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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

影の言葉

作者: 緋雪 奈那

最初に感じた電波とは違う仕様になっていて驚きの連続だった新作です。

これが緋雪の限界です。

また電波を受信するか、気が向いたら書こうかなとも思っていますが未定です。

それでは、どうぞ。

市立宝條高校いちりつほうじょうこうこう……○×県○×市にあるこの高校は一般高にも拘らず就職率がとてつもなく高く、才能溢れる若きプロスポーツ選手、卓越した頭脳を持ち合わせる学者など数多くの優秀な人材を育成してきた一言で表すならばエリート校。

敷地面積はまず普通の生徒では到底3年間では覚えきれない程の広さだ。

全面人工芝グラウンドをはじめとし、100m温水プールや天然温泉、さらに全寮制と、とても市立とは思えないこの高校。

本館は山の字を描くように左端は実習棟、真ん中は教務棟、右端が教室棟と言う形だ。

古くからあるというのにその外観は設立当初から古ぼけることなく、むしろ真新しいと言っても過言ではない程白い。

新春。新たな誓いを胸に秘め、この高校に入学してきた800人の生徒の内の一人の女子生徒と数ある部活の中で唯一廃部となった部活を再び立ち上げた2年男子生徒の些細な日常が始まった。



   「episode1 新しい影」





 side やなぎ 恭介きょうすけ



春。俺が最も忌み嫌う季節だ。周りを見渡せばそこら中に大量に湧いてる五月蠅い屑ども。

いや、違うか。大量にじゃない、俺以外の。だな。

窓際最後尾のこの席からならこの1クラス80人とふざけている講堂全体見渡せる。

キャハキャハと嗤い合っている女子のグループ。数人で輪になって携帯ゲーム機で遊んでいる男子。

新しい出会いなんざいらん。

勝手にやってくれ。俺は独りでいいんだ。

そもそも此処に入った理由だって一番楽だからだ。

全寮制つまり、衣食住のうち、食住が完備してる。そんな高校ないだろう。

エリート校と人は謡ってるがそんなの建前でしかない、さて今年度は何人が絶望する事やら。

俺は授業開始当日から去年無理矢理整えさせた部室で休むと決め、読みかけの文庫本を鞄に入れ教室を後にした。

この講堂は5階建ての内3階に位置し、部室は1階の南端の長細い部屋。

部員は俺を含め3人だけ。

4機あるうちのエレベーターの一つが丁度良く開いているから、そのまま入りボタンを押す。

部室はこのエレベーターが降りた所をまっすぐ進めば直ぐに着く。

ケータイを開き、現在時刻を確認する。

8:23か、まだまだだな。

チン、とベルが鳴り扉が開いた。

さぁ、もうすぐだ。

エレベーターから降り数歩前進した――直後右側から衝撃に襲われ俺は吹っ飛んだ。





 side 朝姫那あさひな 詩織里しおり



春。私が新しい世界に入る季節。一生懸命勉強してやっとここに入れた。

新しい生活が私を待ってる、そう思って。入学式もクラス発表も楽しみだった。

だけど、迂闊だった………遅れそうになってエレベーターまで走ってたのが悪かったと思う。

気が付いたら、制服を着崩し紺色のチョーカーをした私より頭一個分背が高い先輩らしき人物の姿が見えた。

ハッとして急ブレーキを掛けても遅かった。

先輩と思いっきり衝突してしまった。

どうやら先輩は私の姿に気付いてはいなかったらしく大きな弧を描いて数メートル先に転がっていってしまった。

私はぶつけたおでこをさすりながら横たわってぴくりとも動かない先輩に近付いた。

「あ、あの~大丈夫ですか?」

恐る恐る声を掛けて肩を揺らしてみたけど……返事は返ってこない。

それどころかある重大な事実に気が付いた!!

この人、呼吸する音すら聞こえてこない!?

「は~ぁ、ったく。ここに居やがったか…一年生の嬢ちゃん。ここはもういいからさっさと行きな。授業始まるよ?そいつは俺がそこに運んどくから」

び、吃驚した……急に後ろから声掛けられるんだもん。

ガシガシと頭を掻きながら転がっている先輩と同じ紺のチョーカーをした濃い茶髪の男の人が話し掛け、

親指でクイックイッと奥の扉を指差してる。

私はエレベーターフロアの壁掛け時計に目を向けた。

8:40。ヤバい!!急がないと完璧間に合わない!!!

「えっと、その、お、お願いします!!!」

茶髪の先輩に頭を下げた後、エレベーターに入って2階のボタンを押し、扉が閉まった。

「……おい、柳。起きてんだろ?また新入生から金パクろうとしてんじゃねぇよ」





 side 恭介



ちっ、なんていい所で邪魔してくれんだ。コイツは…

俺は俯せから仰向けになりその場で胡坐をかいた。

「ウッセーな。新庄。ぶつかってきた方が悪いだろ?慰謝料を請求して何が悪い」

コイツの名前は新庄しんじょう あつし。俺と同じ2年生だ。身長が高く人望も厚い(ついでにイケメン)。次期生徒会長の座に近い人物ではある。ただ茶髪に縁なし眼鏡と言う所謂チャラ男スタイルで本人もナンパ好きと豪語しているくらいだ。

個人的には生徒会長になってほしくはないんだが……何故か生徒会内では支持率は高いらしい。

らしいってのは、まぁ生徒会に入っている奴から聞いたからだ。

ついでに俺の数少ない友人…なのだろうか?

「だからってお前なぁ。確か前回は数万程パクッたんだろ?もう無くなったのかよ?」

「前回はこっちだって怪我したんだ。それに数万は治療費含めだ。ありゃ実質プラマイ0だぜ?」

事実の事だ…前回と言うのは去年の12月に同級生だった1年の誰かとぶつかって壁に直撃したという大怪我を負った俺。

その時に治療費と共に慰謝料として数万程もらった。

だが、その大半は治療費に当たり、残った金で部室に小型の冷蔵庫を入れただけで消えてしまった。

よって今回のあの1年がぶつかってきたのは俺にとって大事な収入源だったのだが…見事に邪魔された。

「あらあら。誰かと思えば恭の字に敦じゃない」

「なんだ、お前もフケルのかよ。結局勢揃いじゃねぇか」

玄関口の方から姿を現したのは、腰まで伸ばしたストレートロングの艶っぽい黒髪を靡かせた女――三保乃松原みほのまつばら 結唯ゆい。同じく2年生。1年生にしてミススチューデントつー美人を競う大会で優勝した実績を持ち男女両方から支持を得ている。

コイツがさっき言った生徒会の奴に当たる。

そして、俺達3人はガキの頃からの付き合いでいつも一緒だった。ちなみに過去形じゃない現在進行形だ。

「そんな事言ったって無駄よ。どうせ単位はもらえるんだもの。利用しない手立てはないわ」

ああ、そうだ。俺たち3人は授業をフケても単位は貰える。理由は長ったらしいからまた今度な。

何時までも此処に座ってるわけにはいかないしな。

「判ったよ。ああ、新庄。アレ持ってきたか?」

ガチャガチャと鍵を回しながら後ろでケータイ弄ってる新庄にある確認を取る。

「ん?ああ、ちゃんと3人分あるぜ」

「いつもあんがとよ。っと開いたぜ」

キィと錆びた鉄を擦る音がし、さほど広くもなく狭くもない長い部屋で一個の長机を横に並べ適当な所にパイプ椅子を数個置いてあり窓枠の下に丁度小型の冷蔵庫が収まっている。

全くもっていつも通りだ。

両壁には食器棚のようなものが置いてある。

もともと雑貨の倉庫みたいなところを整理掃除させたからな。

こんな場所でも駄弁ったりとか色々時間を潰せんだよな…

ま、俺の場合、文庫本読むか寝るか駄弁るか、もう一つあるんだがまぁ省く。

新庄は忙しくケータイを弄ってる。毎回違う電子音が流れている事から何又かかけているんだろうな。

三保乃(長ったらしいからここで切っっている)は解れた服を裁縫してる。無駄に家計的なんだよな。

俺は新庄から缶コーヒーを受け取り、一番奥…右手が冷蔵庫に届く位置いつもの席に座る。

ちなみに確認したものはこの缶コーヒーだ。

なぜか、教務棟の自販機にしか置いてなく、何かと行く用事の多い新庄にいつも買ってきてもらっている。

目の前には三保乃、パイプ椅子2つ程開けた左には新庄がいる。

やはりいつもの席順だ。

俺は鞄から文庫本を取り出し、背凭れにおっかかり足を長机に乗せ力を抜き文庫本を読み始めた。

今日もまたいつもと変わり映えのない毎日が始まるのだろう。

そう思っていた午前だった。





 side 詩織里



私は一日の授業が終わり、実習棟の1階にある大体育館でのクラブ説明をさっと聞き流し、教室に戻っての挨拶を済ませた後、私は教室棟のエレベーターフロアの奥にある鉄製の扉の前に居る。

今朝ぶつかった先輩に謝ろうと思ったからね。

意を決してノックの後にドアノブをゆっくりと回しドアを開いた。

中を覗くと、中央の長机の左にパイプ椅子に座っている今朝出会った茶髪の先輩が忙しく携帯電話を動かしていて、その奥では思わず見惚れてしまうほどの美人が縁の朱い眼鏡を掛けて本を読んでいる。

その向かい、私から見て右側に、机の上に組んだ足を乗せ、パイプ椅子におっかかり両手をダラリと下げ、上を向き文庫本で顔を隠している男の人がいる。寝てるのかな…?

「ん?あれ?君今朝の娘だよね、どうしたの?」

私の姿に気が付いた茶髪の先輩が顔を上げ声を掛けてきた。

その声に反応し女の先輩もこっちに目を向ける。

ちょっと、緊張してきた……

「え、えっと今朝ぶつかった先輩の容体が気になりまして……」

ちょっと噛んだけど要件は伝えられたよね?

って思っていたら、

「ああ。そういう事、おい!柳!起きろ!!!」

茶髪の先輩が机を思いっきり蹴り揺らした。

ガクン!!って大きい音に思わずからだが竦んだ。

誰でもこうなるよね?い、いきなりだもん。

「……んー、新庄ウッサイ。まだ5時じゃねぇだろ……?」

「何時まで寝ぼけてんだよ、お前に客だよ」

「客ぅ?………………誰コイツ?」

ずり落ちそうになった文庫本を右手で持つと顔から離し、新庄って茶髪の先輩に向かって眠たげな声を発する柳先輩、女の先輩はクスクスと笑っている。

新庄先輩が呆れた様子で私の方を親指で指しながら言う、柳先輩は訝しげな声を顔をしてこっちを見ると数拍おいて呟く。

そりゃあ…名乗ってもないから誰かは判らないとしても面と向かって言われるとなぁ……

「今朝お前とぶつかった娘だよ」

「…………ああ!!なに!?慰謝料払ってくれんの!?」

俯いていた私を見かねたのか新庄先輩が助け船を出してくれる。けど、

柳先輩はしばらく目を瞑って頭を横に振った後に目を開いて身を乗り出した。

ちょっと後ずさったけど、普通の反応の筈……って!?

「い、慰謝料ですか!?」

「んだよ。その反応からして違うのかよ……は~ぁ、つまんねぇの……新庄か三保乃。5時前に起こして」

柳先輩は、興味を失ったのか椅子に落ちるように座ると再び本を顔に乗せようとするけど…寝させる訳には行かないんですよね。主に私の心境的に……スッキリしないから。

「柳先輩!慰謝料は払えませんけどせめて謝罪くらいさせてください!!」

「……帰れ」

本を乗せ終える前に腰から頭を下げるけど柳先輩はそれだけ呟くと本を乗せてしまった。

どうしよう……残った2人の先輩に目を向ける。

「…ごめんね~。こいつ金が絡まない限りこんな態度なんだ」

「だから、今日はおとなしく帰った方がいいわよ」

新庄先輩は笑みを浮かべ、手を合わせて言う。

三保乃先輩はやはり見惚れてしまう笑顔で微笑んで言う。

……2人からも帰れと言われてしまった。

仕方がないから素直にドアノブに手を掛け、外にで、扉を閉めようとしたけど中から会話が聞こえてきてしまったため薄くドアを開きっぱなしにして聞き耳を立ててみる。

声を聞いたんじゃない聞こえてきたのよ。

「…柳。起きてんだろ?良いのかな、あの娘。狙われるかも知れないよ?」

え゛ね、狙われる!?誰に!?どうして!?

「大丈夫だ。符護術は掛けた。そもそもこの部屋に入る事自体が加護を得るようなもんだからな」

先輩たち…何の話をしてるの!?

符護術ってなんなの!?

驚きと不安が私の中で暴れまわったから、気が付かなかったドアに大きな音を立ててぶつかっていた事に。

「……聞いてたのか?」

中から声がする。柳先輩の声。さっきと同じで抑揚を抑えた低い声。

私は少し震えている体を動かし、何とかドアを開けた。

押す方でよかったと心の底から安堵した。

「あらあら、震えてるじゃない。怖かったのかしら?」

何時の何か目の前にいた女性の先輩が手を差し伸べてくれる。

だけど、掴めなかった。掴んだら自分の中の〝何か”が壊れそうで、差し伸べられた手が何かとても怖ろしい物に見えてきて―――――――――――

「―――何が見えているか知らんが、幻だ」

ハッとその一言で意識が覚醒した。

さっきまでの寒気は消えていて、優しく微笑んでいる女性の先輩の姿があるだけ。

さっきまで私が感じていたものはなんだったのか?

この人たちは何者なんだろうか?

答えが見つかりそうもない疑問が思考を埋め尽くしていく。

でも、ひとつだけ判ったことがある。柳先輩は押し潰されそうな私を助けてくれたという事だけはしっかりと理解できてる。





  side 恭介



面倒な事になったな。あの後正気を取り戻した一年女子――朝姫那 詩織里を交え簡単な自己紹介を終えてから、コイツが安心して学園生活を送れるようにどう嘘を付いて出し抜こうかと思案していたのだが先手を打たれた。

「あの、先輩たちは何者なんですか?」

まだ些か恐怖があるのだろうか。手が震えている。

かといって、なにも知らないままは嫌だ。みたいな顔しやがって尋ねてくる朝姫那。

流石にこれには新庄も黙っているがただ単に困っているだけだろう。

コイツの事だ、自分のせいでとか思ってるに違いない。

俺は百歩譲ってもそうは思わないが。

三保乃は三保乃で朝姫那の手を握ってる。

落ち着かせようとでもしてんのか。

何時までも黙ってるわけにはいかないしな……どう切り抜けるか…

「―何者と言われてもただの学生としか言えないが?」

「『嘘だと思います。普通の学生なら新庄先輩と柳先輩の先程の会話はおかしいと思います。』だそうよ?恭の字」

ああ。三保乃の奴もっと面倒臭い方に運びやがって…これで〝そっち”関係の事も話す必要が出来たじゃねぇか。

三保乃の能力チカラ……手に触れた生きとし生ける物すべての心の声を聴くチカラ。

ほれ見ろ。朝姫那が変な顔してんじゃねぇか…

「…そうだな…はぁ。どうせ此処まで関っちまった以上どうしようもねぇんだ。新庄。何時までも落ちてんじゃねぇ。そこのファイル取ってくれよ」

新庄は酷く鈍い動作で棚を開け一冊の紫色のバインダーファイルを俺に投げる。

そこまで落ち込んでんのかよ…いい加減立ち直ってくれねぇと面倒なんだが。

「……在った。先に言っておくぞ?これから先の事は誰にも言うな。お前の命が危険に晒されるだけだ」

此処まで脅し付ければ大丈夫だろ。また震え上がってコクコク頷いてらぁ。

「…此処の理事長な。アヤカシなんだよ」

「『え?えっと、どういう事ですか?』」

「通訳サンキューな、三保乃」

どうもこうもないんだが…まぁ、当たり前の反応だわな。

はぁ、面倒くせぇ……

「信じてくれなくとも結構。結構。むしろここまま忘れてくれた方がいいんだが…」

「い、いやです」

今度は自分の声で、か。

意志の強い一年だ。

だが、どうすっかな…実際に見せれればいいんだが…都合言い訳ないよ…ん?ケータイ鳴ってんな。

誰だ…………?って俺じゃねぇか。とりあえず開く、相手は――――なんてタイミングのいい奴とだけ言っておこう。

「……俺だ。……………ああ。……………ああ………………今日早くないか?いつも通り?っくそ。切れた。……………一年。悲劇しろ。この学園の実態を見せてやるよ」

今の俺の顔は心底げんなりしてるか、良い笑みを浮かべてる事だろう。

これで納得されんなら安いもんだろな。

さぁさぁ、皆さん御立合い。これから、俺のチカラを見せてんやんよ。





  side 詩織里



先輩たちについて行った場所は、教室棟から玄関に向かい校庭の南部にある雑木林へ向かった。

なんだろう……?寒気がする。春先なのにここだけ冷風が張りつめてるみたい。

「逢魔ヶ時の調べは浮かんだ。この時この意に反する悪鬼よ。姿を現せ」

柳先輩が誰も居ないはずの東の雑木林に向かい静かに綴る。

――刹那、張りつめていた空気が冷風が柳先輩の前に集まり黒い靄となり形を作った。

大きい蜘蛛だ。

その形が判ったからかもしれないけど、靄は急速に形を取り始めた。

先輩たちは動かない。動こうともしてないみたい。

「――紅鬼蜘蛛べにおにぐもか。大層なモン創造してくったね…」

「ヒュー。まった格段と大きいねぇ」

「…恭の字。行けるの?」

創造?誰が何のために?もしかして本当に理事長が?

「大丈夫だろ?―――――喰っていいぞ。『アヤメ』」

一言。たった一言発しただけで柳先輩の影があり得ない程広がり、蜘蛛を絡め取ると同時に徐々に徐々に蜘蛛の体が柳先輩の影に沈んでいく。

数分、もしかしたら数秒で蜘蛛の姿は消え去って、柳先輩の影も元々の大きさに戻っていた。

まるで、全部が夢のようで、あれほど張りつめていた冷風が欠片も感じられなかった。

「…のう。アルジ殿よ。この蜘蛛一匹では腹の足しにもならないのじゃが」

「我慢しろ。これから南雲会長んとこ行くからなんか貰ってこい」

声がするまで気が付かなかった…柳先輩の腰ぐらいの背丈の女の子が柳先輩の制服の裾を引っ張っている。正直、可愛い。思わず抱しめたくなるぐらい。

「そろそろ行くか…アヤメ」

「カイチョウ。甘味物をくれるといいのー」

どうするのか…って見てたら柳先輩が女の子…アヤメちゃんを抱っこすると肩に乗せた。

ニコニコ笑ってるアヤメちゃんも可愛いな~……………あ!先輩たち皆もう行っちゃってる!!

走って追いつかなきゃ!!





  side 恭介



アヤメは何時も上機嫌だな…その元気を俺にも分けてくれよ。

後ろにいる一年もさっきから元気だな。

…………まさかと思うが視えてるのか?

はぁ。だとしたら最悪だな。偶にいるんだよ……こういう感受性の高い奴。

面倒くせぇ……結局匿う必要が出来たわけだな。

あーあ。またどやされるっての。面倒くせぇ。

「あ、あの柳先輩?何処に向かってるんですか?なんでエレベーターに乗ってるんですか?」

コイツは人の話を聞いてなかったのか……?ちゃんと言ったはずだが?

チラチラとアヤメの方見てんな…こりゃ完璧にアウトだな。

かったりー、マジかったりー。

理事長本気出すんじゃね?

「……5階の生徒会室だ」

とりあえず、南雲のヤローに会うか。

チンと着いた事知らせるベルが鳴り、戸が開く。

右の通路に向かいそのまま奥へ進む。

生徒会室がこんなに遠いとか、なんかもう悪意を感じる。

ノックなんかしねぇ。蹴破るのみ。

「南雲!!」

「おやおや、どうしたんだい?恭介君。そんなに怒鳴って何か用でも?」

コイツはぁ……

南雲なぐも 八雲やくも。多くの生徒から絶大な支持を得ている宝條高校現生徒会長。

伊達眼鏡のくせに妙に似合ってやがる。その上絶えない笑顔。何人ものバカどもが釣られて逝った。

この男の態度は何時も俺をイラつかせる。

今すぐにでも殴りてぇ…っとこんな事しに来たんじゃなかった。

「要件ぐらい判ってんだろ?さっさと紙よこせ」

「……ああ!そういう事か!!いや~君もついに認めてくれるのか~少し待ってよ。今すぐ取ってくるから」

「おい待てコラ!勘違いしてんじゃねぇぞ!『入部届』よこせってんだよ!!」

「いや~柳はほんと此処に来るといつも元気なるよね~」

先輩?コイツに威厳があるってか?他が認めても俺は認めねぇ。

新庄!茶化すな!!

三保乃!笑うな!!

「や、柳先輩?『入部届』って?」

「言わなかったか?覚悟は出来てんだろ?って」

「聞いてま――――」

「お前はもう理事長から目を付けられてる筈だ。そんなお前が勝手に動いて勝手に死なれてもこっちの目覚めが悪い。だが、俺たちの部に入っちまえば授業を受けずに単位はとれ、尚且つ命の安全も保障できる。……それにお前、アヤメの事視えてんだろ?コイツは普通の人間にゃ視えない。この中で視えるのは俺とお前だけだ。ああ、そうだ。南雲。アヤメが甘味物よこせってよ。机の上に置いておけば勝手に食うから置いとけ」

朝姫那が何か言い掛けたが知らん。

俺は疲れてんだ。さっさと帰って寝たいんだ。

念のため確認を取るが、朝姫那は新庄、三保乃、南雲を見てる。

やっぱり見えてんだな。逆に他の人が見えなくて驚きって感じか。

「…全く。いつも思うけど君は先輩に対する態度を弁えてるのかい?」

「別にお前の事を先輩と思ってねぇだけだ。…ほら、朝姫那さっさと記名しろ」

ちゃんと机の上に羊羹置いてんだな。アヤメ…食べるのは良いがそのほっこりした顔はどうにかならないのか?

「ならんのじゃ♪」

くっそ。影でリンクしてるから考え筒抜けだったな。

南雲にイラついてて忘れてた。

…記入し終えた朝姫那にも伝えておくか?

「朝姫那。軽く説明するが、『陰陽師』って知ってるか?」

「え?それって確か昔の日本の神官ですよね?」

「ああ。概要はそれでいい。俺はその末裔だ。アヤメとはパートナー基式神みたいな関係だ」

「……………………」

驚きで声も出ないか?まぁいい、信じるかどうかを無理強いしない。

これが俺のチカラ。

ちなみに新庄のチカラは特に何もない。強いて言うなら体力ぐらいか?

南雲は視えないが感覚で判るそうだ。これでアヤカシの位置、特徴とかを把握している。(ちなみにアヤメの位置も判るそうだ)

昼間の電話もコイツからだ。俺たちの利害関係はそんなもんだ。

俺は理事長に喧嘩を売る。南雲は生徒の安全を考える。

必然的に俺らが引いた線がこの関係だった。

「ほらよ。南雲。これで入部手続きは完了だな?」

「うん。そうだよ」

「なら、帰るぞ」

ん?アヤメがいない?

ああ。まだ羊羹食ってのか。

座ってるアヤメの首根っこを持って背負う。

視えない奴には何が起こってるか判らないだろうが、こうでもしないとどんどん遅れる。

羊羹も結局全部食ってたし、腹の足しにはなったろ。

生徒会室を後にし、部室へ戻る俺たち。

予定は狂ったが大差はない。

これまで通り、この部屋に籠るだけだ。

いつか理事長ぶっ飛ばすまで。

そん時までよ、アヤメ。俺の所に居てくれよ?一番楽出来んだから。

さてと、聞きたいことは山ほどあるだろうが……追々説明するとして今はもう語る事はないな。

言葉はあまりにも無力だ。無力で、無意味で無駄に大きい力を持つ。

だから今は語らない。

もし、その時が来たらまた語ろう。

今はただ、新しく影が一つ増えたこの部室で静かに休む事にしよう。

きっと、これから忙しくなんだろうから……………


~影の言葉episode1 新しい影 Fin~



「「「「「「せーの、ご愛読ありがとうございました!!!!!!!!!!」」」」」」

いや~一度言ってみたかったんだよね~これってあれ?

皆は?

恭「先に宴会はじめてるぞ?」

お、置いて行かれた……?

恭「そうだな。だが、いいじゃないか?これでこそ俺たちだ」

良くはないですよ。良くは。

だから、混ざる~~

恭「あ、おい!結局俺が締めるのか……次回があるとは思えないが、また逢えたらいいのか?まぁ、そこはアイツ(緋雪)の気分次第でどうともいえないが、頼めば書いてくれるんじゃないか?こんなもんか?まぁいい。じゃ、俺も混ざってくるから、またいつかな」


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