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替え玉お嬢様は魔法がつかえない  作者: 永杜光理
四章 恩讐はよみがえる
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第30話 再会

「マリサ、悪いんだけど、できるだけ後ろに下がっててくれる?」


 言われるがまま、摩李沙はエミリアと対極の位置になるように魔方陣を移動する。


「バルタザール、ちょっと前を向いて」

「……何する気なんだ?」

「嫌な予感する? たぶん当たってるわ。一回しか出来ないと思うから動いちゃ駄目よ?」

「わかったよ、もう」


 バルタザールが盛大なため息をついて、うなだれた。彼の縛められた両の手首に向かって、エミリアは己の両手をかざす。


 何かに気づいたトアンが、こちらを振り向いた。

 摩李沙は、彼の瞳に怒りがひらめくのを見た。


「焼き切れ!」


 その言葉に導かれるように、エミリアの手の中で赤い熱が爆ぜた。




  ◆◆




「よし、何とかなってよかった」


 満足げなエミリアだったが、摩李沙は「うわあ」とつぶやいたきり言葉を無くした。

 魔法具を身に着けてない状態だが、無事火の魔法が発動できたようだ。地面に倒れているバルタザールの両手の縛めは焼き切れているし、魔方陣の一部も床が吹き飛んだせいで破壊されている。


 確かに状況は一部好転しているが、代償に人的被害が出ている。


「小賢しい真似を」


 いらだちを隠さないトアンへ、一つの影が飛びついた。レグルスだ。


「みんな、こっちへ!」


 キールの呼びかけに、エミリアは伸びたままのバルタザールの背をバシンと叩く。


「行くわよ。今のうちよ!」

「もうちょっと優しくしてあげたら?」

「うーんでも、バルタザールは頑丈だし。たぶん大丈夫よ。後でたっぷり謝るから」

(トアン先生に暴力ふるわれた後にこれはきついだろうなあ)


 二人でバルタザールを両脇から支えて歩く。同年代とはいえ、男子の体は想像よりも大きい。トアンが何か叫んでいるが、レグルスが噛みついたり威嚇してくれるおかげで、こちらへ向かってこれないようだ。


 おかげで、摩李沙とエミリアはキールの元へとたどり着くことができた。


 まだ自失したままのバルタザールを慎重に地面に横たえたとたん、摩李沙は膝から崩れ落ちた。

 自覚はなかったが、かなり緊張していたようだ。全身から力がへなへなと抜けていくのがわかる。


「エミリアさん、遅くなってごめんね」

「いいえ、こちらこそご迷惑をおかけしてすみません」

「いろいろと聞きたいことがあるんだけど、この子は一体どういう……」


 摩李沙は顔をあげた。キールが遠慮がちにこちらを指しているのが目に入る。エミリアは首を振った。


「私もさっき初めて会ったばかりなので、詳しくはわからないんです。どうやら、ウチの馬鹿お兄ちゃんが私のフリをするよう無理やり説得したみたいで」


 キールはうなずいた。たったそれだけの説明で、ある程度を察したようだ。摩李沙を見る目が心なしか憐れんでいる。

 エミリアは拳を握りしめた。


「お兄ちゃんめ、絶対制裁加えてやる!」


 その剣呑な決意にかぶさるように、情けない叫びが響き渡った。


「もうキールさん! 置いてかないでくださいよー!」


 声の主はアレンダだ。半べそをかきながらのろのろと走ってくる。その涙が本気なのかどうか、定かではないが。


「雑魚を全員押し付けるなんて乱暴すぎますよ! 僕の身に万が一何かあったらどうするんですか?! いくらキールさんといえども、レアルデス家次期当主を危ない目に合わせたら、魔法省にそっぽを向かれちゃいますよ!」


 ぐだぐだ文句を言うアレンダだったが、妹たちの姿に気づくやいなや、眼鏡の奥の瞳がたちまちうるんだ。


「エミリアかい? エミリアなんだね? 無事でよかったよお!」


 感情の昂ぶるあまりきつく抱擁するが、エミリアは冷めた目をしていた。「はいはいはい」とあしらいながら、体に巻きついた兄の手をぽんぽんと叩いている。


「すぐに助けられなくてごめんよ? 怪我はないかい?」

「平気よ。それよりバルタザールが大変なの。あと、あの子よ」


 エミリアは座り込んだままの摩李沙を、びしりと指さした。

 兄を見る目が、一瞬できついものに変わる。


「魔力のない子に私の代わりをさせるなんて、あんまりにも滅茶苦茶よ。一体何を考えてるのこの馬鹿あ!」


 エミリアは胸倉をつかみ、兄をつるし上げた。先ほどの感動はどこへやら、アレンダがつま先立ちになって顔をしかめている。


 摩李沙はエミリアの乱暴な態度に驚かされてばかりだが、キールは慣れているようだった。学校での彼女をよく知っているからだろうか。


「いやね、これには深い、ふかーい訳が……ぐぅ。エミリア、息ができ、な」

「うるさい! 苦しんだフリしてごまかさないで!」


 兄妹がゴタゴタと言い合っている最中、バルタザールのまぶたがぴくりと動く。


「バルタザール?」


 摩李沙が声をかけると、皆いっせいに彼の方を見た。

 その時――


「伏せるんだ!」


 キールの叫び声。レグルスの悲鳴と、何かが叩きつけられる音。


 格闘の果てにボロボロになったトアンが、片手を上げて黒い渦を生じさせていた。灰色の長髪が魔力の影響でなびき、血に濡れた頬を何度も叩く。


「そいつを寄越せ!」


 渦から、金の目をした灰色の大蛇があらわれた。空中へ吠えたかと思えば、鋭い牙をむきながら猛然と摩李沙達のほうへ迫ってくる。

 その目的は明らかだった。


 動くことができず、唇をかむバルタザールの前にすばやく立ちふさがったのは、アレンダだ。


「爆ぜよ」

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