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替え玉お嬢様は魔法がつかえない  作者: 永杜光理
四章 恩讐はよみがえる
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第25話 彼は嘘をついていた

「どうして、こんな」

「この子がね、反抗的すぎるんです。私にようやく従うかと思えば、隙をみて攻撃してきたんですから」


 ゆっくりと視線を下げたトアンは、前触れなくバルタザールの脇腹を蹴り上げた。


「ぐはあっ!」


 身体を折りうめく少年に、エミリアはたちまち目を吊り上げる。


「何してくれるのよ!」


 彼女は怒りのあまり、トアンに向かって突進した。が、みえない障壁に当たり弾き飛ばされた。


「大丈夫!?」


 あわてて寄る摩李沙へ、気丈に笑って見せる。


「平気よ。うっかりしてたわ」


 その頬に新しいかすり傷があるのを見て、ぞっとした。

 エミリアの言う通り、魔力のない自分が触れていたらどうなっていただろう。


「よっぽどこの子が大事なんですね、エミリアさん?」

「当り前よ。大事な家族だもの」


 きっぱりと言い切ったその言葉に、トアンは唇の片端かたはしを上げ、小馬鹿にするように笑う。


「綺麗ごとは止めましょう。いつか利用できると踏んだからこそ、バルタザール君を自分たちの近くに置いていたのでしょう?」

(利用?)


 エミリアが激しくトアンを睨んでいる。二人は何らかの事情を知っているようだ。が、摩李沙は全く話についていけない。


 思い返すのは、エミリアが誘拐された時に残されてたというメッセージ。

 魔法使いの血と引きかえ――その血とは、きっとバルタザールの血だったのだろう。


「バルタザール君は、あまりにも稀な存在ですからね。建国に携わった魔法使いの子孫である、あなたよりも」

「だから私を使って、バルタザールを脅したのね。自分たちのところへ来い、と。いつからこんな、悪趣味な計画を考えついたのかしら」


 エミリアはいらだちも隠さず吐き捨てるように言う。

 摩李沙は腕を組み、考え込んだ。


「あなたって、バルタザールより先に学校から帰っていて、突然姿を消したんだよね? 違うの?」


 何となくだが、エミリアとバルタザールの話に齟齬があるように思える。

 エミリアは数度まばたきしたあと、なるほど、とひとりごちた。


「そっか、バルタザールったら嘘をついてたのね。私から説明するわ。数日前の学校の帰り道に、変な格好をした集団が突然私たちを囲んだのよ。ちゃんとご丁寧に、人払いができる魔法も使ったうえでね。もちろん戦ったんだけど、多勢に無勢で私だけが捕まっちゃってさ。それでそいつらの中の一人――今思えばあれはトアン先生だったわ――がバルタザールに向かって『早く私の元へ来なさい』とか言ってたのよ。覚えてるのはそこまでなんだけど」


 最悪のしくじりだったわ、とエミリアは後頭部をがしがしと掻いた。


(やっぱりだ。バルタザールは誘拐について、本当のことを話してなかったんだ)


 モヤモヤが晴れたが、ならどうして正直に言ってくれなかったのかという謎が解消できない。


「バルタザールはお兄ちゃんにもあなたにも、詳しく話せなかったのね。真実を言うのが、それだけ怖かったんだわ」

(真実?)


 これ以上尋ねようか迷った時、意識を取り戻したバルタザールがひどく咳き込んだ。


「バルタザール!」


 叫ぶエミリアに、バルタザールは枯れた声で問い返す。


「エミリア……無事なのか?」

「こっちが言いたいわよ! そんな怪我させられて、人の心配してる場合じゃないでしょ?!」


 言い方はキツイものがあるが、目がうるんでいる。本心から彼を気遣っているのだ。


 トアンに襟首をつかまれ起こされたバルタザールは、愕然とこちらを見ていた。摩李沙がついてきてしまったことに、今初めて気がついたようだ。


「どうして君まで、こんなところに」

「本当に驚きましたよ、バルタザール君」


 しゃがみこんだトアンは、バルタザールの顎をつかんで自分の方へ無理やり向かせた。にらみつけてくることすら愉快に思うのか、その声ははずんでいる。


「エミリアさんを君から引き離しどう出るか見ていたら、なんとまあ魔法も使えない女の子を準備するなんてね。君だけの策ではないでしょう。レアルデス家次期当主も一枚かんでいるはずだ。どういうつもりの攪乱かくらんなのかはわかりませんでしたが、あの少女が魔法を使えないのは、その日のうちにわかりましたよ」


 エミリアもバルタザールも、目を見張る。摩李沙は納得がいった。


「先生の研究室で私が指を切った時、傷口の確認をしてましたよね。あの時にもう、私が魔法使いじゃないってわかってたんだ」


 トアンは、触れただけで相手に魔力があるかどうかわかるのだ。

 あの時はそんなそぶりをひとつも見せず、ただ優しそうな先生だ、としか思えなかった。


「どうして、私たち二人を泳がしてたの?」


 トアンは、視線だけを摩李沙へと動かした。毒を塗った矢じりのような鋭さに、片頬がひくついた。


「特に意味はありません。単純に面白そうだなと思っただけです。私はこの世界に、ちょっと飽きてしまっているのでね。ちなみにですが、実習のエミリアさんは私が仕掛けました。ダメ押しになるかと思いまして?」


 バルタザールが歯ぎしりする。


「今思えば、偽物のエミリアに一番近づいていたのはあんただったな。生徒を真っ先に守るフリをして、あれを操っていたのか」

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