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キラの戦い #1

『小4が厨2で何が悪いかっ!』からの転載となります。

既読の方はスルーしてください。


また、数日中に、どこに需要があるかさっぱりわからない番外短編、

『権藤婦長の憂鬱』を執筆して追加スル予定です。

「まったく面倒なことをしてくれたもんだわ」


 闇に降り立った死神。

 真っ黒なマントを身にまとい、ここ末矢代まつやしろ市の市民病院的なところの集中治療室の前の廊下に降り立った。


 死神の名はエルーシュという。冥界からの覇者。

 冥界から、輝きの強い価値のある魂を集めるという役割を与えられている。


 魂は放って置くと輪廻転生、つまり生まれ変わりの種となって人間界で循環する。

 しかし、利用価値の高い、エネルギーを多く秘めた魂は死神に回収させて、自らの世界の発展に使おうというのが、冥界の思惑である。


 現世界――地球と言うごくありふれた惑星で根づいた文化を持つ人々――にも、冥界の存在や意図を知るものは少数だがいる。


 だが、多くの人々は冥界や死神の存在を知らぬまま過ごしている。

 普通ならばそれで問題ない。冥界の意向に沿うような価値の高い魂はそうそう存在しない。

 その時は死神たちは質の低い魂を無差別に乱獲する。輪廻の輪を絶つ。

 絶たれた当人たちからしてみれば、迷惑な話だが、そもそも冥界が人間の魂を狩り始めたのは、人間が文化というものを手に入れつつあった太古までさかのぼる。


 いわば、共存してきたのだ。冥界側からの一方的な寄生によって。


 輪廻すべき魂を失った人間界は、新たな魂を生み出していく。冥界からの干渉があったところで、人間の数、魂の数は減ってはいかない。

 ただ、高濃度に圧縮された優れた資質を持つ魂が存在しづらくなっていくだけである。

 そのことに気づいている人間なぞ限りなくゼロに近い。




 見た目的には20代前半のグラマラスな女性。

 マントに包まれていてプロポーションは定かではないが、男好きのしそうな目鼻立ちの整った顔。若干カールした長く黒い髪。

 死神、エルーシュは手に持った大きな鎌を見て呟く。


「はあぁ、プレッシャー……だわね。


 冥界でも持ち出しの難しい、この『破邪の鎌』の使用許可が下りるなんて。


 まあ、結界を張ったのはなんでも魔界を統べていたものの成れの果てらしいし。


 でも緊張しちゃうわ。


 傷つけちゃったら始末書じゃすまないものね。


 さっさと片付けて帰りましょ」


 エルーシュが手にしているのは、見た目も大きさも死神にぴったりの大きな鎌である。

 黒く長い柄に鋭く光る半月型の刃がついている。どこにでもいる死神が持っていそうなどこにでもある鎌だ。


 エルーシュの任務は至極簡単だ。

 とある少女――余命いくばくもない――の魂を冥界に持ち帰ること。

 少女の魂の価値はものすごく高かった。是が非でも手に入れたいと思わせるものだった。

 簡単な任務だと思っていた。だが違った。

 少女を護る結界が張られていたのだ。


 結界は冥界の存在を受け付けない。

 強力な結界だった。

 なんでも、元魔王が気まぐれに張ったらしい。

 報告に帰った冥界でそのことを聞かされた。

 エルーシュの力では到底破ることはできない強固な結界。


 自分とは別のもっと力のある死神が遣わされるかと思った。

 だが、現実は違った。

『破邪の鎌』……。

 結界を破る力を持った驚異のアイテムが自分に貸し出されたのだ。

 これを使って結界を破り、少女の命を持ち帰るのがエルーシュに与えられた任務だ。


 目当ての少女は扉一つ挟んだ目の前の部屋でその命を失おうとしているはずだった。

 それを少し早めるのが死神の役割。

 そして、魂を持ち帰る。

 簡単なお仕事のはずだった。


 が、一人の少年がエルーシュの前に立ちはだかる。

 いつからそこに居たのだろう。

 パジャマ姿の少年がドアの目の前に立ちふさがっていた。


 少年は吠える。大声ではなく淡々と。


「初めまして、死神さん。


 へ~、死神ってそんな姿をしてるんだ。


 見れて良かったよ。


 何事も経験だからね」


「なによ? あんた?」


 エルーシュはついつい普通に尋ねてしまった。


 そして後悔した。この少年……、いろいろと痛々しい。


 少年は左目に手を当てて、


「冥界の影響か……、邪気眼が疼きやがるぜ……」


 とまず一声。先制パンチだ。

 もちろん少年は、邪気眼など持っていない。

 病弱ではあるが、両目共に視力2.0を超える健眼の持ち主だ。


 さらに少年は言う。


「俺のことは……そうだな。


 人は俺を、『病弱の閃光』と呼ぶ」


 と、自分で付けた二つ名で名乗りを上げた。


 それから結局、誰に言われるでもなく進んで本名を名乗る。


「俺の名はキラ!

 闇より生れ落ち、闇を愛し、それでも光の希望を忘れない、

 この世界を混沌より救う、光の申し子だ!」


「あのね、ボク、ちょっとそこどいてくれないかな?


 お姉ちゃんね、お仕事があるの。


 坊やと遊んでいる暇はないのよ」


 とエルーシュは軽くいなそうとする。


 が、キラくんはさっと手を振り上げたかと思うと即座に振り下ろす。


 真空の刃が放たれた。エルーシュの頬をかすめる。

 エルーシュの頬に5センチほどの切り傷が刻まれた。


(なに? このコ。死神の体を傷つけるなんて……。

 

 しかも遠隔攻撃。エレメンタル使いなの?


 まさか、こんな小さなコが!?)


 エルーシュは頬に出来た傷を押さえながら戸惑った。

 聞いていた話と違う。


 結界を張った魔王は、力を使い果たして眠りについているということだ。

 結界以外にはなんの障壁もないはずだった。

 だからこそこの任務は自分に与えられたのだ。


 だが、目の前に立ちふさがる少年は、その力は……。


(ううん、大丈夫。


 ちょっと痛々しくって能力を持つコみたいだけど……、


 大したことはないはず。


 あたしの力で排除できるわ)


 エルーシュは冷たく言い放つ。キラに向かって。


「ごめんね。お姉ちゃんね、君と遊んでいる暇はないのよ。


 ってか、そこに居たら邪魔だから……。


 おどきなさいっ!」


 と、鎌を一閃する。


 鎌から放たれた衝撃波がキラくんを襲う。


 だが、キラくんは気合一番。


「かぁっ!」


 と衝撃波をかき消した。


「その程度の攻撃で俺を止められると思うなよ。


 見くびって貰っちゃ困る。


 こう見えても戦闘経験は十分に積んでいてね。


 死神さん、本気で掛かってこないと俺は倒せないよ?」


 と挑発するパジャマ姿のキラくん。


 エルーシュは覚悟した。

 確かに少年の言うとおり。手加減して勝てる相手ではない。

 今繰り出した一撃。

 出力を押さえていたとはいえ、冥界屈指のアイテム『破邪の鎌』から放たれる衝撃波だ。

 それを気合だけでかき消すとは相当の手練れだろう。


 どうする? 出力を上げる? いや、それでは結界を破る際にエネルギー不足になってしまうということもありうる。


(あ~、なんかめんどくさいのに当っちゃったわね。


 だけど、やるしかないのか……)


 エルーシュはそう決意するとマントを脱ぎ捨てた。

 黒いボンデージに包まれた肢体があらわになる。やっぱりグラマラスだった。


 キラくんは、そんな悩殺ボディを見ても眉一つ動かさない。

 おてぃんてぃんもおっきしない。


 ただ、冷静に、


「なるほど。オーラを身に纏い攻撃する近接戦闘タイプか。


 なら僕と一緒だね。


 体術勝負、受けてやるよ!」


 とエルーシュに対して間合いを詰める。


(こいつ! 一瞬で見抜くなんて……!)


 初撃はキラくん。全身全霊の力を込めていそうな右フック。

 もちろん拳には闘気が込められている。

 当たれば致命傷。

 エルーシュは軽く鳥肌を覚えた。


(だけど……)

 躱せないスピードではない。


 バックステップで下がるとキラくんの右こぶしの余韻の風圧がエルーシュの前髪を揺らした。


(やっぱり、威力だけは半端ない。


 んっとに、面倒な任務を押し付けられちゃったわね)


 今度はエリューシュのターンだ。

 キラに蹴りを打ち込む間合いを取る。


 おそらく小学生くらいであろう少年と、自分ではリーチの差がありすぎる。

 こっちは安全圏でも、あっちは危険域な間合いというものが存在する。

 そして、エルーシュの得意とするのは連続して蹴りを放つ脚術。

 もちろんひと蹴りひと蹴りに闘気を込めている。

 通常の蹴りの何倍もの威力を持つ。


 ぼっこぼこにしてやった。

 エルーシュは蹴りだけで、キラくんをぼっこぼこにした。

 自分でも大人気ないと思った。

 だけど死神なんだからしょうがないじゃない。というのを言い訳に。

 任務なんだから、好きでやってるんじゃないのよと自分に言い聞かせながら。


 とにかくぼっこぼこに蹴って蹴って蹴りまくった。

 キラくんは反撃してくることはおろか、躱すこともできなかった。


 ぼっこぼっこになってキラくんは床に倒れ込んだ。


「ごめんね、お姉ちゃん行くからね。


 なんか……、こんなこと言うのもなんだけど……、


 体だけは大事にしてね。


 なんの病気だか知らないけど。


 ここに入院してるんでしょ?


 頑張って長生きしたらいいこともあると思うから」


 エルーシュは床に這いつくばるキラくんにそう言うと扉へと進む。


 だが、キラくんは終わってはいなかった。

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