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メガネの秘密

作者: むらや

あたしはなぜか、週に3日だけ『メガネ』という名で呼ばれている。

正確に言うと、火、木、金の3日間。

まあ、かくいう今も呼ばれている最中なわけなんだけど。

そういう今日は9月15日の木曜日。

バイトの日である。

給料日まであと10日となり、やる気が出たり出なかったりする時期。


ちなみにあたしは眼鏡をかけていない。

裸眼でヨユーに生活できる視力を持っている。

アンチ現代っ子っぽいので自慢できるステータスだったり。

あ、また呼ばれた。

「メガネ、これどうやんだっけ?」だって。

前にも教えたし。

「F10キーを2回押してから、F9だよ」

「おもいだした」ってあたしが今教えたからじゃん。


あたしのことを『メガネ』と呼ぶのはこのコだ。

学年は同じだけど、あたしは4月生まれで、彼女は2月生まれ。

実際同い年でいるのはたった二月だから、年下のような感覚で接している。

彼女とはこのバイトで出会って、このバイト以外で出会うことはない。

このバイトにはあたしがあとから入ってきて、たまたま彼女と同じシフトになった。

それがまあ、初めての出会いというやつで、それからもうすぐ1年くらい経ついきおい。

研修からなにからだいたいのことは彼女から習い、今は彼女に教える立場になっている。


最初に出会ったときから、彼女は気さくに話してきて、人見知りがちなあたしの対人スタイルも難なく越えられてしまった。

『メガネ』という呼び名はもちろん半強制的につけられ、拒否権も与えられていない。

ぶしつけに人にあだ名をつけてくるやつとか、正直かなりうざくて好きになれないんだけど。

今でもやだし。

強く反発するのもあれだから、まあ、なすがままになってる。


ああ、そもそも何で『メガネ』なのかって、彼女にとってあたしは頭脳派のキャラづけだかららしい。

むしろあんたが直感派なんだよ、と言いたいところだけど、先輩より仕事ができるようになった後輩の名誉の称号だって言ってた。

『メガネ』が?

『ハカセ』的なもんなのかも。

だけど、ノー眼鏡なあたしにその名をつけた彼女の発想はすごく気に入っている。

話していても、嫌いにはなれない。

彼女と仲良くなれない人はたくさんいると思うけど、あたしは彼女と仲良くなりたいと思った。

バイトの仕事はあたしのほうができるけど、彼女はあたしにできないことをあっさりやってのける。

小手先が器用なあたしよりも、生き方が器用な彼女は美しい。

うとましく、うらやましい。

いつもなんだかかんだでトントンと先を越されているような気配を感じる。


そんな彼女は実は10月の中頃にこのバイトを辞めてしまう。

あと一月ほど。

意外にショックだった。

バイト先でしか会わないのに。

けど、今はもうショックじゃなくなった。

楽しいことを見つけたから。

『メガネ』の画策である。

いままで彼女に隠し通したあたしからのサプライズ。

なんて楽しいんだろう。

ほんとは彼女のためのイベントだけど、

これはあたしのためのイベントになってきたのかも。

あたしのための秘密なんだから彼女には黙っていて当然なのだ。


彼女はなんにも知らない。

そしてあたしも、これから彼女とどんな関係になるのか、なんにも知らないんだよ。

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