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キラの戦い #2

「楽しいなあ……。


 でも、やっぱり……楽しいねえ……」


 気味の悪い笑みを浮かべながらキラくんは立ち上がった。


 ちなみに、キラくんの主観からすると、――実際にそんなものは居ないのだが――キラくんの肩には、キラくんに付きまとう精霊が乗っていて、


 キラくんが、


「楽しいなあ……」


 と言うと、


 精霊が、


「あんた、ちょっとは自分の体のこと考えなさいよ!

 

 ただでさえ病弱なんだから!


 手加減している場合じゃないでしょ!


 下手したら死んでたよ」


 と言って、キラくんが、


(そうか……、死んでたか……)


 と心で思って、それから、


「でも、やっぱり……楽しいねえ……」


 と言うという設定だ。もちろん精霊なんてキラくんの頭の中にしか存在しない。


「なに? まだやろうって言うの!?


 あなたの力じゃあたしを止められないのはわかったでしょ」


 と、エルーシュはキラくんを無視しようとする。


 だって、気味が悪いから。


 だが、キラくんは、


「俺が?


 あんたを止められない?


 はあ?


 何言ってんの?」


 と強がる。いや、強がりではない。


 その証拠に。


 キラくんはパジャマを脱ぎだした。


 その下にはちゃんとタンクトップを着ている。


 小4とはいえ、男子とはいえ児童ポルノ禁止法の原則にのっとれば、ここで上半身裸になってしまうのは問題なのだ。児童のポルノになってしまうから。

 だからキラくんはちゃんとタンクトップを着てきていた。


「このままでもなんとかなると思っていたけど……。

 

 やっぱり甘かったか。


 しばらく入院していると思ったより体がなまってやがる」


 キラくんのいうしばらくの入院とはキラくんの生まれてこの方を意味する。

 が、それはそれとして。


 キラくんはパジャマの上着を無造作に床に放る。

 ズサっと重い音が響く。


「上着だけで60キロある」


 そう呟くと、キラくんは今度はズボンも脱ぎ始めた。

 純白のトランクスが露わになる。

 だが、安心してほしい。

 キラくんはいまどき珍しいブリーフ派だ。

 ブリーフの上から、見られても大丈夫なトランクスを履いているのだ。

 だから、これはパンツ一丁という描写ではない。いわば水着と同じ。

 児ポ法には触れない。


 キラくんがズボンを床に落とすとまたしてもズサっと重い音が響く。


「ズボンは48キロ。これは女子柔道選手の軽量級の体重に匹敵する」


 つまりキラくんは何がしたかったかというと、上着は60キロ、ズボンは女子柔道選手一人分の重しを背負って戦ってたんだよ、まだ本気じゃないんだよ、俺の力はこんなもんじゃないんだよのアッピールである。


「さあ、死神のお姉さん!

 

 延長戦を始めようか!


 今度は手加減なしだ!」


 そういってキラくんはエルーシュに襲い掛かる。


 で、返り討ちにあった。

 またしてもぼっこぼこ。ふるぼっこだ。


 どうにも、エルーシュのスピードにキラくんはついていけていないようだ。

 それも仕方ない。

 冥界の基準で言えば弱小の部類には入る死神のエルーシュでも人間として考えるなら人類最強クラスの、ある意味漫画やアニメの最強キャラくらいの強さを持っている。

 一介の小学四年生の手におえる相手ではない。


 が、キラくんはまた立ち上がる。ゾンビのようだ。

 それに、キラくんはまだ力を隠していた。

 2段階、3段階と己の力を明らかにしていくことに喜びを感じているのだった。


「やれやれ……」


 とキラくんは呟く。もう自分の世界に入り込んでしまっている。


「死神とはいえ女の子が相手だ。


 使いたくは無かったがね。


 披露しよう。


 俺の真の力を」


 そういうとキラくんは体に闘気を纏った。

 先ほどまでは攻撃する際、そして防御の際にピンポイントでしか纏わなかった闘気を全身に纏った。

 それによりキラくんの身体能力は格段に強化される。


「明日の筋肉痛が怖いが、どうやらそんなことは言ってられない状況だ!


 唄音うたねは俺の妹も同然なんだ。


 絵里紗えりざ姉ちゃんも、元勇者のかおる兄ちゃんもいない。


 そんな今……。


 唄音を護れるのは俺だけなんだ!」


 とエルーシュに跳びかかる。キラくんは若いので筋肉痛が翌日に現れるタイプのようだった。ある程度の年になると筋肉痛は翌々日に現れる。若いっていうのはそれだけで宝物だ。

 あと、唄音とか絵里紗とか薫って誰なんだよぅ! って気になった人は本編もよろしくお願いします。


 両者の戦いは互角だった。パワーも互角。スピードも互角。

 病院内の廊下で激しく打ち合う。渇いた音だけが響き渡る。

 

 キラくんがパンチを放てば、エルーシュがそれを受け止めて蹴りを返す。

 吹っ飛ばされたキラくんは、壁を蹴って再びエルーシュに拳を打ち込もうと画策する。

 そんなある意味では見ごたえがあり、ある意味では予定調和で時間稼ぎのような戦闘が続いた。


 だが、その均衡が破られようとしていた。

 すっかり台詞の少なくなっていたエルーシュが戦いながらも、


「このあたし相手に体術で互角以上とは人間にしては良くやったほうだよ。


 オーラを身に纏い攻撃する近接戦闘タイプ?


 アタリだよ。


 だけどね、あたしの力はそれだけじゃない!


 読み違えたね! 坊や!」


 と、エルーシュのこめかみあたりに魔力が収束する。

 エルーシュは、キラくんの両腕を掴む。逃げられないように。


 エルーシュの額から光の矢が放たれる。照準はキラくんの眉間。

 

 キラくんの眉間に細い穴が穿たれた……。


 即死だな……。


 エルーシュはため息をついた。

 魂を集めるのが役割の死神とはいえ、任務を邪魔してきたのが悪いとはいえ、後味が悪い。

 目の前の少年の顔からは表情が消え、光が消えている。


 掴んでいた手をそっと離した。キラくんの体は床に崩れ落ちるかに思えた。


 だが、眉間を、脳を貫かれて絶命したはずのキラくんの目に輝きが戻る。


「言い忘れたがな、


 オーラを身に纏い攻撃する近接戦闘タイプ。それは間違いない。


 だけど、それだけじゃない。


 魔力を使った遠隔攻撃を隠し持つ。切り札は別にある。


 そう言うタイプだろう!


 それは俺も同じだ!


 食らえ! ラストリゾート!!」




 最後に立っていたのはキラくんだった。

 エルーシュはキラくんのラストリゾートで戦闘力の全てを奪われてしまった。


 キラくんは、ぽつりとおかれた『破邪の鎌』に近づいていく。


「これか? そもそもの元凶は。


 悪いが……。


 これをそのままにしておくことはできない。


 武器破壊!」


 と、『破邪の鎌』を粉々にした。


 そしてエルーシュに向って告げる。


「相手が悪かったな。


 命までは奪らねえよ。


 それに……、あんたごときにそこまでの価値もないだろう。


 帰ったら伝えてくれ。


 俺を倒したかったらもっと歯ごたえのある奴を連れて来いってな」


 それだけ吐き捨てるとキラくんは病室に戻って行った。ちゃんとパジャマを着て普通の恰好に戻ってから。


 残されたエルーシュが叫ぶ。


「もう、なんなのあのコ!


 おかげで任務が台無しじゃない!


 しかも、『破邪の鎌』まで壊されるし……。


 帰ったらこっぴどく叱られるわね……。


 あ~もう! いやんなっちゃう!」

別作品だったのでご存知ない方もいるかと思って追加した番外編でした。


数日中に番外短編『権藤婦長の憂鬱』を追加更新スル予定だったり、

企画倒れになったりします。


ではでは。

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