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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.6 - ギリギリだったけど -


 俺は、すぐにギルドから走り出してイーファちゃんのもとに向かった。

 近くに落ちていたアンデッドのものであろう錆びた剣を拾い、すぐに戦えるよう備える。

 思ったよりも重量があって一瞬ふらついたけど、持てない重さじゃない。



 走っていると、アンデッドが剣を振り上げるのが見えた。

 その時にイーファちゃんは、アンデッドの存在に気づいたようだけど、怖いのか足が動かない。

 俺は、持てる体力の全てを使う勢いで、全力で走った。


 そして、間合いに入る。

 アンデッドが剣を振り下ろす瞬間、俺はイーファちゃんの前に膝立ちで、受ける体制を取った。

 腕に思い切り力を込め、アンデッドの攻撃を剣で受けた。


 金属同士がぶつかり合う、カキンという音が響く。

 その瞬間、感じたことのない圧力を感じた。

 純粋な力の差はもちろん認識していたけど、物理的な重みだけじゃない。


 それ以上に、俺は強い恐怖に陥った。

 走っているときは興奮していたからか何も感じなかったのに、いざ敵を目の前にすると足がすくみ始めた。


 何よりも、刃物が目と鼻の先にある。

 少しでも力を抜けば、確実に俺の体を両断する、そんな感覚だった。

 すぐに押し返して守ろうとしたけど、そんな余裕はなかった。

 押し返せるかも怪しいほどだ。



 そんな中、イーファちゃんが俺を呼ぶ声が耳に入った。

 過呼吸になりそうなのを抑えて、なるべく不安にさせないように言葉を選びながら返した。

 まず後ろに人を背負っている状況をなんとかしないと。


 何度か言葉をかわしたあと、イーファちゃんは負傷した傭兵の人を引っ張って後ろの方に逃げていった足音がした。


 俺は、自分に剣が当たらないように、後ろに下がりながらアンデッドの斬撃を避けた。

 アンデッドが重い剣を持ち上げる隙に、俺はやつから距離を取った。



 俺はこんなこともあろうかと、剣術も彼女から習っていた。

 …と言っても、最初の構えくらいしか綺麗にできる動きがない。いつも木刀で練習してたから、本物でやると重すぎて何も再現できそうにない。


 イーファちゃんの教えでは、風神流…とか言っていた。

 なんか本当に魔法使いなのかなってくらい動き軽やかだったけど…今の俺にそこまでの動きは絶対できない。

 とにかく、相手は早いわけじゃない。


 一呼吸おいて、剣をアンデッドに向けるように持ち直した。


 アンデッドは剣を持ち直すと、こちらに走り込んで切りかかろうとしてきた。

 さっき見たのと同じ、直線的な動きだ。


 これを避けて、背中を切ればいけるはず…!



 アンデッドの突進を右に避け、空振りしてよろけている背中に対して、思いっきり剣を振り落とした。


 その瞬間、手に生々しい肉を切る感覚がした。

 やれた、と思った。

 アンデッドの背中には、大きい切跡ができていて、しっかり切れていたようだ。


 ぐずぐずの切跡から、人間の色とは思えない液体がだらりと垂れてきていた。

 その光景を吐きそうになりながら見ていた。


 微動だにしなかった。

 倒せたからじゃない。



 倒れなかった。

 剣を落としてすらいない。


 しっかり攻撃はしたはず。

 傷が浅かった?


 いや、刃先の血の付きようからして、致命傷を負う程度には踏み込んで切ったはず。

 …まさか、アンデッドは首とか太い血管があるような、致命箇所以外を切っても死なないなのか?



 迷っているうちに、体勢を整えたアンデッドはこちら目掛けてまた突進してきた。

 さっき避けた時に、まともに距離を取っていなかったので余裕がない。


 やばい、このままじゃカウンターでやられてしまう。

 また剣で受けるしかないか。

 でもさっきの衝撃で、まだ腕が痺れている感じがする。2度目は無理だ、絶対。


 

 「イツキさん!!魔法!!魔法使ってください!!」



 イーファちゃんの声が、少し離れたところから聞こえる。

 そうだ、俺、魔法使えるんだ。


 剣を片手で持ち、左手を前にやってアンデッドめがけて魔法を撃つ準備をする。

 雑に撃つだけなら俺でも余裕できる。

 しかもこの距離、自分に向けてさえしなければ絶対に当たる距離。


 「ウィンド!!」


 魔法の名前を思い切り叫んで手に集中し、相手めがけて発動させた。

 とにかく撃つことだけ考えていたので、反動を意識していなかったせいで自分も後ろにすっ転んでしまった。

 

 だが、感触あり。

 今度こそやれた。


 体を起こして前を向くと、今度こそ動かなくなったアンデッドが見えた。


 「や、やっとやれた…。」



 緊張が溶けた瞬間、どっと体が重くなる感じがした。


 この2分にも満たない小競り合いで、俺は肩で息をするぐらいに疲労が溜まっていた。

 アンデッド一体は多分、この世界だとそこまで強くない部類の魔物なはず。


 大群でくると厄介なタイプではあるのは、眼の前で見ていたからわかる。

 でも、単体ならば本来もっと早く倒せるはず。

 今の俺は、1体にここまで手こずってしまった。

 

 何度もイメージしていたのに、実際に対峙したら心臓もバクバクでまともに調子を保てなかった。こんなんじゃ、どんなに時間をかけても強くなんてなれない。

 …ダメだ、まずは呼吸を整えないと。



 「イツキさん、大丈夫ですか!?」


 「な、なんとか…。」



 ふと前を見ると、さっきまで何十体いたアンデッドが全員倒されていた。

 この短時間で、傭兵がやってくれた?


 いや、違う。

 1番前には、明らかに違う奴がいた。


 団長、シュルクさんだった。







 –––





 傭兵の負傷者は5人、いずれも命に別状なし。

 住民の怪我はなく、無事に守り切ったというところだろうか。


 シュルクさんが最後の方までいなかったのは、直前まで村周辺のパトロールをしていたかららしい。

 方向的にも村の裏側の方にいたから、戻ってきてやっと気がついたっていうことだった。


 シュルクさんは部下の傭兵に対して、超謝っていた。

 結構団長だからプライドが高いのかなと思ってたけど、そうでもないらしい。



 俺は、アジトの裏庭で、座りながら他の傭兵とシュルクさんの話を聞いていた。



 「…てな感じで、村の人の中に負傷者はゼロ。お前ら、よくやったな。」


 「特にイーファ。負傷者の回復も率先して、いい動きだったと聞いている。成長したな。」



 すると、イーファちゃんは焦ったように首を横に振った。



 「いえ…まだまだです。それに途中、イツキさんが助けてくれなかったら、私はやられていました。周囲の確認を怠ってしまって…」


 「そいつはイーファの反省よりも、イツキの勇気を褒めてやるべきだな。」



 突然、俺の方に全員の視線が向いた。


 「傭兵団に所属していないのにも関わらず、人を守るために自らが守りにいく…実践経験からして、無茶な行いではあるがな。」


 「ま、いい心構えだ。気が向いたら、正式にうちに入ってもいいんだぜ?なんてな。」



 そう言うと、シュルクさんは少し笑ったあと、息を整えて目つきを変えた。


 「さて、ここからが本題だ。よく聞いてくれ。」



 話の内容はこうだった。

 

 最近多発しているアンデッドの襲撃の原因の目星がついた、という話だった。

 ギルドに調査を依頼していたその結果が出たのと、リリヤ族からの報告を受けたらしい。


 ちなみに、クエストっていうのはギルドで受注できるアレ、ゲームによく出てくるミッション的な要素とほぼ変わりない。

 DからSの中で難易度付けされており、冒険者ギルドへの登録年数や実績に応じて高ランクのクエストが受けられるって言う仕組みらしい。この調査クエストは大体Bランク、得体の知れないものの調査だからこんな感じってところだ。


 村の中にBランク冒険者はいなかったものの、旅の途中に来ていた冒険者が受注していてくれたらしい。



 そして、リリヤ族という聞き慣れないほう。

 調べたところ、コノート村の少し西にあるシュネの丘を超えたあたりにある、友好種族のことらしい。大きな尻尾が特徴で、人族とも昔から仲がいいと言われている。


 そういえば、ギルドの図書館で本を探していた時、大きい尻尾の生えた人を見た記憶がある。あの人、リリヤ族だったんだな。



 と、言うのはこの話の後に調べたこと。

 シュルクさんの話に戻ると、アンデッドの原因は村の近くにあるグラン森林にあると見たらしい。


 元々、アンデッドは墓場に多く発生する魔物で、この辺だと少ない。


 そんなアンデッドだが、調査の結果アンデッドの足跡を発見し、その痕跡がグラン森林に伸びているとのこと。

 森林に沈んだ遺体が自然的にアンデッド化したか、もしくは何者かがアンデッド化させた…の2択が考えられているらしい。

 それに、歴史を少し辿ると、グラン森林ではたびたび多種族との紛争が起こっていたというから、数も多いんだろうとのこと。



 やっぱり本職はすごいなと思った。

 元の世界の警察もすごいけど、ここの人たちは調査して戦ってと、色々とこなすなんて。


 その時、ふと横を見ると、イーファちゃんが俯きながら苦虫を噛むような顔をしていた。


 ふるふると体を震わせており、怒りというか、なんか憎悪みたいな感じの表情をしていた。

 

 声をかけようとした。

 でも、できなかった。


 俺が、聞いちゃいけないような気がした。




 そのあとは、作戦会議についてや支援要請について云々だった。基本的には傭兵団主体で動くものだから、俺は参加する必要はなかったけど、興味本位で聞いていた。

 まあ、みんな肝が座りすぎてて、俺が傭兵だとしても無理だって思っていたけど。

 普通に戦いに行くとか、強い魔物と接敵するだろうとか、恐怖ないのかなって思うよ、ほんとに。


 俺も飛び出した時はアドレナリンかなんかで怖さ感じてなかったけど、その後一挙手一投足のたびに吐きそうになったりビビったりしてたし。

 俺は、肌で価値観の違いを感じていた。



 思っていたよりも、早く話は終わった。


 作戦会議は明日に持ち越されるらしい。

 かなり大掛かりになるから、疲労の残った今日では決めきれないっていう理由だった。


 俺も休もうと、自分の部屋に戻ろうとした時、足早に立ち去るイーファちゃんの姿が目に入った。

 さっきから、何か様子がおかしい。

 何か普通じゃないほど焦りやら怒りを見せているようで、珍しく穏やかじゃない。


 いつもなら、誰かと軽く会釈してから戻るのに。

 来て1ヶ月くらいの俺が立ち入るものじゃないと思ったけど、気になってしまった。

 


 「イツキくん、今日は君とイーファさんが夕食担当だよね。また期待してるよ!」


 「あ、ありがとうございます…。」


 そうか、今日の晩御飯の準備担当は俺とイーファちゃんか。

 …料理中に、軽く聞いてみよう。

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