過保護なお父さん
こんなお父さんは、嫌です。
わたしの名前は美羽。
やっと小学5年生になったばかりの女の子だよ!
なんとなくありがちな自己紹介から始めてみたよ!
逆にありがちなものを使って自己紹介をするなんて、わたしは一足先に流行が進んでるね!
さて、簡単な自己紹介が終わったところで。
そんなわたしの今一番の悩みは、お父さんが超が付くほどに過保護なことです。
わたしが三歳くらいの時、わたしのお母さんは死んでしまいました。原因はガン。当時まだ小さかったわたしをお父さんは男手一つで育てていくことになりました。今までわたしをここまで大きく育ててくれたお父さんには、とても感謝をしています。
でもね、過保護なんです。
とにかく嫌になる程、過保護なんです。
例えばこんなことがありました。わたしが足をひょいと伸ばせば届く距離しかない小さな水たまりの前に来た時、普通に飛び越えようとしました。そこにお父さんが「美羽ちゃん、ストォーップッ!!」と割り込んできました。「美羽ちゃん、ここを飛び越えるなんて危ないよ!そんな危険なこと、お父さんはさせられない!」と悲痛そうな顔で叫び、「はい、ここを通りなさい!」と、水たまりの上にブリッジを作りました。その時は、わたしが小学校から徒歩でお父さんと帰っているという時間帯で、当然道の人通りは多いです。通行人がいるのに脇目もふらずお父さんが突然そんな行動をとったので、周囲の人たちがみなぎょっとした顔をして、あの人危ないわよ的な会話をコソコソして逃げるようにさっといなくなってしまったのが、非常に痛々しかったです。しばらく無言を貫き通していたわたしは、水たまりの隣をすり抜けて無視して通りました。「美羽ちゃんー、待ってくれよ~」と必死についてくるお父さんを、これ以上気持ち悪いと思ったことはありません。
わたしのお父さんは、こんな人なんです。他にもわたしが友達と鬼ごっこをしていた時に転けて足を擦り剥いたまま家に帰った時なんて、「誰だ、美羽ちゃんにこんなことをした奴はッ!おのれ、許さんぞッ!」と形相を変えて遊んでいた公園に行き、他の友達に叫びだしたのには涙が出てきそうでした。あとは、友達と遊ぶときにはいつも後ろについて来るとか、もうそんな歳ではないのにわざわざ夕食で焼き魚になったら「美羽ちゃん、魚の骨とってあげようか?」と言い出して、わたしがOKしてなくても骨を、しかも細ーいそれなら食べれるんじゃ?という骨をとってくれます。本気で、嫌です。どうにかして欲しいです。
しかしこれまた不思議なことに、お父さんの欠点はそれだけなんです。
過保護すぎるというのが唯一の欠点なんです。
お父さんはまだ三十四歳という若さで、もう会社の社長さんです。なんでも人をまとめるのが上手くて、自分自身もテキパキ仕事をこなすとか。他にはスタイルと、そして顔もいいです。別にわたしのお父さんだから特別視している訳ではなく、何故かかっこいいのです。青ぶちのメガネも様になってます。性格も温和でやさしく、しっかりとしています。まるで完璧人間のようです。
でもわたしのお母さんが死んでからは、わたしに必要以上に過保護になりました。もう大切な人は失いたくないという心の表れなのかもしれません。
ほんとうはお父さんは、心優しい人なんだと思います。夜中目が覚めてわたしがリビングに降りたとき、お父さんとお母さんとわたしが三人で写っている写真を見ながら優しく微笑んでいるお父さんの姿を見たら、そう思わずにはいられません。あの温かな笑みは、わたしの好きなお父さんの表情です。
えーと、前置きが長くなってしまいましたが、これでどれだけお父さんはもったいない人・・・・、いえ、過保護な人なんだろうと分かってもらえたと思います。お父さんはこのように過保護な人だったので、わたしは小5にもなりながら、一人でおつかいに行ったことがありませんでした。なのでわたしは「おつかい」に憧れを抱いていました。今まで幾度となく頼み込んできました。しかし結果はNO。ことごとくすべて断られてき続けました。
しかし今日!
なんと今日、ついにそれが叶えられる時がやってきたのです!
今まで頑なに首を横に振らなかったお父さんから、許しをもらうことができたのです!
そんな訳で、今わたしは胸を躍らせていました。だって楽しみなんだもん!と『だもん』をつけて言えるくらいに楽しみでした。この際、お父さんが後ろから隠れてわたしのことを覗っていたとしても構いません。ただ初めてのおつかいができる、それだけで嬉しいのです。
わたしは気持ちよく玄関の扉を開き、外に出ました。ちょうど開けた瞬間、風がビュウと吹き上がります。なんかいいね!こういう雰囲気いい感じだね!さらにテンションが上がっていくわたしは、ふと大切なことに気がつきました。
あれ、どこにおつかいに行くんだっけ?
お父さんからもらった店への地図を改めて探します。あの時はあまりの嬉しさで地図どころじゃなかったからなぁ・・・・。ポケットに、ん?と引っかかる物があり取り出してみるとくしゃくしゃになった地図でした。あれま、ちゃんと扱ってなかったからこんなことに・・・。やれやれと少しだけ反省したわたしは早速地図を広げてみました。
さーて、どこかな?
わたしは地図を、真顔で見つめます。
地図に書いてあったおつかいの行き先は、
わたしの家の隣でした。
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