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余命-5 

「あたし……女の子になっちゃったみたい……」


 恥じらいの表情を見せるのは武田さんだ。はっきりいって気持ち悪い。見た目はおじいちゃんそのもの。ただし巨乳である。


「はじめまして、僕小比券巻こひるいまきかおると言います」


 薫は丁寧に挨拶した。武田さんとは初対面であるからだ。薫は心底丁寧な少年なのだ。

「武田の……、あの時は済まなかった……」


 絵里紗えりざが武田さんに詫びた。あの時というのは、武田さんが生死の境を突然さまよい始めたあの時だ。


 さっさとナースコースを押せばよかったのだが、それは叶わなかった。


「逃げちゃだめだ……」という絵里紗の三十分にも渡る精神集中の呪文も、昔風に言うなら、


「儂がナースコールを一番うまく使えるんじゃ!」

 という、ナーバスな台詞も……、時代を新しくすると、

「ナースだけでも、コールだけでもダメなのです」という歌姫の言葉の改ざんも、

 さらには、

「儂がナースコールじゃ!」も、

 最新シリーズでは、名言が少ないみたいで、

「(ナースコールを押すことを)強いられてるんじゃ!」

 と、いろいろぶつぶつと言っていたが、結局ナースコールを押すことはできなかった。

 が、そこは病院である。武田さんには、バイタルをチェックする端末が取り付けてあった。血圧とか脈拍とか体温とかが通知されるのだ。それがアラームを鳴らした。


 おそらく、ナースステーションなりどこかで、


「パターンレッド!! 危篤です!!」


 のような、周囲を混沌に陥れる呪文がそっと呟かれたのだろう。


 すぐさま看護師さんが駆けつけてきてくれた。




「まあ……元気になってなによりなのじゃが……。何故に女体化しておるのじゃ? 武田よ?」


「あ、あたし……、女の子になっちゃったみたい!」


 どことなく武田さんは嬉しそうだ。


「いや、それはさっき聞いたんですが……」


 本来老人にとって、その話は既に聞いたというのは禁句である。禁句ではあるが、薫はあえてその言葉を使った。使ってみた。そうでもしないと話が進まない。


「なるほど……、武田は、所謂男性の大事な部分に悪性の腫瘍があって、入院しておったのじゃが、それが悪化して、すぐさま切除手術が必要になったわけなのじゃな?

 男性を象徴するシンボルを根元から切り落とすほどの病状だったと?


 そして、その後の投薬の副作用なりなんなりで胸まで大きくなりおったと?」


 そういったところの癌について調べてみるといい。今初めてそんなところに癌なんてできるのか? と調べてみたら高齢者に起こりやすい病気という記述があったので都合がよかった。副作用で胸が大きくなる薬についてはおそらくねつ造です。


「夢が叶ったんです!」


 武田さんは声を張り上げた。続けて熱弁を振るう。


「異世界転生ものとか、好きでよく読むんだけど、TSってあるじゃないですかぁ? 憧れてたんです! 折角転生するんだったら、一緒に女体化したかったって!


 これであたしも、TS主人公の仲間入りです!」


 年に似合わず武田さんはそんなものを読んでいたらしい。

 だが、絵里紗はそんな武田につれない。


「確かに女体化はできたようじゃがの。時既に遅しじゃ。儂と異世界で戦っていた頃ならいざ知らず……、そもそもおぬしは主人公ではないではないか? それに、見た目はただの老人、おじいちゃんであろう?


 これでは……、この先いかなる物語も待ち受けておらぬじゃろう……」


 とばっさりと切り落とす。


「そ、そんなぁ……」


 とがっくり肩を落とす武田さん。


「あたし……これから……、この体になった葛藤とかと戦いながら、もともとは男であった利点とかも生かして、がっつり主人公になって魔王とかをやっつけたり世界に平和を取り戻したかったのにぃ……。それでいて、徐々に内面的に女の子になっちゃって、薫くんとかと恋におちたかったのにぃ……」


 と、目から大粒の涙を流しながら武田さんは泣いた。


 そんな武田さんを見て、


「俺……、武田さんと恋には堕ちれないけど……、応援しますよ!

 武田さんがこの先、病気を治して、素晴らしい女体ライフを満喫しながら、物語の中心人物として返り咲くこと!

 俺は見た目がまるっきりおじいちゃんで無駄に巨乳なだけの武田さんのことは好きになれないけど……。


 そりゃあ、残りの期間は短いかもしれないけど……、でも武田さんはもう既に女子としての台詞回しとか身に付けちゃってるじゃないですか! 大丈夫なんとかやってけますよ!」


 薫が励ました。


「うん、あたし、頑張るね!」


 そう言い残して武田さんは二人の居る病室を後にした。




「薫よ、何故あんなことを言ったのだ?」


「なに?」


「武田はもう長くはないのじゃぞ? 悪性の腫瘍を根こそぎ切り落としたとしても……、もはや手遅れ。全身に転移してしまっておる。遅かれ早かれ……などという言葉を使うまでもないな。武田の命はもはや燃え尽きる寸前。ここに来れたのが奇跡なぐらいじゃぞ?」


「そんな……、今日死ぬか明日死ぬか……、それとも明後日死ぬかなんてわからないじゃないか!? それならわずかでも……残りの時間を大切に……」


「綺麗ごとじゃな……。それに武田も知っておったじゃろう……。奴も元勇者の端くれ。一般人よりかは、異世界の感覚には優れておる。薫には見えなかったじゃろうがの。

 

 武田の背後にずっと付きまとっていた死神。あれはあと何日も生きる人間の元には憑りつかん」


「…………」


 薫は答えなかった。


 そして、その晩、武田さんは息を引き取ったらしい。が、ともに病状が悪化して、意識を失いながら高熱でうなされていた絵里紗と薫の元にはその知らせは届かなかった。

なお、今回のサブタイトルは『T「これでよかったのか?」S「…………」』でした。

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