第32章_零れた約束
暴走が止まり、霊廟に静寂が戻った。しかし圭佑の表情は晴れなかった。
「俺がもっと早く判断していれば……被害は出なかったかもしれない」
彼は握った拳を震わせ、視線を落とす。
真子はその手をそっと包み込んだ。
「そんなことありません。圭佑さんがいたから、みんな生きてます」
「だが……」
「だがじゃありません」真子は一歩近づき、強く抱き寄せた。
圭佑は驚き、動きを止める。
「私は知ってます。圭佑さんはいつもルーチンに縛られて、それでも必死に守ろうとしてた。でも今は……私たちを信じてくれました。それがすごく嬉しいんです」
圭佑の肩が震え、やがてその腕が真子の背を抱き返した。
「……ありがとう。お前がいなかったら、俺はきっと折れてた」
「私も、圭佑さんがいなきゃここにいないです」
仲間たちは少し離れてその様子を見守り、誰も言葉を挟まなかった。剛は小さく笑い、瑛太は静かに弦を鳴らした。みゆきは目を閉じ、そっと祈りを捧げていた。
圭佑は真子の耳元で囁いた。
「この戦いが終わったら……話したいことがある」
「はい、聞きます」
真子は圭佑の胸に顔を埋め、小さく笑った。
「だから、もう一人で抱え込まないでくださいね」
「ああ……もう一人では抱え込まない」圭佑は短く答え、真子の背を撫でた。
その様子を見ていた剛が軽く肩をすくめる。
「やれやれ、ようやく素直になったな」
「いいことじゃない。私たちだって、ずっと見てきたもの」真弓が微笑む。
瑛太は軽く弦を弾きながら言った。
「約束は守られるためにあるんだぜ」
みゆきも頷き、静かな声で続ける。
「皆の絆があったから、ここまで来られました」
圭佑は仲間たちに向き直り、深く頭を下げた。
「ありがとう。お前たちがいたから、俺は立ち続けられた」
「こっちこそ感謝だよ」剛が笑い、肩を軽く叩いた。
真子は圭佑の手を取ったまま、仲間たちの輪に入り直した。
「もう一度、王都に戻りましょう。そして……未来の話をしましょう」
「そうだな」圭佑は静かに頷いた。
零れていた約束は、今ようやく結び直されたのだ。




