プロローグ
プロローグ、短すぎたので一つにまとめてみました。
拝啓 佐倉伊織様
僕の暮している国も、ようやく秋になりました。
引っ越して四年が過ぎ、いよいよ僕も勇者として活動することになりました。
頑張って剣の練習をしてきたのもこの時のため。弟は世界周遊魔物打倒の旅に出ます。そのため、しばらくは手紙を送れませんので、ご了承下さい。
ではまた、この紙の裏に近況などをお書き下さい。旅立ちを控えた勇者への激励を期待しています。
追伸
そんなわけで、今年は母さんの命日に花を手向けられなくなりました。一応他の人に頼んであります。ご心配なきよう。
そういえば土に関わって亡くなった人は、この世界では大地の精霊に迎えられると言われています。それなら母は僕がどの国に行っても、かわらず見守ってくれることでしょう。
だから、母さんのことについてはもう気に病まないで下さい。
貴女の弟、悠樹より
***
伊織は何度読んだかわからない手紙を元のようにくるくると丸め、赤い紐で結んだ。
そっと紙の上をなぞる。
指に触れるのは、藁半紙でもコピー用紙でもない、厚みのある堅めの感触。下手をすると紙ですらないかもしれない。
指を何往復かさせてふっとため息をつき、伊織は音と映像をはき出すテレビ画面へ視線を戻した。
子供のころからよく見ていた、ファンタジー映画が映されている。
内容は十分に知っていた。だけど何度見ても面白いので、暇つぶしにと思い、ソファーの上であぐらをかいた状態でぼんやりと鑑賞していた。
映画の中の金髪の少女は、綺麗なドレスを着ている。そして敵から逃げ回っていた。
ふと、伊織は自分の姿に目を落とす。一日中外出する気は一切ないので、肩を越す茶に近い色の髪はまとめもしないで放置。着ているのは部屋着にしているパーカーとスウェットの上下だ。
「悠樹のとこにも、もしかしてこんな女の子が一杯いるのかな」
金髪の少女は、ようやく主人公である少年と合流した。
二人でじりじりと回廊の先へ進む。
この先には敵が待っている。だけど敵側の動きなど知りようもない二人は、剣を構えながら回廊の先にある扉を開こうとした。
向こう側から明るい光が溢れ……。
その瞬間『伊織の目の前が』真っ白になった。