第9章_砂塵の約束
宮殿を出た一行は、再び砂都の街路を歩いていた。昼下がりの太陽は容赦なく照りつけ、地面からの照り返しが体力を奪っていく。
そんな中、真子は路地の隅で小さな影に気づいた。
「子ども……?」
砂まみれになった少年が膝を抱えて座っていた。頬はこけ、唇は乾ききっている。
真子は駆け寄り、水袋を差し出した。
「飲んで、大丈夫だから」
少年は戸惑いながらも水を受け取り、必死に飲み干した。
「ありがとう……姉ちゃん」
その時、背後から男の怒鳴り声が響いた。
「おい、そこにいたか!」
複数の男が駆け寄り、少年を取り囲もうとする。
剛が前に出て槍を構えた。
「どういうつもりだ?」
「そいつは盗人だ!」男の一人が叫ぶ。
「市場で食料を盗んだんだよ!」
少年は怯えた目で真子の袖を掴んだ。
「ごめんなさい……でも、弟が……」
声は涙で震えていた。
みゆきがそっと歩み寄り、両手を少年の肩に置いた。
「落ち着いて。何があったの?」
少年は嗚咽交じりに語った。
「弟が病気で……食べさせるものがなくて……」
真子は男たちに向き直った。
「事情があるんです。許してあげてください」
「事情があったら盗んでいいのか?」男は声を荒げる。
その時、みゆきが穏やかに口を開いた。
「この街の教会に寄付された食料があります。彼に分けてもらえるよう、私が話します」
その静かな声に、男たちの表情が和らいだ。
みゆきの言葉に、男たちは互いに顔を見合わせた。
「……あんたが言うなら、教会に任せるさ」
彼らは少年をにらむのをやめ、手を引いて立ち去っていった。
少年は泣きそうな顔でみゆきを見上げた。
「ありがとう……」
みゆきは微笑み、頭を撫でた。
「もう盗らなくてもいいように、一緒に考えようね」
真子は少年の手を握り、優しく声をかける。
「弟くんのところへ案内してくれる?」
「……うん」
案内された家は小さな土壁の家で、中には病に伏せた幼い弟が横たわっていた。
みゆきは祈りを込めて手を翳し、淡い光を少年の体に注いだ。
「これで少しは楽になるはずです」
弟はうっすら目を開け、微笑んだ。
「お姉ちゃん……ありがとう」
真子の胸が熱くなり、思わず涙ぐむ。
剛が横で腕を組み、低く呟いた。
「こういうのを見ると……何とかしてやりたいと思うよな」
「ええ」真子はうなずいた。「だから、星片もきっと……誰かを助けるためにあるはずなんです」
その夜、感謝した家族が街の情報を提供してくれた。
「蜃気楼の宮殿の奥……砂上の井戸に何かあるって聞いたことがある」
それは星片の在り処を示す大きな手がかりだった。