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眠れる竜の寓話  作者: みえさん。
第二章 竜王の血
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 フェリアルト城下は他の土地の城下よりも雑然としている場所だろう。

 鉱山のフェリアルトと呼ばれるだけあって魔法武具の材料になる鉱石が多く産出され、それによって栄えた場所だと言われている。現在も採掘が行われているためフェリアルトの竜は屈強な人が多い。また鉱物によって武具を鍛えている為に職人も多いのも特徴だった。

 職人街を歩きながらクウルは露天で売られている武器を手に取った。

「俺としてはだよ、こういうのでもいい訳ですよ」

「んー、坊にはあわないと思いますよ。武器は自分にあったものを選ばないと」

 後ろを歩いていたセイムはのんびりとした口調で言う。

 ミユルナの隊で働くセイムは戦闘がない時はとてものんびりとした性格をしている。フェリアルトの竜らしく体つきはいいものの、キイスのように大柄という印象は少ない。青い髪を編み込んでまとめている。爽やかな印象のある男だった。

「でもさー、俺は竜になれねぇからさ、武器なんてどうでも良くないか?」

「竜になろうとなるまいと自分の身の丈にあったものじゃないと扱えませんよ。あと、自分に同化させられないと持ち運び不便ですよ」

 竜族は人の身体と竜の身体の両方を持つ。それは表と裏であり、竜族は自分の意思で変化させることが出来る。人の姿に慣れていない子供の竜は上手く出来ないが、成竜にもなれば身体の一部を竜の状態に変化させて戦うことも出来る。そのため武器は必要ではないのだが、竜の身体は魔力を消耗しやすい。多くの竜が普段は人の姿でいるのもそれが理由の一つだった。

 消耗しやすい竜の身体に戻るよりも‘武器’で戦った時の方が効率がいい。そのため多くの竜は武器を持つ。魔石を使って作った武器は自分自身にあったものであれば竜に変化した時に同化させやすい。好んで剣を腰に下げて歩く者もいるが、自分の魔力と近ければ人の姿でいる時も同化させていれば持っている事が出来る。衣服も同様に魔法繊維で作っており、竜に変化した時に同化し破けることはないのだ。

 竜族の持ち物は自分にあったものをあつらえていくのが基本だ。露天で売られているものは誰かの遺品であったりするために自分専用の武器には成り得ない。竜王剣ほどの魔力を有する剣ならともかく、よほど血筋の近い人のものでなければ他人の武器を使いこなすのは難しいと言われている。普通に人間が使うような剣としては使えるため獣狩りには十分使えるが、竜同士の戦いには同化できるものではないと向かないそうだ。

「同化ねぇ」

 クウルは持っていた剣を見る。

 少し自分の魔力を注いでみるが反発して戻される感覚があった。これは同化出来ない剣なのだろう。

「俺戦う気ねぇし、練習用の木刀でもいいんだけどなー」

「駄目ですよ、坊。最近は不安定でいつ何が起きるかわかんないんですよ。せめて咄嗟に身を守れるだけの武器を持ってないと危ないです。今日こそあった武器を探しますよ」

「へーい」

 気の抜けた返事を返してクウルは歩き出す。

 ここ数日こうして町に連れてこられるのは武器を探すためだ。前々から持っているようにとキイスに言われていたが、もつ気にはなれなかった。竜同士の戦いの為に剣をもつなんて嫌だと思う。訓練での戦いは好きであるけれど、命のやりとりをする戦闘は好きになれない。

 切られれば痛いし、死ぬこともあるのだ。

 そんなの、楽しくないだろう。

「どうせ持つならさ、ばーんと派手で、でーんとしてて、武器見ただけでみんなビックリして逃げるようなのがいいよなー」

「んー、なかなかないですよ、そんなの」

「セイムならどんなのビックリする?」

「そりゃやっぱり竜王剣ですよね。あれ持っている竜に戦闘申し込まれたら敵前逃亡したい気分になりますよ」

「じゃ、それがいい」

 セイムは笑う。

「無理ですって。竜王剣は竜王が東方将軍に渡す武器ですから、東方将軍にならないともてませんよ」

「東方将軍ってどうやってなるの?」

「竜王が任命するんです。沢山戦って沢山功績積んだ竜じゃなきゃなれません。坊は戦うの嫌なんでしょ? だったら無理ですね」

「そっかー。じゃ、他にねぇの?」

「んー、強いて言うならアレですね」

 言ってセイムが指差した場所にはキイスよりも巨大な剣が突き刺さっている。フェリアルト城下の職人街を見下ろすように高い場所に飾られている。

 過去、竜王リヒトが使っていた剣と言われている。

「あれって本物なん?」

「らしいですよ。抜けたらその人のものらしいです。迅雷王の剣が自分の剣って格好良いじゃないですか。アレ自身、そうとうな魔力をもっているらしいですよ。竜王剣に並ぶくらいの。だから、自分も小さい頃ためしましたし、この辺の子供はみんな一度はやってますよ。勿論抜けませんでしたが」

「ふーん、リッヒーってさ、俺のご先祖様だろ?」

「そうですね、フェリアルトの竜は迅雷王の末裔と言われてますから。中でも領主家は一番濃い血を引いているみたいですね」

「じゃ、抜けるかもしんなくね?」

「ああ、やってみます? キイス様も昔試したって言ってましたし」

 クウルはにぃと笑う。

 これでクウルに抜ければキイスをからかうネタになる。そして持っていれば戦闘を仕掛けられても相手がビックリして逃げるような代物だろう。

 何しろ伝説の「迅雷王リヒト」の持ち物なのだ。

「よーし、じゃ、ちょっと行ってくる」

「気を付けて下さいねぇ」

 セイムの声を聞きながらクウルはしゃがみ込み身体に魔法をまとわりつかせた。大地を蹴り高く舞い上がると同時に魔法を発動させ、より高い場所へ舞い上がる。

 魔法を使う時、いつも不思議な感じがする。

 一瞬自分が自分でなくなるような感じがするのだ。それなのに不思議と嫌悪感を覚えない。懐かしいような、暖かい感覚。そして時々何故か酷く寂しくなる。それは、多分、自分の身体が竜になりたがっているという感覚。

 それを感じてしまうために魔法を使うことが好きか嫌いかよく分からなくなる。誰に相談しても分からないだろう。この感覚はクウルにしか分からない。

 クウルは剣の突き刺さった台座へと降りる。

 剣はクウルの身の丈の倍以上あった。

 呆然とクウルは見上げる。

「でけー、こんなん、使っていたリヒトってどんなでかい竜なんだ?」

「ぼーん、抜けそうですかー? 風が強いから気を付けて下さいねー」

 下の方からセイムの叫び声が聞こえる。

 クウルは叫び返した。

「今やってみる! 万一おちたら受け止めよろしくなー」

「だから、気を付けてくださいってばー」

 にへら、と笑ってクウルは剣を見つめる。

 抜くってどうすればいいのだろう。大きすぎて引っ張りようもない。

 取りあえずクウルは抱きついてみた。

「………?」

 一瞬、脳裏に何かが浮かぶ。

 クウルそれを見ようと集中するために目を瞑った。脳裏の感覚が少しだけはっきりとする。

(……なんだろう……広い水)

 暗い場所。

 漠然と水があるように感じる。

(うみ、だ……)

 クウルは思う。

 海というのをクウルは見たことがない。本の知識で知っている程度だ。けれど、それははっきりと海と感じる。

 広く広大な海。

 始まりと終わりの場所。

(……冥府の混沌………魔法の……海)

 ぼん、と誰かが呼ぶ。心配したような声だったが、クウルにとってこの海の方がもっと重要だった。

 海がある。

 そこからゆっくりと何かが出てくる。

 それは、金の、

「坊っ!」

「……っ!」

 セイムの叫び声を間近で聞いてクウルははっとした。

 刹那、強い爆風に襲われる。

 後ろにセイムの気配を感じた。クウルはセイム抱えられた状態で大きく吹き飛んだ。衝撃の後、ようやくクウルは目を開いた。

 酷い頭痛と耳鳴りを覚える。

「てぇ………」

「坊、大丈夫ですか?」

「………セイムは?」

「平気です」

「……一体、何が」

「坊があれに触れた時から光り出したんです。にしても、本当に抜いてしまうなんて思っても見ませんでしたが」

 ざわざわと周りがざわめいている事に気付く。

「抜いた?」

「抜いたんですよ、坊が。全部じゃないみたいですけどね」

 右手に少し重みを感じた。

 視線を向けると自分の腕の代わりに金色の物体がくっついている。

「な……っ、何だこれーーー!」


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