表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/36

余命-∞

「世界征服の……、儂の魔王としての復帰第一歩は院内学級の制覇からじゃ!」


 病室内に、絵里紗えりざの叫びと、その間に続く咳とか嗚咽とかがこだまする。


 可読性の問題から、咳や咽返りについては省略したが、あえて文字にするならこういうことになる。


『ゴホっ、ゲホ、ゲボォエェェ、せ、ゲホ、せかい、ゲホゲホ、せい、ング、ふくの……、ガハァッ、儂の……』


 意味と需要が無いので最後までは書かないが。


 それをぼんやり眺めているのは同室の病人、かおるである。


「…………」


 もはや、絵里紗にかける言葉は見当たらない。


 だが、絵里紗はかまって欲しそうに薫をちらちらと眺める。


 仕方なく、薫は絵里紗に付き合ってやることにする。


「お前なあ、いいか?


 指摘すべき点は3つだ!


 ひとつめ!


 咳き込み過ぎ!


 ふたつめ!


 お前は、この病室を掌握したつもりだろうが、俺にはそんなつもりはさらさらない。


 お前の復帰第一歩はこの部屋の制覇からだっ! 課題は山積みだ。


 まずは、俺を倒してから言いやがれ!


 また、魔界での時のように、一瞬で打ち破ってやろう!


 それから、みっつめだ!


 検温の結果。


 40度も熱がある状態で、院内学級への登校なんて認めて貰えるわけないだろう!


 大人しく寝てやがれ!」


 そう吐き捨てる薫であったが、彼自身もここ数日の間、40度前後の高熱がコンスタントに続いている。


 高熱オリンピックがあれば、長距離ディスタンス部門でも瞬間高熱部門でもなんでも金メダリストになり放題なぐらいだ。


 懸念事項があるとすれば、絵里紗の存在。彼女の存在が高熱オリンピックで薫に立ちはだかる最大の障壁となるだろう。


 それはさておき。


「儂は……、今日は院内学級に行かねばならんのじゃ!」


 と絵里紗は決意の炎を燃やしている。


 薫は、これ以上関わるのはよそうと布団を被って寝ようとした。


 だが、絵里紗がそれを許してくれない。


 絵里紗は、


「気にならんか? 儂が院内学級に行きたがっているその理由。


 なあ、聞いておいて損は無いぞ?」


 と薫にしつこく迫る。


 仕方なしに薫は、


「なんだよ、聞いてやるよ。


 院内学級で何があるってんだ?


 イベントか? 今日は……、何日だ?


 特に何もないだろう?」


「ふ、ふ、ふ……」


 と勝ち誇ったように絵里紗が笑う。


 一旦咳き込んでから、


「ふあっ、はっはあ」


 と魔王っぽく笑いなおす。


 もう一度咳き込んでから、


「聞いて驚くなよ、薫……。


 なんと、院内学級に新しい生徒がくるらしいんじゃ!


 しかも三人」


「何ぃ!」


 と薫は布団を押しのけて飛び起きた。上半身だけ。

 ベッドから降りるのは今の薫の高熱では、荷が重い。

 上半身を起こすだけでも一苦労なのだ。

 

 だが、薫は即座に反応した。その上体を起こす速度は一説には音速を超えたとも言われている。


 絵里紗は勿体ぶって、


「三人じゃよ、三人……」


 薫はもう、絵里紗の術中にはまってしまった。

 

 尋ねずにはいられない。


「それって……男子なのか? 女子なのか?


 なんでいきなり三人も!?」


「三姉妹なのじゃよ! 三姉妹。三つ子ちゃんじゃ!


 しかも……、


 聞いて驚くなよ?」


 薫がごくりと唾を飲み込む。


 絵里紗は薫の注意が全力で自分に、自分の持つ情報に向いているのを確認した上で、


「なんと、低学年! みんな二年生なのじゃ~!」


 と勝ち誇ったように叫ぶ。


「うおっしゃー!!」


 と薫もテンションをMAXの領域まで引き上げた。


 賢明な読者様なら、ご存知だと思いますが、薫くんは言動はともかく、中身は常識人です。こういった反応を見せますが、それは常に絵里紗と楽しくやっていくためで、薫くん自身は同じ年齢層の絵里紗に好意を寄せてたり、寄せて無かったりするごく普通の少年で、小学生のしかも低学年の女子が好きだとかそんなことは一切ございません。


「これは捗る!」


 と薫が叫ぶ。


「そうじゃ、捗るじゃろう!」


 と絵里紗も満面の笑みで答える。


 病状が病状でなければ、ふたりで抱き合ったりハイタッチを交わしたりしたいところなのだが、お互いベッドの上で自由な身動きが取れない状態だ。


 精一杯、手を伸ばしても、二人の間の距離は遠すぎて届かない。


 手を握ることさえできない。


 だけど、スキンシップなんてなくたっていいんだ。


 心と心が通じ合っていれば。


 絵里紗がいつもどおりの絵里紗で、薫が薫であればいい。




 ここはここはとある地方都市、末矢代まつやしろ市。そこにある市民病院っぽいところ。その一画にある小学生、中学生が集う小児病棟。その一室。


 部屋を同じくするのは元魔王の絵里紗と元勇者の薫。


 二人の病気はまだまだ治らない。


『儂の……、俺の…………、


 俺達の闘病たたかいはこれからだっ!』

ご愛読? ありがとうございました。


少し短いですが、予定していた脳内プロットを出し尽くしたため、これにて完結です。もうちょっと、風景とかもろもろの描写を増やせば、薄い文庫本一冊くらいにはなると思いますのでちょうどいいと思います。


長くなるとあれなので、ここではいろいろ書きませんが、興味があれば活動報告なんかを覗いていただけると、あとがき代わりの駄文がそのうちアップされていると思います。


最後までお付き合いくださりまして、ありがとうございましたっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ