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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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ep.8 - スタートラインに立ってなかった -


 新たに決意を固めてから、2日後。

 俺はイーファちゃんと一緒に、村のギルドへ向かっていた。

 先日の話を聞いて、俺も戦うぞと息巻いていたものの、1つ忘れていたことがあった。

 それは、冒険者登録。


 この世界では共通認識として、冒険者資格がない場合は、自分の現住所がある場所以外での戦闘が禁止されているらしい。

 村や町の外で戦うには、冒険者資格が必須っていうことだ。

 資格っていうと、何か難しい試験みたいなのがあるのかと思って聞いてみると、そうでもないらしい。

 自分のプロフィールを書いて登録云々をしてしまえば、簡単に登録できるんだと。


 それに、冒険者資格は外での戦闘を許可されるだけのものじゃない。

 シンプルに身分証としての役割があるのはもちろん、資格があれば、ギルドに貼ってあるクエストを受注できたり、達成に応じて報酬を得ることもできる。

 まあ、よく見るシステムだな。


 稼ぎ手段のなかった俺にとっては朗報だ。

 今まで、タダ飯食べてたし。


 それに、最初から戦闘系のクエストばかりっていうわけじゃなく、ランクの制度によって難易度がきっちり分けられているらしい。

 DからSまでの5段階に分かれていて、一番下がDになる。


 このランクはクエスト受注の時の指標みたいなものになっていて、冒険者側にもランクが取り付けられている。まあレベルみたいな感じだと思う。

 自分のランク以上のクエストは受けられないようになっている。

 身の丈にあったクエストが出来るってことみたいだ。


 冒険者のランクは大体、クエストの成功率やこなした数を見て総合的に評価するらしい。

 あとは、素行面とか。


 そこの裁定は厳密には公表されてないらしいけど、だいたいしっかりやっていれば1ヶ月でCランク、その後は1年か2年ぐらいの間隔で上がれる…が目安という。

 流石にSランクは格が違うらしく、数十年やっても到達できないレベルらしい。


 …てな話をイーファちゃんから聞いていると、ギルドに着いた。

 いつも通り酒場が1階にあり、昼間だからか飲みっぱなしのやつはいないけど、休憩中らしき人が何人かいる。

 中に入り、すぐそこにある階段を登って、2階にある冒険者受付所へと行く。

 ここには2階が冒険者受付所、まあ冒険者ギルドなるものが置いてある。

 ちなみに地下はちょっとした図書館。

 この間もお世話になったところ。

 村の名を冠しているわりには、そこまでこじんまりとはしておらず、比較的広いギルドな気がする。

 比較対象がないから、生前のラノベ知識でしか測れないけど。


 2階には、いかにもクエストを貼っている看板ですよー、と言わんばかりの掲示板があった。

 内容を見てみると、薬草の採集クエストだったり、子守りをして欲しいなど雑用も貼り出されていた。

 しかし、どのクエストも最大Cランクまでしか載っていない。


 「ここって、B以上のクエストはないの?」


 「この村は傭兵団がいるので、討伐系メインのBランク以降のクエストはほとんど貼り出されないんです。それに、村自体は農民だったり商人がほとんどなので、受注できるような人もなかなかいないんです。」


 そうか、この村は資格はあっても戦闘を生業にするような人はあまりいないのか。

 あれ、でも前に来た時は戦えそうな人いたけど…。


 「アンデッドが来た時、ギルドに何人か剣を持った人がいたけど…あの人たちは違うの?」


 「確かに何人か剣士の人はいますけど、村長の取り決めで基本戦闘は傭兵団に任せられているので。無闇に手出しできないんですよ。」


 「ふーん…そういう人は傭兵団には来ないの?」


 「ルールが厳しいので…縛られたくない人なんだと思います。あとは、旅人だとか。」


 傭兵団って雇われって言うし、公務員みたいな感じなのかな。

 まあ、村長がそう決めてるならそうか。

 まあよくわからない価値観ではあるけど、分業みたいな認識なんだろう。


 ひとしきり掲示板の内容を眺めていると、イーファちゃんにちょいちょいと服の裾をつつかれたので、目的である受付の方に向かった。


 2階自体はそこまで広くなく、役所みたいな受付には、やる気のなさそうな女性が爪を眺めながら座っていた。

 一軍女子って感じだカンジダ。

 ちょっと苦手なタイプ…。


 「あの、冒険者の登録…をしたいんですけど…。」


 「…冒険者資格の申請ですねー、んじゃこれに必要事項記入してくださーい。」




 そう言われると、目の前にタブレット的なパネルが出されたので、名前や年齢などを書こうとペンを握る。


 握った。

 握ったんだけどさ。



 「…イツキさん?」


 「イーファちゃん…俺字書けないっぽい…」


 「…!?」



 「…フッ。」





 –––








 読めるのに書けない、中国語とかでありがちなあの現象が、まさかここで現れるとは思わなかった。

 確かにここに来てから、無意識に字読めるのなんでだろうと思ってたんだよな、明らかに象形文字っぽくて、日本語じゃないのに不自由なく読めてたから。


 ちなみに、記入物関連はイーファちゃんに代筆でお願いした。

 めちゃめちゃ情けないことしてるなって思ったよ、20歳のいい大人が15歳の子供に代わりに書かせてるって、側から見たらギャグみたいな感じだよホント。



 「ごめんね、情けなくて…」


 「…ソ、ソンナコトナイデスヨー」



 ぐああああ。

 ちゃんとこの世界の言葉、勉強しないと…世界観の割に識字率自体は高いみたいだし、書けないと今後も相当不便になる。

 語学の勉強をここに来てまでするとは思わなかった。


 …気を取り直そう、こんな調子で行ったら下手に心配かけっぱなしになるだけだ。

 文字については、勉強すればなんとかなる、うん。


 てかイーファちゃん字汚いな、達筆と見せかけてただ雑なだけの人の字だこれ。

 この世界の文字わからない俺でも「あ、コイツの字汚いな…」ってなるタイプの筆の踊り方してるよキミ。


 …とりあえず、冒険者カードってのができるまで待機だな。

 受付近くのイスに腰掛けて辺りを眺めてみる。ふと目線の横に、ガタイのいい男性が見えた。

 あちらが俺に気付くと、少し驚いたような顔をして、こちらに近づいてきた。


 「お前…この間のアンデッド騒動の時に飛び出したヤツじゃないか! 」

 

 「あ、こんにちは…」


 思い出した、この人は俺を止めてくれた人だ。 

 けど名前までは覚えてないな、えーと…なんて名前だっけ…。



 「ん、ああ、名乗ってなかったか。オレの名前はコルムだ。気軽にコバっさんとでも呼んでくれよ。」


 「コバっさんですか、よろしくお願いします。俺はイツキです。」


 「イツキか、覚えたぜ。しかし、飛び出したからどんなヤツかと思っていたが、まさか冒険者カードすら持っていなかったとはな。」

 

 「…まあ、色々事情がありまして。」


 「深掘りするつもりなんてねえよ。詮索はオレは好きじゃねえしな。それに、部外者のオレが何か言う義理もない。」


 なんとなく見た目で怖い人かと思っていたけど、そんなことなく中身は面倒見の良さそうな人だ。

 気の良いおっちゃんって感じで、コミュ症気味な俺でも言葉がよく出てくる。

 「ところで、お前はグラン森林の調査に行くのか?イーファと一緒にいるってことは、傭兵団に入ったてことか?」


 「いえ、まあ…うーん、色々お世話にはなってますけど、傭兵になったわけではないです。ところで、調査って…?」



 「あれ、聞いてないのか? 村にいる冒険者たちに通達が来てたから、てっきりイツキは既知だと思っていたが…。」


 そう言うと、内容について話してくれた。

 どうやら、その調査とやらは昨日の会議で決まった作戦のことらしい。

 昨日は…そうだ、何も予定がないからって久しぶりに一日中寝てたんだ、そりゃ何も情報来ないわけだ。


 「イツキさんは…その、ああいってくれてたので、今度話せばいいかなって。」


 イーファちゃんの言う通り、傭兵団で何かアクションがあれば、絶対に協力させてもらうつもりだった。

 それに、昨日ずっと寝てたから言うタイミングもなかっただろうし…。

 まあ、できることは少ないけど、全力を尽くすつもりだ。


 まだ冒険者カードは時間がかかりそうだったので、時間のある今のうちにその作戦とやらを聞くことにした。

 彼によると参加者は、傭兵団と村の冒険者で要請を受けてくれた人。

 この間のアンデッドの時は、人が少なくて苦戦したけど、今回は遠征している傭兵も帰ってくるとのことでそこに合わせて実行するらしい。


 実行は、およそ1ヶ月後。

 内容は、参加者を何個かのグループに分けて森林の捜索。

 イーファちゃんの話にもあったやつみたいな、何らかの強い魔物が生息している可能性を考えて、少しでも発見確率を上げるために、らしい。


 もし見つけた場合は、その場で人を呼んで一斉に戦う、そして退治する。

 グラン森林は横断に半月かかるほど広いらしいので、今回は南の一部地域に絞るとのこと。

 それでも、見積もって2週間ぐらいはかかるらしい。

 野宿前提ってことか…俺虫苦手なんだけどな…。

 って、そんなことは置いておいて。


 とにかく、大人数で森の捜索をしているかもしれない親玉を見つけて倒しちゃおうって言う感じかな。

 あれ、でもそうすると、村は一時的に守る人が誰もいなくなるんじゃ。

 そのことをイーファちゃんに聞くと、


 「シュネの丘を超えたところにリリヤ族の住む村があるので、一旦そこに避難してもらうつもりです。リリヤ族の方達の了承も、すでにもらってます!」


 「おお、用意周到。」



 さすが傭兵団、土台はもう整え始めてるってことか。

 それじゃ、村の心配はしなくても大丈夫か。


 「と…今決まってるのはここまでです。具体的な編成とかは、まだ決めてないので。」


 「そっか、ありがとう。俺も力になれるよう、頑張るね。」

 

 …それにしても。

 話を聞いても、やけに俺の心は落ち着いていた。

 1ヶ月後にはまた戦わなきゃ行けないって言うのに、アンデッドと戦った時みたいな恐怖や緊張は、不思議と感じていなかった。


 …いや、怖くないって言うのは嘘だ。

 剣を持った時、攻撃の重みを直に受けた時、そして目の前で魔物とはいえ死を直視した時。

 あの時の光景が、いつまでも残り続けている。

 本当なら、戦いたくはない。


 でも、そんな戯言がこの世界に通用しないって言うのを、肌で感じている。

 だから、俺は恐怖をないんだと思い込んでいるんだろう。

 …それに、人の涙を見て、無視できないのもあるしな。

 何より、時間は少ないとはいえ、準備できるぐらいにはある。

 冒険者登録さえ済んでしまえば、クエストだって受注できる。


 ここからは、実践がメインだ。

 今までのようにただ木刀を振って、適当に魔法を使うだけじゃ何も成長しない。

 俺は、魔王云々の以前に、この世界で1人で生きていく力がないとダメだ。

 …今回の件は、その練習段階とでも思っておこう、うん。

 …まあ、この空気感がなんとかしてくれてるだけで、怖いものは怖いんだけどね…。





 –––





 「イツキさん、登録終わりましたー。」

 

 「あっ、ありがとうございます」



 ここに飛ばされてから約1ヶ月強。

 ようやく、俺はスタートラインに立つ資格を手に入れた。


 今まではただ木刀を振って、魔法を感覚で使うだけの生活だったけど。

 明確な目標が出来た以上、今まで以上に頑張らないとと言う実感が湧いてくる。


 いや、今までよりもさらに先を見据えなきゃいけない。

 魔法が使える、剣をうまく振れる、この世界のことを知る…全部ゲームだったら、チュートリアル20分くらいでやることだ。

 今まで以上に特訓、そしてクエストを受けて慣れる。

 クエストは採集系が多いけど、知識を深めるって意味でやっておいて損はない。

 それに、唯一の稼ぎ手段だ。


 あとは、特訓。

 魔法はイーファちゃんに教わってるから、最低限は使える。

 欲を言えば、剣を使える人にアドバイスを貰いたいけど…誰かいないか後で聞いてみよう。


 …とにかく、ここからは頑張るしかない。

 そう思いながら、俺は冒険者カードを手にした。

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