恋をしようよベイベ
なんとなく書きたい気分になったので書きました。
久しぶりだし読み返してないので、キャラとか設定とか変わってると思いマフ。
「薫よ。
儂と恋をせぬか? いや、儂と恋をするのじゃー!!」
「なんだよ! いきなり!!」
ここはとある地方都市、末矢代市。どこの県かはあえて触れない。とにかく地方の一市町村のひとつ。そこにある市民病院的なところの、小児病棟。そこの一室。
部屋の住人は二名。絵里紗と薫。男女同室ではあるが、仕切りのカーテンもあることだし、病棟に中学生は二名。いろいろな事情と都合が相まっての部屋割りなのであった。
絵里紗は中学2年生くらいの元魔王の病弱少女で、薫も元勇者で中学2年生ぐらいの病弱少年だ。
絵里紗は年齢的には3年生で、一年ほど意識不明で寝ていたことがあるので、一歳ほど年上だったかも知れない。まあそんな感じです。
「いきなりではないぞ。恋というのはな、パンを加えて曲がり角からでぶつかることから始まるわけじゃ。ということで、ちょうど朝食が運ばれてきておる。
これを利用しない手はないわけなのじゃー」
「お前の朝食は、10分粥で、俺の朝食は点滴なのだが?
パンなんてどこにも、ひとかけらも存在しねえ。
あと二人とも絶対安静を言い渡されているから、病室から出ることなんてできないぞ?」
「そこはそれじゃ。
儂が粥をすすりながら、そこベッドの角を曲がることにするわけじゃ。
なので、薫は点滴チューブを引きずりながら反対側の角から飛び出してこい」
「ちっ、しゃーねーな」
薫は案外と素直に受け入れた。暇つぶしがてら、絵里紗のわがままに付き合うのは日常茶飯事である。茶飯事とは、茶や飯を喰らうことが日常的だということから生まれたたとえだとは思いますが、薫の日常を鑑みるに、茶も飯もここしばらくはとんとご無沙汰なので、日常点滴時というのが正確なのかもしれない。
点滴によって生かされている身に感謝。
絵里紗がゆっくりとベッドから這い降りた。薫もそれにならう。
その挙動はどうみても、ゾンビ、あるいは死霊的ななんともオカルティックで不気味な光景だったが目撃者が居ないのが幸いである。
二人ともこう見えて、40度ちかい熱があるので、ベッドから降りるということはそれは大層難事業なのである。
「し、しまったのじゃー!!」
「どうした絵里紗!?」
「粥を、粥を忘れたのじゃ。
儂の体力では再びベッドの上に昇って粥を取ることは至難の業。
粥を、粥を忘れてしまっては、パンを咥えて曲がり角でぶつかるイベントフラグが立たないではないか。
すまぬが、薫よ。儂のベッドの上から粥の椀を取ってくれぬか?」
「自慢じゃないがな。俺ももう自力でベッドの上に戻ることはできないだろう。
なにせ体力が残っていない。軽く頭を持ち上げただけでくらくらとして意識を失いそうになるからな!!
というか、予定ではそこの角まで這っていってそこでぶつかる手はずになっていたはずだが、それすら困難だ。手に、足に力がはいらないよ。もう、僕疲れたよパトラッシュ」
「か、薫! パトラッシュなぞいないぞ!
それは幻覚じゃ!!
天使とともにお迎えなぞ来ておらん。
気を、気を確かに持つのじゃー。
こうなれば、儂が……、儂が薫のところまで這って行って、正気に戻さねばなるまい。
じゃが……、手に、足に力が入らないのじゃー。
見える、見えるよ。儂にも見えるのじゃー。
ああ、パトラッシュ……」
その後、朝食の食器を下げに来た二人を発見した看護師様が、もうこんな事態は慣れっこだとでもいうように二人をひょいとベッドに戻して――碌な食事ができないから二人とも標準体重と比べて異常に軽い――、何事もないいつもの平和な午後がやってきましたとさ。