所属している。

主人公の「芸術性」能力が低いと芸術を解さない「愚民」扱いだが、

「芸術性」が高くなってきて、自作品についての相談イベント後からは、

一気にべたべた甘えてくる、ある種のツンデレキャラらしい。

誕生日は8月31日。

キャラクターソングは、"A Missing In girl"



四人目は、24歳の養護教員。『利原 あやめ』

巨乳と眼鏡が特徴で、タイトミニから伸びるストッキングの脚が色っぽい。

(ここまでの巨乳は、本当に人類なんだろうか……)

Lカップという、人知を超えた胸元の魔境にげんなりとしてくる。

男女共に人気が高い、お姉さん先生という設定。

誕生日は5月31日。

キャラクターソングは、"Here A Reflesh Area"



最後の五人目。

彼女は海外からの留学生。『クラス=ウェッジウッド』

金髪碧眼、養護教員には劣るものの、かなりのデカ乳プロポーション。

日本語にまだ慣れず、るを「りゅ」、むを「みゅ」とか言い間違える。

それが、人気のもととなっているらしく、トップ人気らしい。

彼女は好奇心旺盛でどこにでも首を突っ込んでくる。

誕生日は3月31日

キャラクターソングは"Golden WOOD"


音楽が話題になるだけあり、彼女たちのキャラクターソングは、

各々の声優が歌い、販売もされているそうだ。



会社のHPにアクセスしたついでに、キャンペーンの特設ページにも目を通しておく。

上の方にデカデカと、現在の正解者数 3人 という表記がある。

今のところ、3人がこの「謎」を解いて正解に至ったのだろう。

かなりの難問であることがわかる。

サイトを見ていくとこの謎解きのルールが書かれていた。



・一人で何回応募しても構わない。

 但し、応募一回につき1つ、特別梱包版に同梱している、シリアルコードが必要になる。

・正解者のカウントは、1日に2回、正午と日跨ぎで更新される。

・正解者が15人を超えた場合、解答者全員を対象とした抽選となる。



「うまい事考えましたね~」

カウントが即時更新ではないので、自分が投入した答えが正解かどうかわからない。

多少強引な手ではあるが、複数回同じ答えを投入し、正解者数が上がっていれば、

それが正解と類推はできるだろう。

但し、その方法はリスクを伴う。


正解者が規定数を超えた途端、正解させることに意味が無くなるからだ。

そもそも、特別梱包版そのものが1万とんで800円もするシロモノ。

正解をさせた人間が居たとしても、確定を確認するためには数万の投資が求められる。

その上、正解を広めようにも、自分の首を絞めるだけ。

転売用に数を確保しようにも、リスクが発生する。


一方で、現に多数購入しているバカが存在する以上、ゲーム会社の方は大儲け。

叔父さんの所から持ってきたゲームは特別梱包版らしく、シリアルコードがくっついていた。

真田さんとこのニート坊やは、こんなことの為に10万も投資したらしい。

(お金はあるところにはあるんですね~。建設的とは言い難い使われ方してますけど)



「さぁて、少し真面目に考えましょかね」

ここまでは、いわば導入部分。

スイッチを切り替えるために、台所に行って作り置きしておいたアイスティーを取りだす。

談話室では男どもが何人か、ビール片手にナイターを見て騒いでいた。


「茹でておいた枝豆があるよ~。「箱」の中にあるから食べて」

「雲子さん女神!」「ありがとう~」

一声かけえると、2,3人がわさわさと冷蔵庫に走り出していく。


その姿をしり目に、私は自室へと戻る。

クーラーの冷気が体に沁み込んでくる。

「さて、本気出しますかね」



そもそも、『謎』が何であるのかが解らないと答えの考えようがない。

このゲームにおける『謎』とはなんだろうか?

(高校生離れしたスタイルについてとか?)

個人的に興味はあるけれど、それは関係ないだろう。


(まだ、明かされていない情報は何か?)

ゲームの進行に応じて、隠されたルートがあるのだろうか?

そこに答えがあるとしたら、ゲームが苦手な私ではたどり着けそうにない。

何十万人という人数でゲームをやりこんでいるのに3人しか見つからないというのであれば、

それは、もはや不可能な謎とみなしても良いだろう。


ヒントを探して公式サイトを見回っていると「新キャラクター」と書かれた場所があった。

「新キャラクター」と書かれたボタンをクリックしてみる。

そこには、一人の女の子のシルエットがあり、大きく「?」が記されていた。

その下には、同級生の新キャラが追加されること、

"Oh my BabE!!""織姫 歌う"の2つの曲が追加されると書かれていた。


(これだ。きっと新キャラに関することが『謎』だ)

頭の奥で直感が囁く。



(まずは、情報収集っと)

ネットで掲示板を回ると、新キャラについての予想板が大量に見つかった。


共通している新キャラ予想は、名前が「織姫」ちゃんということ。


それが何故わかるか?の理由もちゃんと書いてあった。

このゲームのBGMは、月替わりのBGMが用意されている。

各ヒロインの誕生日イベントでは、強制的に月替わりBGMが流れる。

そして、曲名の先頭には、ヒロインの名前が織り込まれている。


例えば、5月の養護教員キャラ『利原あやめ』の場合は、

5月曲の「あやめ ふわふわ」というように。

そのため、誕生日BGMは、第二のキャラソングと呼ばれている。

新キャラクタの投入にあわせ、曲が2つ追加されることが発表されている。

そのうちの片方が「織姫」で始まるために、新キャラは「織姫ちゃん」と予想されるというわけだ。


当然のことながら、「織姫」で謎解きに登録した人間も居たが、ほんとかうそか、失敗しているらしい。



(となると、織姫というわけではないのか?)

まずは、彼女たちの共通項から探っていくか)


「全員が女性」というのは、無視しても構わない。

むしろ、エロゲの攻略対象(ヒロイン)に男性が混じる方が火種になる。


「あとは、みんな誕生日が31日という事かな」

纏めてみると、以下のようになる。


3/31 『クラス=ウェッジウッド』

5/31 『利原 あやめ』

8/31 『角南 香蓮』

10/31 『杖村 ほむら』

12/31 『土江 にこ』


「31日縛りと考えるなら、1/31と7/31が足りないですね」

このどちらかが、新キャラの誕生日なんだろうな。

でも……」


織姫が世に出られるのは、7月7日だけ。

7月31日で代用というのはいまひとつスマートな謎には思えない。

そして、「どっちか」を勘で当てるのは、『謎を解いた』とは言えない。

きっと確定させるロジックがあるはずだ。


(う~ん)

悩みつつ、また新入生のホームページを穴の開くように見つめる。


シルエットを穴のあくように見つめていると、彼女がどんなキャラなのかが気になった。

どうも、女性のシルエットとしては、胸から下あたりにいびつさを感じる。

女性服の中には、ふわふわした形で体型をぼかしてしまうものもあるが、

そういった服や、特殊なユニフォームをきているというより、

立っている娘の下に誰かいるような……



「新キャラは、2人!?」

空いている「誕生日」が2つあること、追加曲が2つあること。

合致する事が多い。


「新キャラは2人、だから新曲が2曲、誕生日は1/31と7/31の両方」

そう考えれば、与えられている情報の全てが必然で解決する。



「あとは、名前まで解ると完璧なんですけどねぇ」

公式ページに載っていた、毎月の歌を確認する。

各月の歌は2曲ずつあるが、共通して1曲目が誕生日曲になっている。

1月は「あけ」、7月は「くる」

「あけちゃんにくるちゃん、くぉぉぉ、これが次世代のキラキラネームか……」

あまりのありえなさに、頭を抱えてしまう。



「次は、苗字か……」

キラキラネームのダメージのせいか、何か考え残しているような気がする。

今日は、もう遅いので寝たほうが良いだろう。

そう思って、少し痛みが残る頭を抱えながら、睡眠についた。




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毎月の歌

1月  あけ おめ

   星 きらきら

2月  はっぴー ばれんたいん!

   おにはそと

3月  クラス に さよなら

   また 会おうね

4月  桜 舞う 季節

   ゆけ ゆけ 新入生

5月  あやめ ふわふわ

   GWの冒険

6月  雨 雨 ふれ ふれ

   うんざり 定期試験

7月  明日 から 夏休み

   夜 の ラブソング

8月  かれん な 盆踊り

   満月 の 海 

9月  きらり きらり 文化祭

   おやすみ おやすみ

10月 ほむら 輝く体育祭

   秋 の ミステリー

11月 紅葉 いろ いろ

   ふゆ が きます

12月 にこ にこ  クリスマス

   ましろ 寒いよ冬



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