第6章_背中合わせの花火
星片を手に入れた一行は、港町セルダへ戻ってきた。港ではちょうど年に一度の祭りが始まっており、夜空には色とりどりの灯籠が浮かび、屋台から香ばしい匂いが漂っている。
「わあ……!」真子は目を輝かせ、屋台の並ぶ通りを見回した。「こんなににぎやかなの、初めてです!」
圭佑は一歩後ろからその姿を見つめ、少し戸惑ったように眉をひそめた。
「……護衛対象が雑踏に紛れるのは危険だ」
「でもせっかくですし、一緒に楽しみましょうよ!」真子は無邪気に笑い、圭佑の手をぐいっと引いた。
引かれるままに歩き出した圭佑は、祭りの喧騒の中で自分の鎧姿が浮いていることに気づき、居心地の悪さを覚えた。
(俺はこんな場所に似合わない……)
そう思った瞬間、夜空に大きな音が響き、色鮮やかな花火が咲き誇った。
真子が足を止め、夜空を見上げる。
「きれい……」
その横顔は無防備で、まるで子どものように純粋だった。
「圭佑さんも見てください!」真子は振り返り、笑顔を向けた。
圭佑は返事の代わりに夜空を見上げた。花火の光が鎧に反射し、真子の瞳にも色を映していた。
ふと気づけば二人は背中合わせに立ち、同じ花火を見ていた。人の流れも、喧騒も、その一瞬だけ遠くに感じられた。
花火が次々と夜空に咲いては散り、潮風とともに火薬の匂いが漂った。真子は胸の前で両手を組み、無邪気な笑顔を浮かべていた。
「こんなきれいな夜、忘れられませんね」
圭佑は少しの間、その横顔を見つめた。護衛対象であり、使命の中心にいる少女。しかし今の彼女はただ祭りを楽しむ一人の少女に過ぎなかった。
(ルーチンを守ることが俺の安定だ……でも、こうして立ち止まる時間も悪くない)
真子がふとこちらを向き、照れたように笑った。
「圭佑さん、難しい顔してません?」
「……そう見えるか」
「はい。でも、さっきより少し柔らかい」
圭佑は苦笑をこぼし、夜空をもう一度仰いだ。
「……ありがとう」
「え?」
「いや、何でもない」
そのとき、屋台の向こうで子どもが転び、泣き声を上げた。真子はすぐさま駆け寄り、膝をついて声をかけた。
「大丈夫? 痛かったね」
子どもがうなずくと、真子は優しく頭を撫でて立ち上がった。
その姿に圭佑は小さく息をついた。
(協力して進むことを楽しむ……彼女は本当にそういう人なんだな)
最後の大輪の花火が夜空を染め上げ、群衆が歓声を上げた。真子は振り返り、圭佑に向かって手を差し出した。
「さ、戻りましょうか。明日も早いですし」
圭佑はその手を一瞬見つめ、ためらいがちに握り返した。