1.春の訪れ
人気のない廊下でリズは途方に暮れていた。今日は国立魔法学院の新入生へ向けたオリエンテーションの日。本来ならあと数十分後には、大講堂なる場所で決められた席に座って教師陣による説明を受けなければならないのだ。
しかし今リズが立っているのは、まるで人の気配のない校内のどこかだった。
(ここはどこだろう……)
何故かいつもふとした拍子に迷子になっていることが多い。幼い頃はそれでよく祖母が肝を冷やしたと話していた。
とんでもない方向音痴。人に付いて行っていたはずなのに気がついたら自分だけ別の場所に立っていることは日常茶飯事だった。
「どうしよう、早く講堂に行かないと…」
このまま前へ進んでいいのか、来た道を戻るべきか。それとも扉を開けて中に人がいるか確認をすべきか。
そうだ、誰かがいればその人に聞けば良い。とリズは意を決して数歩先に見えた扉をノックした。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?迷子になってしまって…」
声をかけながら部屋を覗くがそこには誰の姿も無かった。それどころか、ドア横の棚には埃が積もりしばらく人の入った形跡もない。
仕方ない、来た道を戻るかと後ろを振り返ろうとした時、
「君はここで何をしている」
「す、すみません!迷子に、講堂へ行きたかったのですが気がついたら迷子になってしまって!!!」
嘘ではないが言い訳のように慌てて言葉を紡ぎながら、声の方を振り返った。
そこに立っていたのは、教師のローブを纏った長い金髪を肩の辺りで緩く結った、モノクルを掛けた若い男性だった。
薄紫の瞳がリズを映す。感情のよく見えない瞳と、無言の間に緊張感が増す。
「……ここは立ち入り禁止のはずだが」
「すみません!気がついたらここにいて……えっと、」
「……いや良い。君は……新入生か?」
「はい、新入生のリズ=バーニッシュです」
「そうか」
「……」
知らなかったとはいえ、立ち入り禁止の所へ入り込んでしまっていたようだった。またやってしまったと、目の前の教師が無言で自分を見下ろすのを見ながらリズは内心青くなった。
「あの、勝手に入るつもりはなかったんです…すみま―――」
「講堂はこちらだ、付いてきなさい」
言葉を遮るように、目の前の男は言葉少なにそう伝えるとリズが来たのと反対方向に向かって歩き出した。
慌ててその後ろについて行きながら、これで無事に目的地へたどり着けると、リズはホッと息をついた。
◇◇◇
「1週間後の入学式までに寮へ入ること。入寮時に制服一式、教科書一式を渡すので必ず受け取ること」
配られた用紙にメモを取る。
今の説明で最後の用紙だった。リズは無事にオリエンテーションに参加することができていた。
(お礼、言いそびれちゃった)
配られた紙をまとめながら、迷子になった自分をここまで送り届けてくれた教師のことを思い出す。ちょっと近寄り難い雰囲気の綺麗な先生だった。
「危険なところには近づかないように」
目的地に着くと言葉少なにそう伝え、足早に去っていってしまったためお礼を言えなかった。まるでこちらの言葉など不要だと言われたようでその細い背中を見送ることしか出来なかった。
今度会えたら必ずお礼を言おう。リズはそう心に決め、まとめた用紙を鞄へ丁寧にしまった。
周りにいる新入生たちは、みなこれからの生活に向けての期待と不安に溢れていた。もちろんリズもその中の一人である。講堂を見回し、これから始まる新しい生活に胸を弾ませた。
外は春の暖かな日差しが降り注いでいた。
初めまして、作者のゆりかと申します。最後まで読んでいただきありがとうございました。
小さい子どもがいる関係で更新ペースは週に1から2回程度になる予定です。
ゆっくりペースで進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。




