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替え玉お嬢様は魔法がつかえない  作者: 永杜光理
一章 突然の異世界
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第7話 替え玉に苦労はつきもの

「謝ることじゃないよ。それにずっと路上生活を続けるよりは、良い暮らしをさせてもらってる。ありがたいことに魔法の勉強も出来てるし」

「その代わり、エミリアの相手を四六時中してもらってるけどね」


 アレンダが付け足した補足のせいなのか、バルタザールが肩を落とした。


「まだ、エミリアのお守は続くんですよね?」

「そうだね、どんなに短くてもあと二、三年かな」


 深々と吐き出されたため息に、摩李沙は心の中でツッコミをいれる。


(だから、エミリアって子はどんな子なの! とてもじゃないけど振る舞いとか口調とか、真似できそうにないんだけど!)








 朝から夕方まで、食事休憩以外はみっちり説明を受けた。魔法についてひたすら難しい話が続くかと思えば、時折アレンダが簡単なものを実演してみせるので、それに驚いたりしていた。


 その日の夜、摩李沙はベッドの上で大の字に寝そべっていた。ひたすら頭を酷使したせいか、脳みそが重く感じる。


 今いるのはバルタザールの部屋だ。彼がどこで休んでいるのかは知らないが、摩李沙の存在を秘密にするため、ここに摩李沙を隠すことになったようだ。


(何か悪いな、バルタザールも疲れているのに)


 と思った直後、そういえば自分はエミリアの替え玉にされるわけなのだから、そこまで恐縮しなくてもいいのかと考える。


「上手くいってくれるといいな」


 体をうつ伏せにする。上半身だけ起こし、走り書きしたノートをめくって眺めた。


 この世界の魔法使いは、摩李沙がイメージしていたものとはちょっと違っていた。

 彼らが魔法を使う際には、何らかの道具を身につけたり携えている必要がある。魔法具と呼ばれるそれは個々人によってバラバラで、アレンダにとっては眼鏡であり、バルタザールにとっては剣だそうだ。


 魔法具がないと疲れやすかったり、詠唱の省略が出来ないなどの不便があるらしい。

 どんな魔法具が自分の魔力と相性が合い、力を引き出してくれるのか。それはいろいろと試してみないと分からないのだそうだ。


 ちなみにエミリアの魔法具は、三つの金の指輪だ。君が学校に行くまでには偽物を用意するね、とアレンダは言っていた。


(でも力が強すぎる魔法使いの場合、魔法具が必要ない人もいる。ただそれはまれなケースで、八大賢人くらいじゃないと……八大賢人って誰だっけ?)


 さらにノートをめくったが、疲労と眠気でろくに文字が入ってこない。


「……もういい! 今日はねちゃおう!」


 用意された寝巻に着替えて、さっさとベットにもぐりこんだ。


 灯りを消す前、イヤリングが揺れたのに気づく。迷ったあげくそっと外し、祖母の形見のペンダントとまとめて寝台机に置いた。

 乳白色の石でできたペンダントが、イヤリングの光をほのかに反射していた。


「何とかなるよね。何とかするしか、ないか」


 よほど疲れていたのか、摩李沙はすんなりと眠りの世界へ落ちた。


 夜の暗闇に沈んだ部屋。イヤリングには蛍火のような青い光が宿っている。

 すると――ペンダントもいつの間にか、イヤリングの光に共鳴するように輝きだした。光はペンダントにも移り、たちまち二倍以上の強さになる。

 摩李沙が気づくことないまま、ペンダントは夜が明けるまで淡く青く輝き続けた。




  ◆◆




 数日にわたって準備をし、主にアレンダから何度もなだめられ、魔法学校へ登校した初日。


 リーゼラたちのせいで早くもくじけそうになった摩李沙だが、教室に入ってしばらくして、もっとげんなりしてしまった。


 バルタザールと隣同士で着席したはいいものの、クラスメイトのヒソヒソ話がやたらと耳に入ってくるのだ。


「エミリアが大人しくないか?」

「いつもならバルタザールに小言を言ってるのに。暑いだの眠いだの」

「風邪で性格が変わっちゃったのかな?」

「ありえない。そんなわけないでしょ」


(……そんなにとんでもない子なの?)


 摩李沙はうっかり、鞄から取り出した教科書を床に落としてしまった。すぐさまバルタザールが拾ってくれる。


「気をつけろよ」

「あ、ありがとう。ごめんなさ……」


 と言いかけたところで、バルタザールは必死に摩李沙に目配せしてきた。クラス中の空気が驚愕で固まるのを、肌で感じる。


「お、おい! エミリアが謝罪したぞ! バルタザールに!」


 そんな中、男子生徒が一人こちらへ近づいてきた。


「おはよう、バルタザール」

「おはよう、クラウス」


 クラウスと呼ばれた生徒は、バルタザールと摩李沙を交互に見る。それだけで摩李沙は緊張で冷や汗が流れるのを感じた。


「ん? バルタザール、お前のイヤリ……」

「おい、やめとけって!」


 突如、クラウスに一人の男子生徒が飛びついた。


「うわっ! 何だよリック」

「いいからこっち来い! あは、あはは。バルタザールにエミリア様、どうもお邪魔しましたあっ!」


 絶叫しながら、リックはクラウスを教室の奥へと引きずっていった。二人の姿を目で追うと、皆の視線が無遠慮に突き刺さってくるのが嫌でもわかる。


 バルタザールの咳払いに、摩李沙はあわてて何度も咳き込むフリをした。バルタザールがやんわりと背中をさすってくれる。


「大丈夫か? 弱気になるなんて、エミリアらしくないぞ」

「うん、そうね」


(この茶番、いつまで通じるかな)


 幸先が良くないように感じた摩李沙だったが、授業でさらに気持ちがまいってしまう。


 リクスイユ魔法学校は、授業ごとに生徒が講義室を移動する方式らしい。そのため、生徒はどこの席に座っても自由なのだという。

 今受けている授業は、国をまたいだ組織である魔法協会の諸々についてだ。

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