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余命-6 

■■■過去回想シーン2~はじめ■■■


「魔王よ! この手で、俺の手によって……堕おちよ!」


 勇者は、魔王に剣を振りかざして向かって行った…………。


「ちょっと待て! 勇者よ! 決断するのは未だ早いのじゃ!


 こっちはとっておきの色仕掛けを用意しておるのじゃぞ?


 おぬしの世界を研究してじゃの!? それがなんだか聞いてからでも戦うのは遅くは無いのじゃ!」


 しかし、勇者は振りかざした剣を止めることはしない。


 一気に袈裟懸けさがけで魔王に切りつける。


「…………」


 この勇者は寡黙であった。『でりゃあああ!』とか『くらえっ!』あるいは『くらいやがれぇ!』など、気合十分で雄叫びをあげながら切りかかってもよさそうなものなのじゃが……おっと失礼、魔王の口調が移ってしまったのじゃ。訂正:切りかかってもよさそうなものだったのだが、瞳に決意の輝きを満たしたまま、無表情に切りつけた。


「待てと言っておるに! 魔杖! イントラビヌーズ・トロップフロナーデル!」


 魔王は、仰々しい長い杖をどこからか取り出し、勇者の振るった剣を受け流す。


 勇者は、そんな魔王の防御に狼狽するでもなく、二撃目、三撃目を繰り出す。


 防御に徹しながらも魔王の勧誘は止まらない。


「コスプレ……、コスプレを用意したのじゃぞ! 最先端の風俗事情を研究したのであるぞ! コスチュームも各種取り揃えておるのじゃぞ!


 おぬしの好きな衣装を纏った儂と、あれやこれやできるのじゃぞ~~っ!」



■■■過去回想シーン2~おわり■■■




「おいっ! 起きろ! 絵里紗えりざ!」


 かおるが、絵里紗のベッドの脇に来て絵里紗の肩を揺さぶる。それでも絵里紗は起きない。いっこうにに起きる気配がないので、薫は仕方なく、頭をぶち割る勢いでどやかした。


 絵里紗の頭ががくんと揺れる。それと同時に、絵里紗の頭から生えた第三、第四の耳がぴょこぴょこと動く。


「う、う~~ん。な……、なんじゃ? 検温の時間か?」


「検温は終わっただろう? それにしてもお前、またうなされてたぞ? コスプレがどうとか……」


「それは、あれじゃ。先日、魔界征服を目論む儂を滅ぼしに来た勇者にいじめられたトラウマが脳内を駆け巡っていたのじゃろう……」


「なんで魔王対勇者の戦闘シーンでコスプレの話がでてくるんだよっ!」


「それは、常日頃から勇者の派遣元の世界の風俗事情の研究を怠らない儂の成果の結露である。コスプレではなびかん勇者もいることだしな。そろそろ儂も人妻として、色香を手に入れる方向に進むべきか……?


 で、なんじゃ? まだ昼飯には早かろう? 検温の時間でもないとすれば、体力回復のために昼寝、惰眠だみんをむさぼる我をわざわざ起こすような……、はっ! まさか……!?


 儂の寝姿ねすがたを見て欲情したのじゃな!? それで夜這よばいを試みて、夜這いでは飽き足らず、SでMなプレイへと……」


 そんな絵里紗の独りよがりな空想には薫はまったく反応せず、


「お客さんだよ」


 と薫が言った。


「客? とな?」


 絵里紗も薫も院内学級であるひ陽だまり教室には今日もドクターストップで行けていないのだが、時間割的には休み時間。1時間目と2時間目の間の休憩時間であった。


 絵里紗は病室の入り口に目をやった。そこにはパジャマ姿の小さい少女が立っている。

「おお、これは、唄音うたねではないか?」


 唄音と呼ばれた少女は、


「おはようございます、絵里紗お姉さま!」


 と丁寧に挨拶した。


「おお、天性のロリ気質である薫の一推しメンの、ツインテールが可愛い唄音がこの儂の居城になんのようじゃ?」


「そういうことを口に出して説明すんじゃねえ! 誤解を受けるだろうが! 俺が唄音ちゃんを可愛いと思っているのは、ロリとか性的な視点からではなく、美術品や、小動物をでる至極しごくまっとうな感情からのことなんだっ!」


「ロリは黙っておれ! 唄音がこの病室に来たのは、儂か、薫か、どちらかに用があるからじゃろう? そして、寝ている儂がわざわざ起こされた……、つまり、唄音の用件はこの儂に向っておる!


 名推理じゃて! 今からでもこの作品のジャンルを推理に変更すべきじゃて!


 しかるに、唄音よ? 一体何の用なんじゃ?」


 唄音は少しもじもじしながら、


「あのね、絵里紗お姉さま……、


 唄音……折り紙折りたいの。前に教えてくれたでしょ?」


「折り紙……であるか?」


「だって、前にも教えてくれたじゃん! あれ……あのお花の折り紙、お母さんがすっごいね! 唄音ちゃん上手だねっ! って褒めてくれた……」


「そうかそうか……。あのちり紙丸めたような代物しろものでな……。


 唄音の母上はそうとう社交辞令の才能に満ち溢れておるのじゃろうな」


 小1の少女に、臆面もなく毒を吐く絵里紗だったが、唄音はきょとんとしていた。あまり意味が分からなかったらしい。


 それを、301号室きっての常識人と名高い薫が、わざわざ解説する。


「お前は、なんていう酷いことを言うんだ! 唄音ちゃんに向って!

 

 そりゃあ、折り紙ったって、唄音ちゃんの折った奴は、どこをどうとってみても花には見えなかったし、不器用にもほどがあるっていうか、ほんとに鼻をかんで丸めたティッシュにしか見えなかったが……。


 それに、そういうのを見ても、一応は称賛してやるのが親心ってもんだろう!? 


 親子の間に社交辞令なんてまだ存在しねえぇよ! クソみたいな造形物であれ、親は喜ぶもんだ。それも小学校の低学年なんかが作ったもんならな!」


「お前の言っていることは、ある意味では的を得ておるが、それを本人を目の前にして口にするのはどうかと思うぞ?」


「お前に言われたくねえ!」


 どっちもどっちである。唄音ちゃんが相変わらずきょとんと――薫の早口な捲し立てで、内容はあまり理解できなかったようなのが救い――いた。


「唄音、鶴さん折りたいの! 絵里紗お姉さま折れる?」


「ああ、鶴などお安いごようじゃて。しかし、唄音、もう二時間目が始まる時間ではないか?

 鶴は今度折り方を教えてやるからの。今日は、お勉強を頑張るのじゃ。


 そうじゃのう?


 今日の夕方、いや、折鶴は明日教えてやろう」


「ほんと!?」


 唄音の顔に笑みが広がった。


「ああ、約束じゃ!」


「ありがとう! 絵里紗お姉さま!」




 唄音が帰って再び絵里紗と薫のふたりきりになった室内。


「ったく、絵里紗さっさと起きて、それから訳のわからん方向に話をもっていかなかったら折鶴くらい、今教えてやれただろう?」


「話の腰を折ったのは、薫も同罪である……。それにな……」


「ん?」


「余は、折鶴の折り方など知らんのじゃ!」


「あ、そう……」


「だから、明日までに、折鶴の折り方を儂に教えるのじゃ」




 勘の鋭い人なら、お気づきかもしれませんが……、勤務する看護師を除いて、余命的な問題を抱える登場人物が多いこのご時世。


『明日まで』……。その言葉には悲しいフラグが成立しうる可能性が高かったり、激高だったり……。明日が来るとか来ないとか……。

なお、今回のサブタイトルは「ケモミミ事変」でした。

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