第41話 魔法省による調査
「あの洞窟は元々、蒼蘭光石の採掘場だったの。魔法具とみられる蒼蘭光石も砕けてはいたけど落ちていたから、魔法省は時間魔法の可能性も一応疑ったみたい。トアン先生の研究内容が関連するものだったからね。それで現場にいた、まだ目覚めてなかったバルタザールの記憶を確かめるために、夢幻魔法を使える職員がバルタザールの記憶を覗いたの。お兄ちゃんは、反対したんだけどね」
「そんなことして、アレンダさんの立場は大丈夫なの?」
「魔法省の職員が、職務上で記憶や夢を覗くのは、例えば犯罪を起こしたけど口を割らない魔法使いに対して使うとか、そういった限られた例だけに適用されるって決まってるの。だからお兄ちゃんは、犯罪に巻き込まれた学生は例外だって意見したんだけど、最終的にバルタザールの記憶を見ることが決められた。トアン先生から話が聞けない以上、それしかないと特例が認められたんだって」
摩李沙は身を乗り出した。
「それで? 時間魔法が使えるってばれちゃったの?」
「覚えてる? バルタザールの魔法の特性」
あ、と摩李沙は声をあげた。
「そうか、時間魔法を使うたびに記憶が無くなっていくんだった」
「そうなのよ」
これまでの全ての疲労が押し寄せたかのように、エミリアはこめかみをもむ。
「夢幻魔法を使った職員によれば記憶が穴だらけで、お兄ちゃんやキール先生、私が魔法省に話した内容のほうが詳しいくらいだったって。ちなみにバルタザールの記憶喪失自体については、今回の事件で衝撃を受けた後遺症だって結論付けられて、それ以上は追及されなかったわ」
ふと、摩李沙は疑問に思う。
「どうして私は、魔法省に質問されないで済んでるの?」
「ああ。マリサのことは、隣国で昔お父様が助けたことのある、魔法使いでもない普通の人間ですってごまかしたの。魔法使い以外に関わることは、基本的には魔法省はしないから」
「そ、そうなんだ」
真相を探ろうとしている割にはいい加減だなと思うと同時に、エミリアの言葉が歯切れ悪くなる。
「気分を悪くすると思うけど、魔法省って魔法使いにしか興味がないの。魔法使いの起こした事件に人間が巻き込まれたら話は別だけど、今回マリサはお兄ちゃんの思いつきに巻き込まれた不運な傍観者扱いで、あんまり眼中になかったというか。お兄ちゃんが、マリサは連れらされてからずっと気を失っていたみたいだって嘘の説明をしたら、追及する気は無くなったみたい。普通の人間なら気を失うくらいの魔力をあびていた可能性も充分に有り得たから、特に不審に思われなかったそうよ?」
(杜撰だなー。魔法省って人間が嫌いなの?)
気を悪くしないで、とエミリアが申し訳なさそうに言うので、摩李沙は首を横に振る。
「むしろ助かったよ。質問なんかされたら、バルタザールの秘密をごまかしきれなかったかもしれないし」
励ますように言うと、エミリアも苦笑で返した。
「ありがと。それでね、バルタザールが治療を受けて何とか意識が戻って、今日我が家へ戻ってくることになったんだけど」
エミリアは腕を組み、不満げに眉をひそめる。
「お兄ちゃんったら、バルタザールの意識は戻ったけどあとは自分の目で確かめてくれって、それしか言わないのよね」
エミリアが、摩李沙の紅茶が無くなっていることに気づき、ポットを持ち上げる。ちょうどそこへソフィーがクッキーやらを持ってきてくれた。
二人の少女は、出来たてのお菓子に舌鼓をうつ。
「どうしてアレンダさんは、バルタザールのことを話してくれないのかな?」
「しつこく聞いてみたら、性格が一時的に変わっちゃったみたいなのよね」
「性格?」
「たまーにあるの。誰にでも起こり得るんだけど、元々の能力の限界を超えて魔法を使った時に、身体を壊したり、精神を病んでしまったり、それまでと人格が変わってしまったり」
さらりとエミリアは言うが、かなりとんでもないことではないか。
エミリアの背後に控えていたソフィーが、忍び笑いを漏らす。
「ちょっと、思い出し笑いは止めて!」
頬を染めたエミリアが大声を出す。照れ隠しのようだ。
「し、失礼いたしました」
だがなおも、ソフィーはクスクス笑っている。エミリアはやけくそのように食べかけのクッキーを頬張り、椅子にもたれかかった。
「……私が昔、夢幻魔法を使えるようになったばかりのころなんだけど。三日間くらいバルタザールにだけ暴力的になったことがあって、使いっぱしりにして無理難題をたくさん突き付けたんだって」
白状する声が小さい。彼女にとってはよほど恥ずかしい失態なのだろう。
「そんなことがあったの?」
「もう、ほんと最悪! お父様とお兄ちゃんは面白がって止めてくれなかったし、バルタザールにはしばらく距離を置かれちゃったんだから!」




