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余命-24

 権藤婦長が叫ぶ。病院内なので大声は禁止。婦長であり周りの者に示しをつけなければいけないのでその辺りを考慮して、ほどほどの声量で。


小童こわっぱがぁ! このわしを止められると申すか!!」


 キラくんが応じる。つられてほとほどの声の大きさで。


「それが……、それが必要とあれば、この身に変えても!」


 再び権藤婦長。より一層の小声。


「その身のこなし、立ち振る舞い。腕に覚えありと見える。


 それに、そのほとばしるオーラ量。生半可な修行では身につかん。


 良い才能を持って生まれ、なおかつ良い師に恵まれたとみえる。


 が、己の力不足を知るがよい!


 その上でっ! お前の覚悟をぶつけてみよ!!」


 初めて出会った二人がかわすような会話であるが、実際のところ婦長は当然キラくんのことを知っている。自分の病棟の患者なのだから。

 キラくんも権藤婦長のことを良く知っている。自分の病棟の看護師のおさなのだから。


 じりじりと間合いを詰めようとするキラくんに対して、権藤婦長は、


「だが、普通に闘ってもおぬしに勝ち目はない。


 この線!」


 と、廊下のタイルの隙間で構成された細い線を指さした。タイルは30センチ四方ぐらいのものが敷き詰められているので、こっちの線なのか隣の線なのかわかりづらい。

 少し遠めの位置にいるキラくんにはどっちの線かわからなかった。


「みごとこのわしをここより退かせてみよ!」


 もはやその振る舞い、行動、所業は世紀末覇者的なあの人と同じである。

 その見た目も54歳の女性には当然見えず、その世紀末覇者的な人と地上最強のオーガを足して二で割ったような感じ――ビジュアル的には男的な塾の塾長の顔の長い禿げたひげのオジサンは含まれない――ではなくいわゆる普通のおばさんである。多少眼光が鋭い。眉毛が太目。結構華奢。背も低い。手足も短い。


 キラと婦長の戦いが始まった。


 婦長は扉の前に陣取っているため、横をすり抜けて通るなどということは不可能だった。

 それ以前に、車椅子の押し手である文香あやか彩乃さやのも、権藤婦長の発する威圧的なオーラに圧倒されて動くことがままならない。それは車椅子の上の絵里紗えりざかおるも同様だった。


 キラと婦長の戦いが始まってしばらく経った。


 もはやキラくんの奮闘を見守るしかない車椅子軍団。


 彩乃さやのちゃんが震えるように言う。


「なにこれ……? 全然見えない……。キラくんの動き……。はやすぎて……。


 それに……、婦長さんは一歩も動いていない……、それどころか、手もまったく動かしていないようにしか見えないのに……。


 どうして? どうしてキラくんの攻撃は通じないの?」


 そうだろう。何故だか突然常人のレベルを超えた熱いあるいは暑いバトルが始まったのだ。見えなくて当然。三人称担当にすら見えない疾さだ。だから、描写しなくてよくて楽だ。


「わたしも……、目で追うのがやっと……。


 キラくんは、ヒットアンドアウェーで自分の間合いを考えながら、攻撃を繰り返してるわ。


 婦長は、その攻撃を最小限の動きで受け止めて、受け止めたらまた元の仁王立ちに戻る。その動作が早すぎて、手も足も動かしているようには見えないんだわ。


 今も! キラくんの連撃!! 急所を……それも体中、7……いや、8か所?


 続けざまに攻撃してる。


 だけど、婦長はその全ての攻撃を振り払い、それも一撃振り払ったら元の体制に戻ってまた次の攻撃に備えてる……。


 圧倒的実力差……、キラくんの攻撃がまったく通じてない……。


 なに、この格の違い……」


 解説してくれたのは、文香あやかちゃんだ。


 さらりとスポーティで病弱な美少女などと紹介されていたが、彼女は小5にして、健康でさえあれば、市民体育大会とかに出場さえできていれば、全ての種目において小学生記録を塗り替えかねないぐらいの身体能力を持っている。


 魔王である絵里紗、勇者であった薫も、そして地の文の担当ですら目視がかなわないキラくんと婦長の戦いを見届けることができた唯一の人材だった。


 キラと婦長の戦いが始まってまたしばらく経った。


 攻撃の繰り返しでややスタミナを消費したキラが大きく間合いを取った。


 早くも婦長VSキラはクライマックスである。さくさく行こう。


「どうした! お前の力、覚悟はそんなのものなのか!?」


 再び婦長が威圧する。小声で。周囲には昼寝している患者さんも多いのだ。

 昨日が夜が山の病人さんを看病してて疲れて寝ている付き添いのご家族も沢山いるのだ。


「キラお兄ちゃんのオーラが高まってる! まさか……、最終ラスト秘技リゾート!?」


 椿姫つばきちゃんが呟く。


「なんなんだ? ラストリゾートってキラくんのことじゃないのか?」


 薫は尋ねた。何故椿姫ちゃんが、キラくんの最終秘技事情に詳しいのかを疑問に思いながら。


「キラお兄ちゃんの全オーラを放出する最終ラスト秘技リゾート


 師匠からは禁止されてた……。


 使うと……、体への負担が大きすぎるからって……。


 二~三日は寝込んじゃうかも知れないからって」


 椿姫ちゃんの告白を聞いて絵里紗は、『師匠』って椿姫も間宮先生の弟子なのじゃろうか? オーラとか感知できるみたいじゃし……と疑問に思いながら、

 

「じゃが……、あの権藤を倒すためには……、一歩でも退かせるためには……。


 それしかない。己の持てる最高の技を振る舞うしか……。


 キラの奴はそう考えたのじゃろう。


 ならば、信じるしかない。


 儂らには……キラの覚悟を見届けることしかできないのじゃ!!」


 オーラの蓄積準備十分のキラくんが叫ぶ!


「力なき病弱も……、正義なき病弱でもだめなんだ!


 食らえ! 俺の……ラスト(最終)リゾート(手段)!!




 高機動空戦ハイマット全砲発射フルバースト~~~~っッ!!!!」




 叫ぶがよい。ハイフルktkr!! と……。


 テンションを下げるがよい。ああ、やっぱりキラくんのネーミングってそういうこと? と……。


 キラくんの体から七色のオーラが放出され、権藤院長に牙をむく。


 言うまでもなく、最強ラストにして最終ラスト手段リゾートであり、切り札(リゾート)である。


 これが通じなければ、キラくんには修行をしてもらって、途中で戦うのや嫌になったりなんだかしながら、戦う気持ちを取り戻してもらって、次シーズンでのドラフル(ドラグーn(ry)の登場を待たねばならない。タイトルも『 病弱ロリ魔王の復帰第一歩は院内学級の制覇から? とかいうのは色々間違っててまじチラ裏 DESTINY』(略して『病死』)というとんでもない作品にならなければならない。


 が、権藤婦長には通じない。


 左手の掌をゆっくりとキラくんに向けて掲げる。婦長の全身を貫こうとしていたキラくんから発せられたオーラの光条は、その掌に吸い寄せられる。


「喝!」


 と発せられた婦長の気合い一発で、オーラの刃は全て掻き消えた。

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