表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/56

第55話 届いたメッセージ



  ◆◆




 奇妙な日から数日が経った。


 あれから不運なことは起きてない。がどうしてか、祖母からもらったペンダントがどこを探しても見当たらないのだ。


 由依花に愚痴ると「摩李沙を不幸から守るために、ペンダントが摩李沙の前から消えたのかもしれないよ。そういう考え方があるんだって」と慰められた。


 それでも諦めがつかず、家じゅうをくまなく探した。通学路も目を皿のようにして毎日確認した。

 それでもペンダントは見つからなかった。


 またひとつ妙なことに、ヘンテコな夢をよく見るようになった。

 自分が魔法使いの少女となり、魔法学校へ通う夢だ。


(あれ、夢なのかな?)


 日曜日の朝、ベットから身を起こした摩李沙は、寝ぼけたままの頭で思う。

 起きてしまえば詳細を忘れてしまうのだが、夢で起こるあれこれが、実際に見てきたように鮮明に感じるのだ。


「まさか、ね。あり得ない」


 カーテンを開け、日差しを浴びながら伸びをする。良い天気だ。空には白い雲が広がり、まるで牙をむいた勇壮な竜の姿に見えた。


「竜? 赤い色の、炎の竜……」


 少し考え込んで、摩李沙は首を振った。


「もしかしてこれって、おばあちゃんの形見を無くした影響なのかなあ」


 カーテンをタッセルでまとめようとして、手が止まった。


 高校に入学する前、母にねだって買ってもらったものだ。パステルの水色がお気に入りで、目にするたびに気持ちが高揚する。


「水色……」


 脳裏に引っかかるものがあった。

 水色の瞳、その瞳と同じ色彩のイヤリング――


「あ」


 摩李沙は通学鞄へ手を伸ばした。急ぐあまりにひっくり返し、床に中身を広げて確認する。


 その中に紛れ込んでいた、丸められた一枚の紙。

 それは、誰かから何かを貰った際の包み紙のはずだ。捨てるのが忍びないので、この数日間放っておいた。


「でも誰から? 何を貰ったんだっけ?」


 そこだけ穴が空いたように、思い出せない。

 おそるおそる紙を広げた。そこから出てきたのは、片方だけのイヤリング。

 しずく型の石で出来たそれを、じっと見つめた。


「このイヤリング、見たことある、よね」


 それどころか、身に着けていた覚えすらある。

 ある少年の姿が、ぼんやりとよみがえった。

 こわごわと、イヤリングを耳に着けてみる。

 すると。


『聞こえるかな、マリサ』

「うわっ!」


 叫んでイヤリングを外した。心臓が鼓動を早める。

 今の幻聴は何だったのだろう。摩李沙には、霊感はないはずなのだが。


 だが、今の声は決して嫌なものではないという強い確信があった。

 再びイヤリングをつけてみる。


『聞こえるかな、マリサ。俺の声が届いているといいんだけど。これを聞いている君は、俺のことを忘れていると思う。俺だけじゃなくて、アレンダさんやエミリアのことも。とにかくこの世界に関することすべて、記憶から無くなっているはずだ。エミリアが、そうなるように魔法をかけたはずだから。


 二人は君を信用していないから、こんなことをしたんじゃない。ひとえに、俺の安全を考えてのことなんだ。だから思い出せないかもしれないけど、どうか二人のことを許してほしい。


 それとマリサのおばあさんのペンダントだけど、俺がもらい受けたのも忘れているだろうし、伝えておくね。マリサには悪いけど、俺は母さんの魔法具を手に入れることができて、とても嬉しかった』


 摩李沙はまた、イヤリングを外した。


「バルタ、ザール?」


 名を呼ぶと、ぼんやりと顔が思い浮かぶ。アレンダやエミリア。ソフィーにリーゼラにリックにクラウス……そうだ。


「私、異世界にいたんだ」


 もう一度、懐かしい声を聞くためにイヤリングを着けた。


『そこでお詫びと言ってはなんだけど、このイヤリングの片方を君に渡そうと思う。これは俺が母さんの元から離れた時、身に着けていたものなんだ。今回の件でやっと思い出したんだけど、これも母さんが作った魔法具だ。マリサが持っていたペンダントのような、強力な力を秘めたものじゃないけれど、このイヤリングがあるかないかで、俺が扱える時間魔法の種類や強大さが変わってくる。そんな気がするんだ』


 脳裏に浮かんだのは、時を止められたトアンの姿。

 あの時バルタザールは、ペンダントとイヤリングを使っていた。その際、何かに気づいたのだろう。


『あくまで俺の予想だし、今のところ誰にも話していない。アレンダさんにもね。だから君にイヤリングを託したことがばれたら、怒られるかもしれない。でも俺は、怖かったんだ』


 一瞬の間があった。目の前にいないバルタザールへ、大丈夫だよと言ってあげたくなった。


『時間魔法はアルシノエのみが、何のわざわいも受けることなく使えた。そしてアルシノエに続く二人目は、俺になる。でも俺は、母さんから何も教わっていないに等しい。時間魔法に関するめぼしい情報が伝わってないってことは、母さんの魔法は失われたってことだ。それが今よみがえったとなれば、混乱するのは目に見えている。


 いつか俺は誰かのためか、自分のためかはわからないけど、たくさんの人を傷つけるようなことをしてしまうのかもしれない。そうならないのが一番いいんだけど、そうなる日が来ないとは断言できない。


 あ、長々とごめんね。つまりさ、イヤリングのひとつが異世界で暮らすマリサの元にあれば、俺の時間魔法は母さんを上回ることはないはずなんだ。そういう確信があるからこそ、君に託そうと思った』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ