第8章_砂都の蜃気楼
南の砂都ガルディアは、砂漠の真ん中に忽然と現れた巨大な都市だった。陽炎の中に浮かぶ白い壁と金色の尖塔は、まるで蜃気楼そのもののように揺らいで見える。
城門をくぐると、熱気とともに異国情緒あふれる音楽が耳に届いた。香辛料の香りが街路を満たし、色鮮やかな布や宝石を並べる露店が軒を連ねている。
「すごい……!」真子は目を輝かせ、あちこちを見回した。
「また寄り道する気か?」圭佑は低い声で釘を刺した。
「いえいえ、大丈夫です!」真子は胸を張るが、その足取りはすでに屋台の方向へと傾いていた。
瑛太が笑い、楽器を抱えて歩み寄る。
「ここでしか聞けない歌があるはずだ。俺にとっては宝の山だよ」
「仕事を忘れるなよ」圭佑が睨むと、瑛太は肩をすくめて答えた。
「忘れてないさ。ただ、音楽は扉を開く鍵になることもある」
その言葉が現実になるのに、時間はかからなかった。
街の奥にそびえる宮殿の入口は蜃気楼のように揺らめき、近づく者を拒むように光を放っていた。
「これが星片の手がかり?」真弓が額の汗をぬぐいながら呟く。
「でも、普通の扉じゃない……どうやって開けるんですか?」真子が尋ねると、剛が首を横に振った。
「押しても引いても反応がないな」
そのとき、瑛太が前に進み出た。
「ちょっと待ってろ。俺にやらせてくれ」
彼は楽器を構え、軽やかな旋律を奏で始めた。
瑛太の指が弦を滑り、砂の街に独特の旋律が響いた。高音が陽炎の中で揺れ、低音が砂を震わせるように伝わっていく。
すると、宮殿の扉に刻まれた紋様が淡く光り始めた。
「……反応してる?」真子が目を見開く。
「本当に音楽で?」剛が驚きの声を漏らした。
「音は言葉よりも深く伝わるんだ」瑛太は微笑しながら演奏を続けた。
旋律の最後の一音が消えると同時に、宮殿の扉は静かに開いていった。
「やった……」真子が小さく拍手する。
「見事だな」圭佑は短く称賛の言葉を口にしたが、瑛太は肩をすくめて答えた。
「行き当たりばったりも、たまには役に立つんだ」
宮殿の中はひんやりとしており、砂漠の熱気とは別世界だった。柱に刻まれた古代文字が淡く輝き、奥へと続く通路は複雑に枝分かれしている。
「星片の気配は奥だな」圭佑が剣の柄に手を添える。
「迷路みたい……」真子が不安げに呟くと、真弓が肩を軽く叩いた。
「大丈夫。道具を使えば方角はわかる」
その言葉に真子はうなずき、全員で通路の奥へと歩みを進めた。