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眠れる竜の寓話  作者: みえさん。
第二章 竜王の血
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 角が間近に迫っていた。

 シェンリィスは軌道を読みそれを剣で跳ね上げる。だが跳ね上げが甘かった。戻ってきた竜の角がシェンリィスに振り下ろされる。

「あっ……」

 シェンリィスは小さく悲鳴を上げて転倒した。

 つぶされる、と思った瞬間、彼の動きが止まった。

「へへ、僕の勝ちぃ」

「あ……あーあ、僕の負けだね……」

 シェンリィスは溜息をつく。

 少年が竜の姿から人の姿へと戻った。フェリアルト種の彼は満面の笑みを浮かべている。

「シェンリィスは駄目だな。技術は天才的なのに、いざっていうときの詰めが甘いっての」

「うん……、僕きっと戦闘に向かないんだよ」

「まぁ、性格は学者肌って感じだもんな。でも、お前の力もったいねぇぜ? へーかも一目置いてる位なんだから」

「頑張ろうとは……思うんだけど」

 シェンリィスは俯いた。

 訓練や型の練習はスムーズにこなせる。身体能力が元々高いらしいシェンリィスは大抵の技はすぐに覚える。だが、戦いとなるとどうしても畏縮してしまい練習通りに出せないのだ。

 竜としては致命的なものだろう。

 ふいにつかつかとこっちに向かって誰かが歩いてくる気配を感じた。来る人物を認めてシェンリィスは笑みを浮かべる。

「あ、丁度良かった、君に後で……」

「っ!」

 話が終わるよりも前に彼の手がシェンリィスの頭を強かに叩いた。

「いっ……」

 自分と同じくらいの年齢の、退紅色の髪の少年だった。怒ったような顔でシェンリィスを睨み付けている。

「いった! いきなり叩くなんて酷いよ!」

「うるせぇ! 何だあの戦い方は! それでもレミアスの竜かよっ!」

「人の姿で竜と戦うのって結構大変なんだよ。君だって知ってるはずだよ!」

「ああ、大変だよ。だが、今のは完全に手加減しやがっただろ。大方、ハイノの角が万が一にも傷付いたらって考えて腰が引けたんだろ!」

 図星を付かれてシェンリィスは口ごもる。

「そんなこと……」

 ハイノは少し肩を竦める。

「何だ、シェンリィスそんなこときにしてんの? 俺フェリアルト種だから角硬いから平気だって言っただろ? 訓練用の剣くらいじゃ折れないって」

「で、でも……」

「でもじゃねぇ! やっぱりそうなんじゃねぇか。だからお前はみんなに馬鹿にされるんだよっ! てか、ホント馬鹿じゃねぇの?」

 胸ぐらを捕まれて叫ばれて、シェンリィスは少しむっとして彼を睨む。

「君には言われたくないよ。死ぬと分かっていて‘へいか’の部屋に忍び込むような君にはっ」

「そ、それとこれとは関係ねぇだろ」

「わわ、二人とも止めて」

「うるせぇ! お前は黙ってろ! ……大体てめぇはいっつもいっつもむかつくんだよっ! 強い癖に他の奴らにやられてもへらへらしてやかってよ、たまには本気でやりやがれ!」

 言われ、シェンリィスはにやにや笑う。

「へぇ? 君、僕のこと強いって思ってくれてるんだ」

 かっと、彼の顔に血が上る。

「な、な……」

「確か強い竜が好きだったよね? ……へぇ?」

「う、うるせぇ!」

 頬に彼の拳が当たり、シェンリィスは大きく飛ばされた。

 火がついたように身体中が熱くなる。

「………いきなり殴るなって、言ってるだろ!」

 シェンリィスは立ち上がるとすぐに彼を殴りにかかる。一発目は交わされたが二発目が顎に命中する。

 彼はよろけて後退したが、すぐにシェンリィスに掴みかかってくる。シェンリィスもそれに応戦した。

「……ってぇ。いい度胸してんじゃねぇかよ、あぁ?」

「最初に攻撃したの、そっちだからね!」

「死ねよ。くたばれ!」

「それ、両方同じ意味だよ!」

「うるせぇ!」

「君はちょっと語彙が貧困なんじゃないの? 戦ってばっかじゃなくて、少し知識増やしたら?」

「誰が馬鹿だ!」

「そこまで言ってないって」

「同じ事だろうが!」

「あーあ、はじまっちゃった……。シェンリィスは何で彼にだけそうなのかなぁ」

 呆れたような呟きが聞こえたかと思うと不意に首元を捕まれ引き離される。

 はっとしてシェンリィスはその人物を見上げた。

 黒い髪の男。既婚を示す右側の頬にはアソニアの模様が描かれていた。

「こらこら、ちびたちケンカはしちゃいかんと言っておるじゃろ?」

「へいか……」

 引き離されすっかりやる気を失ったシェンリィスだったが、彼はなおも暴れ足りないような表情で男を睨む。

「離せ、ジジイ! こいつとの話は終わってねぇんだ!」

「話というのは殴り合いをすることではないのじゃよ。まったく、それでもわしの戦士の候補生かね?」

「す、すみません……」

 シェンリィスは恥じ入るように謝る。

「…………も、ごめん。僕、少し言い過ぎた」

 言われ、彼は少し唇を尖らせる。

「俺の方も、いきなり殴って悪かったよ。……けどな」

 彼はきっとシェンリィスを睨む。

「俺は納得してねぇからな。てめぇ、いつまでも馬鹿にされてへらへらしてんじゃねぇよ!」

「ほう、なるほど、自分が馬鹿にするのは良くても、他の者にシェンリィスが馬鹿にされるのが許せないんじゃな」

「う、うるせぇ、死ね、ジジイ」

「ツンデレじゃのぅ」

「つ、つんでれ?」

「何それ」

「それって、どういう意味ですか?」

 三人に尋ねられ、彼は赤毛の彼を撫でる。

「ん、んー、うーん、………内緒じゃ」

「ちょっと待て、悪口じゃねぇよな?」

「褒めておるのじゃよ」

「……褒められた気がしねぇ」

 ぶすっとする彼を見てハイノがけたけたと笑い出す。

「お前、へーかに弱いなぁ! シェンリィスの事言えないじゃん」

「……ハイノ、てめぇ、本っっ気で殺されてぇようだな」

 掴みかかろうとした彼を避けて、ハイノが訓練施設を駆け出す。他の訓練をしていた竜達も、さすがに気になる様子で彼らを見、やがて囃し立て始めた。

 今まで自分が彼とやり合っていたものの、こうしてケンカが始まると何故かはらはらしはじめる。

 止めるべきかと迷っていると、ぽん、と頭の上に手が置かれた。

 大きな手だった。

「へいか?」

 彼は優しい笑みを浮かべる。

「御主は戦士になるには優しすぎるようじゃのう」

「すみません……頑張っては、いるんですが」

 目を掛けてくれているのに、結果が出せない。

 それがもどかしいのだ。

「謝る必要はないよ。優しさも時として武器じゃ。……ふぅむ、御主今度わしと交えてみぬか?」

「えっ?」

「わしは強い。わしならば遠慮せずに打ち込んでこれるじゃろ」

「で、でも、へいかに攻撃なんて……」

「そうじゃの、わしから一本とれたら‘ツンデレ’の意味を教えてやろうかのぅ。やってみぬか?」

 一本取るなんてとても出来そうにない。「つんでれ」をどうしても知りたいわけじゃない。けれど、何故か少しやってみる気になった。

 シェンリィスは頷いた。

「やってみます」



   ※  ※  ※  ※


「シェン、おい、大丈夫か! シェン!」

 身体を揺さぶられてシェンリィスはうっすらと目を開く。

 見えるのはフェリアルトの衣服を着た子供。

 ハイノではない。別の竜。

「……クー?」

 クウルはほっとしたように頷く。

「そうだよ。良かった、大丈夫か、シェン?」

「………シェンリィスだよ」

「え?」

「僕の名前、シェンリィスって言うんだ……」

「記憶、戻ったのか?」

 シェンリィスは首を横に振る。

「夢で、少し、見ただけ」

「そっか……」

 シェンリィスは手を動かして手のひらを見つめる。

 赤い色をしている。

 血の色だ。

 ハイノの血の色。

「……シェン?」

 涙が溢れる。

 悲しかった。殺してしまった竜のことを考えるととてつもなく悲しくなる。本当は殺したくなかった。でも、あれ以上苦しむのが耐えられなかった。気が狂ってしまえば、もう、苦しみしか残らない。

 ごめんね、と言う言葉は嗚咽になってかき消えた。



 ごめん、それから、ありがとう。


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