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眠れる竜の寓話  作者: みえさん。
第五章 悪夢の記憶
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 クウルがシェンリィスを連れてきたのは、領都から少し外れたところにある森の中だった。手入れされているという印象はないが、いくつか道らしいものがあった。

「こんなところに友達がいるの?」

「うん、みんな臆病だから俺以外が一緒だとなかなか近づいて来ないんだけど……来いよ、こいつなら大丈夫だからさ」

 彼は茂みに向かって呼びかける。

「?」

 シェンリィスは不思議な気持ちでそれを見つめた。がさり、と茂みが動き、一瞬警戒をするがクウルが静かにするようにと指を一本立てて見せる。

「……」

 彼の指示通りに黙っていると、茂みから小さな動物が顔を出した。こちらの様子を窺うように耳を微かに動かしていたが、やがて一直線にクウルの元へ駆けてくる。小さな動物はクウルの身体を器用に登ると首の周りを一周して肩に座った。見たこともない動物だった。

「なんだ、お前だけ?」

 クウルが問うとそれは小さく鳴く。

「友達ってその子?」

「そ。いつもならもっと沢山出てくるんだけど、やっぱ警戒してんのかな?」

「キイスさんに隠れて飼っているんだね」

「お、違うぞ。こいつらこの森に住んでる野生だよ。誰にも飼われたりとかしてねーの。俺も別に食べ物やる訳じゃねーし」

「え……?」

 シェンリィスは目を瞬かせる。

 警戒心の強い野生の動物が竜に懐くなんて事はあり得ない。彼の言うようにその気配だけで警戒して出てこないのが当たり前なのだ。クウルからは確かに竜の気配がする。けれど、彼の肩の上に載った小動物は彼に警戒することなく甘えるように頬ずりさえしていた。

「……あーなるほど」

「え?」

「何か色々騒がしかったからさ、みんなちょっと遠くに逃げちゃったんだってさ。コイツの仲間は地下に隠れてるらしい」

「クー、言葉が分かるの?」

 驚いて聞き返すと彼は不思議そうにした。

「やっぱシェンも言葉わかんねーんだなぁ」

 クウルが肩に手を差し出すと小動物はクウルの手に飛び移った。

「キイスもミユもみんなわかんねぇって言うんだ。飼われてる動物とかだったら何となく気持ちは分かるらしいけど」

 それは異常なことではないだろうか。死期の迫った竜の頭の上に小動物が巣を作ることは稀にあるが、それは竜の存在がより魔法そのものに近づいているからだ。なのに何故彼には懐き言葉まで分かるのだろう。

 それではまるで。

(精霊種みたいだ……)

 あり得ない、と思う。

 竜の谷に精霊が留まれば大気に融けてしまう。だからそれはあり得ないのだが、目の前で起きている状況説明が出来ない。彼は竜に慣れない故に、野生動物も同種のものと思っているのだろうか。

「ま、とりあえず、シェンここで待ってて」

「え? どこへ行くの?」

「森の奥。さすがにさ、子供生まれたばっかだと警戒心強くてすぐ近づけないから、いいかどうか確認してくる。それまでここにいて」

「えっ、ちょっと待ってっ」

 制止する言葉も聞かず彼は森の奥へとかけていく。

 子竜殺しの犯人も捕まっていないと言うのに一人にさせるのは危ない。彼に後で怒られたとしてもここは追い掛けていくべきだろう。

 そう判断をして走り出そうとした時、急激な頭痛に襲われる。

「っ……」

 シェンリィスはその場に蹲った。

 いつだったかこんな事は無かっただろうか。

 ここを動いては行けない。

 誰かがそう言った。だが、シェンリィスは心配でその人の後を追ったのだ。咎められることも覚悟でその人の後を追い掛けた。背は高かった。脳裏に浮かぶのは青の外套と、揺れる黒髪。そして、長い槍。

(これは……誰?)

 知っているはずだ。見たことがあるはずだ。自分はよく知っているはずの人だ。

 黒い髪が見える。

 綺麗な黒鋼の竜だ。

 涙がこぼれる。

 あの時シェンリィスは彼の後を追ったのだ。追って、そして初めて気付いた。自分が何であるのかを、彼の役割を。

 あの人はそのこと嘆いて悲しんでくれた。でも、自分は嬉しかった。あの人の役に立てることを知ったから嬉しかったのだ。

「……竜王………アスカ……僕の‘所有者’」

 そうだ。

 自分はあの竜王のためにある。

「僕は竜王の……」

 後少し。

 後少しで繋がるその瞬間、射抜くような鋭い気配に気付く。

「クー?」

 血の気が引くのを感じた。

 それはクウルの気配などではない。他の竜のものだ。恐らく腕の立つ戦士。竜にもなれない、戦士でもない幼いクウルではひとたまりもないほど圧倒的な力を持った竜の気配だった。

 シェンリィスは慌てて立ち上がる。立ち上がるが早いか走り出した為に転びそうになったが、気配を辿って足場の悪い森の中を鋭く駆けていく。

 早く助けに向かわなければ、取り返しの付かないことになる。

 彼を死なせたくない。危険な目に遭って欲しくない。記憶を無くした自分を受け入れて、信じてくれた大切な友人なのだから。

 薄暗い木々を抜けて、開いた場所へ出た時だった。

 シェンリィスの瞳は空中を舞う少年の姿を見た。投げ飛ばされたと言う方が正しいだろう。赤いものを吹き出しながら少年の身体が目の前を通過していった。

「クー!」

 叫び、近づこうとした瞬間シェンリィスは動きを止めた。

 動けなかった。

 長く伸びた爪を真っ赤に染める男がいる。

(な……に……?)

 心臓が跳ね上がる。本能が男を拒否するような激しい音を立てて心臓が早鐘を打ち始めた。

 退紅色の髪と、浅黒い肌の男だ。口元に獰猛な笑みを浮かべて男が振り返る。

 息が出来なかった。息をすることも忘れてシェンリィスは男を見つめる。炎が燃えるような赤い瞳だというのに、酷く冷たい。それなのに、その瞳を見た瞬間シェンリィスの全身の血が沸騰した。


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