第7章_剛の真意
港町を出た一行は、南へ伸びる街道を進んでいた。夏草の匂いが漂う道を、馬車の車輪が軽やかに転がっていく。
剛は御者台に座り、手綱を軽く操りながら後ろを振り返った。
「圭佑、ちょっと話がある」
「なんだ」
「……お前の指揮のことだ」
圭佑は眉をひそめた。
「問題でもあるのか?」
「問題だらけだ。お前は全部一人で決めすぎる。俺たちが何を考えてるか、聞こうとしない」
馬車の中の空気が一瞬止まった。真子が心配そうに二人を見比べる。
「剛さん……」
「いや、言わせてくれ」剛は真子の言葉を制し、続けた。
「星片集めは長い旅だ。お前が完璧に計画して、俺たちがただ従うだけじゃ絆は育たない」
圭佑は目を細め、低い声で返した。
「護衛対象を守るには、迷いを排除したほうがいい」
「守るのは大事だ。でも仲間を信じないのは違う」剛の声には熱があった。
「俺は仲間を信じてる」
「なら、俺たちの声を聞いてくれ」
短い沈黙のあと、圭佑は小さく息を吐いた。
「……考えておく」
その言葉に剛は満足そうにうなずき、手綱を引き直した。
馬車の後方で、真子はそっと呟いた。
「……仲間の声、大事なんですね」
圭佑はその言葉に答えず、前を見据えたままだったが、胸の奥に何かが引っかかっていた。
昼過ぎ、街道沿いの小さな林で休憩を取ることになった。木陰に馬車を止め、剛が水袋を仲間に回す。
圭佑は剛の背中を見ながら、先ほどの会話を思い返していた。
(仲間の声を聞け、か……)
彼にとって、任務とは常に一人で責任を背負うものだった。だが剛の言葉は胸の奥に重く響いていた。
その時、真子が木の根に腰を下ろし、にっこりと笑った。
「さっきの剛さん、すごく真剣でしたね」
「いつも真剣だ」圭佑は淡々と答えた。
「でも、ああやって自分の気持ちをはっきり言えるのって、すごいなって思います」
瑛太が楽器を抱えながらにやりと笑った。
「俺は逆に言わないタイプだからね。剛みたいなのは羨ましいよ」
真弓は手斧を研ぎながら短く言った。
「剛は仲間を大事にする。だから口が悪い時もあるけど、裏はない」
剛はそれを聞いて照れたように笑い、頭をかいた。
「おいおい、そんな持ち上げるなよ。……でも、まあ、俺は本気で言っただけだ」
その言葉に、圭佑は目を細めた。
「剛」
「ん?」
「さっきの件……考えてみる。お前の言葉は無駄じゃなかった」
剛は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って肩を叩いた。
「ならよかった」
その時、南の空に蜃気楼のような揺らめきが見えた。砂の都ガルディアが近いことを示す光景だった。
「……もうすぐ次の目的地だな」圭佑が呟くと、仲間たちの表情に再び緊張感が戻った。