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余命-17

 話は、絵里紗の含有する魔力量に及んでいた。


 かおるが、


「とにかくっ! 輝石の代用品については後で考えようゼ!


 今は、満遍なく話を進めるんだZ!」


 と提案したからである。(語尾の『ゼ』や『Z』は年配の方は、マジンガーの主題歌、若者はももクロの『Z伝説~終わり無き革命~』などをイメージしてください。どっちも知らない人は、ドラゴンボールZの主題歌で間に合わせておいてください。)


 それに対して絵里紗(絵里紗)が、


「儂の、今持つ魔力をすべて注ぎ込んだとして……、


 術式じゅつしき成就じょうじゅさせることは困難じゃとは先程いったとおりなのじゃ。


 願わくば……、儂に魔力を提供してくれるサポートメンバーが必要じゃ。


 いわゆるスーパーサブ的な役割じゃの……。


 術の最中におそらく儂は、力を、魔力を使い果たし、詠唱えいしょうを最後まで終えることなく、痙攣し、失神するであろう。高確率で○○を撒き散らしながら……。間違いなく吐血を伴ってな……」


「絵里紗の○○……」


 それはそれで近藤は興味津々である。あまりにもグロいので伏字にしました。


 絵里紗はそんな近藤に嫌悪感を抱きながらも言った。


「じゃから、儂が力尽きそうになったときに、儂に魔力を提供してくれる人間が必要なんじゃて……」


「魔力か……」


 絵里紗から向けられた○○への興味が深々な態度に対する嫌悪を敏感に感じとった近藤が、住まいを正して呟く……。


 近藤の頭の中から○○が消え去ったのを確認した絵里紗が、


「そうじゃ、魔力じゃ。


 人間界では希少じゃ。儂のような魔界からの転生者であれば魔力は含有しておる。


 じゃが、普通の人間で魔力を持っている奴などは……」


 そう都合よくいないじゃろう……絵里紗はそう言おうとしたが、近藤が何かにひらめいたように、


「薫くんは? 薫くんはどうなんだ!?


 さっき言っただろう? この部屋には魔界の瘴気しょうきが満ちることがあるって!?


 じゃあ、薫くんには魔力が蓄積されているんじゃないのか?」


 しかし絵里紗が冷たく返す。


「だめじゃ! 瘴気を吸収したぐらいじゃ術式に必要な魔力量には到底とうてい及びはせん。


 それに、そもそも普通の人間には魔力の扱い方がわからん。


 異世界トリップ……魔界への渡航経験者であれば、あちらの世界で魔力の扱いを覚えておるし、こちらの世界……人間界に戻ってもある程度の魔力は蓄えておるじゃろうから、儂へ魔力を供給するぐらいはできるじゃろうが……。


 そんな都合よく……元勇者が見つかるわけも無いじゃろう?」


 部屋の空気がどんよりとしそうな展開を見せかけているとき、近藤が、


「元勇者がいるとしたら?」


 と切り出した。


「どこにじゃ?」


 と訊ねる絵里紗。


「この僕だ。正確には僕のひいひいじいさんなんだが……。


 この古文書はひいひいじいさんから受け継いだものなんだ。


 僕のひいひいじいさんは魔界へトリップして魔王を滅ぼした凄い人なんだ。


 その血を僕も受け継いでいる!」


 と謎の古文書の由来とともに、由緒ある血統を暴露する近藤先生。


 患者の命を救えるだけの医力(医学的なパワー)を持たず、魔王である絵里紗に藁をも掴むてきな相談を持ちかけたお騒がせキャラから、キーパーソンへ一気にクラスチェンジしそうである。


 近藤の明らかになった血筋によってひとつの問題が解決しそうであったのだが、


「役に立つのは元勇者本人だけじゃて。


 勇者の力は子孫へは受け継がれんからの。


 それにしても武田のといい、近藤のひいひいじいさんといい、なにかと元勇者の関係者が集まる病院じゃな、ここは……」


 と絵里紗に悲しくも否定される。


 近藤が肩をがっくり落とし、


「そうか……僕じゃダメなのか……。


 いや、待て? 絵里紗、元勇者が居るって今言わなかったか?


 武田さん?」


 と、武田発言に食いついた。


「そうじゃ、武田であれば儂の支えに申し分ない魔力量と魔力の扱いを備えておったのじゃが……」


「それってもしかして、先日亡くなった武田さんか?」


 と近藤は絵里紗に聞いた。


「そうじゃ、あやつが居れば……、しかし亡くなったものを嘆いても仕方あるまい。


 タイミングがもう少し早ければのう……」


 と絵里紗が物思いにふける。


 その時である。


 本来ならば、絵里紗の頭の中だけに聞こえるとか、この部屋にいる絵里紗と薫と近藤にだけ聞こえるとかそういう風な伝達方法が適切かつ適当かつ、妥当なのだが、あろうことか、病院内に張り巡らされた有線放送、つまりは連絡伝達用のスピーカーから武田のおじいちゃんの声が鳴り響いた。


『聞こえるか? 聞こえるか、絵里紗よ?』


「その声は武田であるか?」


 絵里紗がスピーカーに向かって言った。どういう仕組みか、武田さんには絵里紗の声が聞こえるようである。ついでに言うと、薫や近藤の声も武田さんに聞こえるので、この先四人での会話が成立する。


『そうじゃ、今、冥界の放送室から、配線をいじってそっちの病院へ語りかけておる』


 武田は、冥界の放送室をジャックしていた。


『死ぬ前にもう一花咲かせようと思っての。なあに、年寄りの冷や水じゃ』


 自分で年寄りの冷や水と言うところは可愛げがあるが、いかんせん武田は既に死んでいるため、『死ぬ前にもう一度』の部分は突っ込みどころであるが、今は誰も指摘しない。


「どうして……?」


 と薫が問うが、その問いは、

『どうして死んだはずの武田さんが、今更再登場してくるのか?』なのか、

『どうして死んだはずの武田さんが、魔界の放送室をジャックしているのか?』なのか、

『どうして死んだはずの武田さんが、ジャックした放送室の配線を弄れば病院のスピーカーから声がでるのか?』なのか、

『どうして冥界に放送室があるのだろうか?』なのか、

『リフレインが呼んでいる』的などおしてなのか、

『お腹の減る歌』的などおしてなのか、


 なのか、あるいはそれ以外についてなのか釈然としない。


 が、武田さんは気にしない。


『儂の名前が呼ばれた気がしてのう』


 と、再登場の理由について答えてくれた。


 さらに、


『話はさっきから聞いておった』


 と、名前が呼ばれた気がしてと矛盾するような発言を繰り出したが、矛盾だらけのこの作品でそういう重箱の隅を突くとキリがないので、近藤が矛盾点については潔く放置して、


「それならば話が早い! 武田さん! 今、唄音うたねちゃんという可愛い女の子の命が危ないんです。


 医者としての手は尽くしました。


 いえ、もちろん、生前から既に死に損ないであった武田さんが天に召される時も最善は尽くしたと思いますよ。


 だけど……、唄音ちゃんは可愛くってチャーミングな小さな女の子なんです。


 今、唄音ちゃんの魂は死神に狙われていて、それをなんとかしようと相談していたところなんです。


 方法は見つかりました。


 冥界の死神の侵入を防ぐ結界を張ろうと画策しているところです。


 幾つかの問題は残っていますが、実現に向けて努力しているところです。


 そこで、元勇者の力が必要になったんです。


 まさに武田さんのような」


 と若干説明過多に言うと、


『ああ、聞いておったよ。全部な……』


 と武田さんは返す。


「では力になってくれるんですね?」


 と近藤は期待を込めた目を天井のスピーカーに向けた。


 このシーンでは映像化された暁には、スピーカーに武田さんの顔がうっすらと浮かんでいるのが好ましい。

 万一映像化されたときには、漫画家の先生、あるいは、アニメの作画監督さん、あるいは気の効いたアニメーターの方、よろしくお願いします。


 残った課題のひとつが、武田さんの登場によって解決した……かに見えた。


 だが、絵里紗の表情は冴えない。


 冴えないばかりかこんなことを言う。


「いくら元勇者でも、死んでしまっておって、冥界におる身では儂らの役に立つことはできんじゃろうて」


 と。


 それに、武田さんはきっぱりと、


『そのとおりじゃ! 儂にはどうすることもできん!!』


 と言い切った。


「じゃあ出てくるなよ!」

「ならばすっこんでおれ!」

「そんなら、わざわざ首をつっこまんといてください!」


 という三者三様のツッコミを受けつつ、なんのために天の声的に登場したかわからない武田が、言うに事欠いて、


『絵里紗よ、ふぉーすを信じるのじゃ!』的な発言で励ましながら、ピンポンパンポーンというチャイム――音が下がっていくほう――とともにフェードアウトしたところで今回のお話はおしまいである。

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