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替え玉お嬢様は魔法がつかえない  作者: 永杜光理
一章 突然の異世界
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第2話 不運な日の夕方に

 阿礼(あれい)摩李沙はとり立てて語ることのない、どこにでもいそうな高校一年生だ。

 家族は両親と摩李沙の三人。学力は中くらい。運動能力も平均的。友達の数は多すぎず少なすぎず。数々の喜びや悩みを経験し、すくすくと平均的に成長した。


 しいて特筆することがあるとすれば、母方の家系に霊感の強い人が多いということくらいだ。しかし摩李沙当人には、その素質はさっぱりなかった。









 進学後の浮かれた空気も落ち着いた、春の終わりごろ。

 その日は朝から嫌なことが、立て続けに起こっていた。


 まず、日課のように確認するテレビの星座占いで最下位だった。前髪を整えている最中、前触れなくくしが欠けた。

 さらに登校中、昨夜の雨で地面が濡れていたせいか三回も転びかけた。

 おまけに数学の授業で、ノートだけを忘れてきてしまった。せっかく宿題を真面目にやったというのに、努力が水泡と帰した。


 そのことを友達の由依花ゆいかに話すと。


「不運の詰め合わせって感じだね お祓いでもしてもらったら?」

「やめて、そういうこと言うの」


 昼休み、摩李沙は机に頬を押し当て窓の外を見ていた。気力がカミソリでそがれ続けているような心地だ。


 ちなみに先ほどまで弁当を食べていたが、いつも買っている紙パックのジュースがストローから逆流し、制服が汚れてしまった。


「近くの神社でも調べてみる?」


 提案にうわの空でうなずく。由依花はスマホを駆使していたが、結果を聞く前に午後の授業が始まってしまった。


 その後、学校の中ではこれといった困り事はなかった。

 今日は部活のない日だ。摩李沙はバスケ部に所属しているが、平日のうち一日だけ部活動をしない日がある。


 こんな日は由依花や他の友達と一緒に過ごすのが恒例になっていた。待ち合わせ場所のファミレスへ向かう途中、信号待ちのさなか、摩李沙は鞄からスマホを取り出した。母へ連絡をするためだ。


(由依花とちょっと話があるから、帰りが遅く……)


 メッセージを入力していると、すぐ近くで急ブレーキとクラクションが立て続けに鳴り響いた。驚いた摩李沙は、うっかりスマホを地面に落としてしまった。


「え、嘘でしょ?!」


 膝の力が抜けそうになる。落ちた先にはなんと、水たまりがあった。

 まさか、夕方になってまでこんなことがおこるなんて。


「最悪。壊れちゃったらどうしよう」


 摩耗しきった精神を奮い立たせ、水没したスマホへ手を伸ばす。信号待ちの人々は、横断歩道を渡っていく。


 次の瞬間、摩李沙は思いもかけないものを目にした。

 目の前の水たまりが、なぜが白く光っているのだ。

 何かの光を反射しているわけではない。水自体が輝き、どんどん光量も増している。


「……?」


 疑問を口にする前に、光は摩李沙の視界いっぱいに広がった。まぶしさに目を開けていられず、腕で両目を覆う。

 そしてめまいも襲ってきて――数瞬後、意識を手放した。




  ◆◆




『アレンダさん、これはどうみても失敗だと思います』

『そうだね。見たことない制服だし、髪の色もエミリアとは違う……あちゃー、まさか全然違う子を召喚しちゃうなんてなあ。一体何がまずかったんだ?』


 目覚めた摩李沙は、まずスマホを握っていることに気づいて安堵した。


 辺りはうす暗い。陽が沈んでいるのかと思ったのが、よく見るとそこは部屋の中だ。

 知らない場所だ。照明もろくについていない。摩李沙が倒れている床の上には、複雑な文様が描かれてあるようだ。


 もっと状況を確かめようと上体を起こすと、二人の男が自分を覗き込んでいることに気がつく。

 自分と同年代の少年と、二十歳前後の青年だ。


『気づいたか? どこか痛いところはないか?』

『本当に申し訳ない。僕の魔法が失敗して、不幸にも君を巻き込んでしまったみたいで。でも、となるとエミリアはどこにいるんだ?』


 指で眼鏡のズレをなおし唸る青年に、少年はやんわりと言う。


『アレンダさん、それはとても大事なことですけど、今はこの子を気遣ってあげるべきです。この子は何も悪くないんですから』

『そうだね。君の言うとおりだ』


 二人の言っていることが全く理解できない。響きから、英語でないことだけはわかるのだが。


 まさか、気づかないうちに誘拐されたのだろうか。だとしたら今は何時で、ここはどこなのだろう。


『おい、どうした? 俺の言っていることがわかるか?』


 少年が膝をつき、摩李沙と目線を合わせてくる。空色の瞳が、気づかわしげにこちらを伺っている。

 伸ばされた手を反射的に弾いた。


「さわらないで!」


 きょとんとした少年は、驚愕と共に後ろへ叫ぶ。


『この子異国の人です! 話が通じません!』

『ええっ! まさか言葉の通じない国の人を呼んじゃったの? 本当に、何が間違ってたんだ?』

『いや、それよりもまずは……』


 少年が立ち上がり、青年の方を向く。その背ががらあきだ。


 二人が話している隙に通学鞄をあさる。

 音を立てないように立ち上がり、両手でボールペンを握りしめ、少年めがけて振り下ろした。


 だが気配を察知した少年は、片手だけで摩李沙の両手首をつかみ動きを止めた。

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