余命-10
■■■過去回想シーン3~はじめ■■■
魔王と勇者はその杖、その剣で切り結ぶ。
魔王は、戦いの最中、必死でコスプレプレイの素晴らしさを訴えかけた。
しかし、勇者はそれに屈しない。強い精神力で、コスプレの術中に落ちないように精神を統一していた。
しかし、魔王の執拗なコスプレプレイへの勧誘は、勇者の言動にも影響を与えていた。
初めは、無言で斬りつけ、次第にこのままでは間が持たないと判断したのか、
ついに勇者は、
「くらえっ!」
とか、
「烈風剣、二段強刃!!」
とか、
「俺の、最強剣技!! 覇王魔弾道撃滅大炎上剣!!」
とか、ちょっと中二的な技名ぐらいは叫ぶようになっていた。
その間魔王は相変わらず、自らの得物である、『魔杖・イントラビヌーズ・トロップフロナーデル』とやらで、勇者の攻撃を受けては、コスプレの魅力を延々と語り続けていた。
勇者も感応されたのであろう。
徐々に、その繰り出される技名が、
「悩殺剣技! ヌードル・エプロイヤー(裸エプロン)!!」
やら、
「膝上靴下学生水着!!」
「大上段!! 冥途弧周!!」
思いつきで技名を考えているとこういうことも起こりうる。
剣技は互角。
勇者は力を溜めていた。魔王を撃ち滅ぼす魔法の詠唱の隙を狙っているのだった。
しかし、魔王も同じ。最強の切り札は隠し持っている。
魔王としては、勇者が結構なストライクゾーンに入ってくるイケメンだったので、できれば、お付き合いしたい。そういった意味から、防戦にまわっている。
勇者は、最後の戦いをあっさり終わらせては勿体ない、せめて魔王に強力な攻撃を使わせて、それをしのいでから逆転のゴハンストラッシュΖを食らわせるという算段を持って戦っている。
この二人の戦略はうまくかみ合わず、ただただ無為に時間が流れていくのだった。
■■■過去回想シーン3~おわり■■■
今日は久々の登校日なのだった。無事に三途の河を渡り終えることなく、峠を越えた絵里紗と薫は、本日の担当医である黒崎を丸め込み――正確に言うと絵里紗が仕入れた黒崎の黒くてずさんな性生活の情報で脅した――、ひだまり教室への登校権を得たのだった。
薫のかましている点滴の数も少ない。本来であれば、5~10本の点滴を常備している薫であるが、昨日の晩から今朝にかけて、ありとあらゆる薬物を体内に流し込んでいたので、今日ぐらいは少な目にという医学的見地からの配慮である。
「しかし……」
絵里紗は目を細めた。にんまりしている。何百年と処女を貫いた絵里紗は何も恋愛をしてこなかったわけではない。
ヴァージンは、魔王としての絵里紗を撃ち滅ぼすべく派遣された勇者の中でもとびっきり、あるいはそこそこイケメンに捧げるべく守り通しているが、彼女の貞操観念は、いわゆるBまではセーフなので、いろいろと経験はある。最後の一線を越えていないだけで。
さらに言えば、絵里紗の恋愛対象は、イケメンに限らない。幼女からロマンスグレーまでをモットーにしている。
院内学級の中学部は絵里紗と薫の二人だけの状態が続き、その二人もほとんど顔を出さないので、閑古鳥が鳴いている始末であるが、併設されている小学部には、何人かの生徒がいる。
病弱の美少年、『輝螺』と書いてキラ君。ただし彼は今日はお休みだ。彼の登場は彼の病状の回復を待とう。
病弱であるにも関わらずスポーティで健全な美しさを持っている文香ちゃん、小5。
病弱ではあるが小3にして、ある意味完成された美しさを持つ、薄倖の美少女、彩乃ちゃん。
同じく、病弱な小3で、おっとりタイプの天然少女、椿姫ちゃん。
他にも病弱な美少女が数名――全員小学生。
「目のやり場に困るわい……」
絵里紗からすると、誰も彼もが恋愛対象である。そして、皆絵里紗にも薫にも好意を寄せている。
まあ、好意と言ってもまだまだ相手は小学生なので、性的な行為に及び難いごく普通の好意なのだが、それは絵里紗には関係ない。
小学生からすれば、年上――中学生――のお兄ちゃんお姉ちゃんが自分に構ってくれると嬉しいものだ。
であれば、取り入るのは簡単だ。あの手この手で誘い出してしまえばこっちのものなのである。
処女膜さえ傷つけなければ何をしてもいいというのが絵里紗の人生観である。
「お前……、涎でてるぞ!」
と薫に指摘されて、
「はっ、いかんいかん……、妄想が膨らみ過ぎて、この場で性的な欲求を爆発させるとこじゃった」
「お前は、ひだまり教室に出禁を食らうべきだと思う。俺はそれがここに居る少女、今日は居ないけど少年たちを守るために必要な措置だと思う」
薫は絵里紗にしか聞こえないように配慮しながらそんなことを言った。
既に、絵里紗は少女たちに囲まれている。下心あってのことではあるが、絵里紗は少女たちに優しく、面倒見がよく、慕われている。薫も慕われているが順列的には絵里紗の下位である。
二人が同時に登校してくると自然と少女たちは絵里紗のもとへ集う。
「絵里紗お姉ちゃん~。久しぶり~」と、文香が駆けよれば、
「ラッキーッ! わたしも久しぶりの登校だったのにお姉さまとご一緒できるなんて!」 と、彩乃も絵里紗にまとわりつく。
とてとてとおぼつかない足取りで歩いて来て、
「お姉ちゃん……」
と椿姫も、絵里紗の元へとやってきてぺたっと足元にひっつく。
「皆の者! 元気であったか? 儂は元気じゃ! 今日も生きておる!」
と、少女たちと絵里紗の間で、病気自慢や危篤自慢のさして当たり障りのない会話が繰り広げられているのを薫は横目で見ながら自分の席に着席した。
ふと空席が目につく。薫の一推しであるツインテールの小学1年生の唄音ちゃんが居ない……。
「あれっ? 唄音ちゃんは……」
誰に言うでもなく、薫がポツリとつぶやくが、病気自慢、余命自慢――余命自慢とは宣告された余命まで如何に残り少ないか、あるいはそれを何日超えて生きているかを自慢しあうこと――に花を咲かす、絵里紗と小学生女子たちには届かなかった。
ほどなくして、担任の教師が登場する。
間宮志乃。
あろうことか、ロリババアである。とはいえ、魔界や異世界とは何の関係もない間宮先生は、常識的なロリババアである。
実年齢は40を超えているらしい。本人曰くアラフォーでそれ以上の詮索は死を意味する。
見た目はどう見ても20代前半。下手をすると10代にも見えなくはない。ただし、それは遠目から見た場合で、近くによるとそれなりに小じわが目立つようなのだが、不用意な彼女への接近は死を意味する。
体型はグラマーでもなんでもなく、ツルペタで低身長。ただし、それは本人にとってコンプレックスであり、口にすると死を意味する。
喋り方などは普通。常識人なのである。さすが教員免許を持っているだけのことはある。ただし、やっぱり死を意味する。
これまでの男性経験は不明。それに触れてしまうと死が待っている。
「あら? 珍しいっ! 薫君来てたのね……」
間宮先生の顔がぱっと明るくなる。40歳にしてヴァージンだというのは禁句ではあるが、処女にめっぽう目が無い処女厨の薫からはそれは明らかだ。
薫は処女に首ったけである。バージンという単語にひどく執着している。おそらく彼は、誰かを本気で愛したとして、性行してしまうと愛した女性から処女属性が消えてしまうという理由で、肉体関係を結ばない。
それくらいの処女酎なのだ。
彼の処女注は、常人の域を超え、彼に絶対なる嗅覚を与えた。処女宙である彼の五感は、全宇宙の全ての存在を処女か非処女に分別できる。
偉大な処女柱なのである。
どれくらいの処女誅かというと、もう『ヴァージン』という単語に反応しすぎて、『ヴァイオリン』の『ヴァ』の部分で血圧が上がったり、『バーボン』なんて一文字違いの単語を聞いた日には悶絶するくらいの処女駐なのであった。
そういうわけで、薫は処女しかいないこの空間にご満悦だった。一人でも非処女が混ざると途端に神性が無くなるのだ。おっさんなんて来られた日には目も当てられない。
薫は自分の院内学級の担任が年齢はともかく、処女であることが何より誇らしかった。
そして、40にして男性経験皆無の間宮先生も、自分を女性として性的な目でいやらしく見てくる薫がお気に入りなのであった。
いつか、薫の童貞を奪いたいと思ったり思わなかったりしていた。
そんな二人が視線を交わし、アイコンタクトで「薫くんにならわたしのヴァージンをあげてもいいのよ」「いえ、先生……だめですよ」「やさしくリードしてあげるから(男性経験ないけど)」「でも、僕は先生の処女が好きなだけなんです」「そうよ、わたしは処女なのよ」「でも……僕が先生の処女を貰ってしまっては先生が処女ではなくなってしまう」などと会話しているのかしていないのか、視線を絡めているのを良しとしない約一名、
「儂も来ておるがな……」
と絵里紗がわざわざ口にする。
「あら、絵里紗、こんにちは。ひさしぶりね」
間宮先生は絵里紗には冷たい。つれない。
というのも、ロリババアとしてキャラがかぶっている。しかも、自分はファンタジー要素や、ラノベ的ご都合設定を反映していない、40歳前後にしてギリギリ20代――ただし小じわが微レ存――という、美魔女レベルのキャラ設定であるのに、絵里紗のロリババア具合は、度を越えている。数百万歳というのは、ずるい。それでいて見た目が幼い14歳だというのはもっと納得がいかない。
なのに、同じく処女で薫の視線の的になるというのは非常に気に食わないのであった。
絵里紗も絵里紗で、彼女の交際相手の範囲はべらぼうに広いのだが、どうも間宮先生だけは、その範疇に含まれない。
自らがロリババアであるので、同じようなキャラでることへの近親憎悪も含まれていよう。
なにより、少女たちにも薫にも慕われているのが気に食わない。
絵里紗は見抜いていた。間宮先生がロリババアにも関わらずロリコン教員であり、しかもショタ百合両刀であることを。
いわば、小学生女子に対しても、薫に対しても間宮先生は絵里紗の恋のライバルなのである。
一方その頃薫は、マルチスレッドの脳内に、いろんな妄想をして楽しんでいた。相手が小学生であれば薫のしっかしとした倫理観、青少年保護条例的な観点から、いやらしいことは妄想でしでかしても、妄想とはいえ一線を越えることはない。
そういうマイルドな妄想と、年齢的に性的な行為に及んでも問題のない間宮先生とのあれやこれやを平行して妄想することで、妄想が加速度的に干渉して爆発的に膨らみ、化学反応的な何かが、彼の脳内に化学物質を分泌させていた。
それは薫の病状の進行を抑えて、彼の余命がなかなか尽きない要因であるのだが、その話の詳細はまた後程。
なお、今回のサブタイトルは「第一歩である院内学級へやっと到達しそうですっ!」でした。




