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替え玉お嬢様は魔法がつかえない  作者: 永杜光理
三章 替え玉と偽物
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第20話 二人の女王

 石つぶての落下が、時間が引き伸ばされたように遅くなって見え――祖母の形見が、またひとりでに震えた。


(おばあちゃん、このペンダントはどうして魔法に反応してるの?)


 その疑問に誰も答えてはくれない。

 そのかわり、摩李沙の胸のあたりが強烈な光を放って。


「エミリア!」

「わっ! 何だ?」


 周辺が白一色に染まる中、摩李沙は感じていた。石つぶてが、ペンダントにひとつずつ吸い込まれていくのを。


(同じだ。アレンダさんが出した花もこうなってた。このペンダントは、誰かの魔法を勝手に吸収するんだ)


 気つけば視界は元通りになり、皆の視線が自分に集中していた。

 バルタザールに押さえつけられた赤の兵士が、愕然とつぶやく。


「なんでボールが割れてないのに、水が無くなってるの?」

「え?」


 恐る恐る、頭上のボールに触れてみた。形は保っているが、軽くなっている気がする。

 口を間抜けに開けたリックは、摩李沙を指さしていた。驚きのあまり、かしこまることを忘れたようだ。


「どうやったんだ、それ? ボールを割らずに色水だけを抜くなんて、俺の聞いた限り誰も成功させた試しがないはずだ」


 さすがはレアルデス家のご令嬢、と小声で付け加える。


「え、えっと」

(私が知るわけないよ! おばあちゃんの形見が何かをしたみたいだけど!)


 などと言えるはずもない摩李沙の前に、キールが現れる。いつの間にか、実習は中断されていたようだ。


「どういう状況か説明してくれる? ボールに細工するなとは明言されてないけど、これは先生方で審議が必要になるかもしれないことだよ」

「いや、わざとやったんじゃないんです」


 無意識のうちに、片手で胸を押さえた。バルタザールがこちらへ一歩踏み出してくるが、首を横にふる。


(このペンダントの本当の持ち主は、私じゃない。なのに、どうして攻撃から守ってくれたの?)


 キールの視線とレグルスのつぶらな瞳に耐えかねて、ペンダントを見せてしまおうか。そこまで思うほど追い詰められた摩李沙だったが。

 誰かの声が、演習場に大きく響き渡った。


「おい、あそこにエミリアがもう一人いるぞ!」








 男子生徒が指さした先は、赤の女王――つまりリーゼラの頭上あたり。

 誰もいないはずの、観覧席。この演習場の四方に分かれて設置されている石段の、上から二段目。


 赤みの交じった茶髪が、風にふわふわと揺れている。手にする王笏は陽の光をはじき、摩李沙は手をかざした。

 身につけているマントも、頭に乗っているティアラも、摩李沙がつけているものと同じだ。


 摩李沙とそっくりな見た目の少女が、演習場全体を睥睨へいげいするように冷たい視線を送っていた。


「あれも作戦か? なんでエミリアの偽物なんか準備したんだよ? しかも登場する間が悪いぞ」


 リックはクラウスに問うが、クラウスは即座に首をふる。


「少なくとも俺は聞いてない。なあ、誰の作戦なのか知ってる奴はいるか?」


 赤の兵士役は次々に、何のことかわからないと口にする。

 青の陣地も、動揺している生徒ばかりだ。


 石つぶてを投げてきた女子生徒が、エミリアに尋ねる。


「あなたが考えたんじゃないの?」

「まさか、違うよ」


 生徒が戸惑い、その空気を教師たちも感じ取り、ざわめきがうねった波のように広がっていく。


 突如現れた“エミリア”は王笏の先端でかつん、と足元を叩いた。


「私が本物のエミリアよ。レアルデス家の血を受け継いだ、建国の功労者のれっきとした子孫。そこの女は、私に成り代わろうとした恥知らずの嘘つきよ!」


 彼女が指さした先にいたのは、摩李沙。

 生徒と教師と魔法省の職員と、すべての視線が突き刺さった。びく、と肩がすくむ。


 そんな摩李沙の前に、剣を抜いたバルタザールが静かに立った。


「お前が誰かは知らないが、レアルデス家を侮辱するとは対した度胸だな。何が目的だ」


 怜悧な問いかけに“エミリア”はため息をついた。


「あのねえバルタザール! あんたは私がわからないわけ? ふざけないで! 魔法の才能はあるくせに、変なところで鈍感なんだから。いつもそこを直してって言ってるじゃない。もう、同じこと何回も言うの飽きたんだからね!」


 文句を言いながら“エミリア”は、その場で地団駄を踏む。

 ややひるんだバルタザールの背中を見て、摩李沙は察した。


(本物のエミリアって、まさにあんな感じなんだ。でも)


 後方に視線をやる。座ったままのアレンダは、突如現れた“エミリア”を無言でにらみつけている。自称妹を、どう受け止めればいいのか困惑しているのだろう。


(ということは、アレンダさんはエミリアがどこにいるかを、まだつかんでいないってことになるのかな)


 それに本物のエミリアならば、こんな目立つパフォーマンスをする前に、真っ先にアレンダやバルタザールに会いに来るべきではないだろうか。家族に心配をかけたのだから、普通に考えたらそういう行動をとるだろう。


 それがこうして皆を驚かせ、摩李沙を偽物だと糾弾している。つまりは。


(エミリアを誘拐した人が、あの偽物を準備したんだ)

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