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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.5 - この騒動は一体 -


 あれから1時間くらい本を読み漁った。

 ふと外に出ると、陽がだいたい昼時の位置だったので、切り上げることにした。

 

 一通り、魔法について書いてある本をピックアップできたし、明日以降にまた来よう。

 それに、魔法の基礎を学べる本以外にも、歴史関係みたいな本もあったので、しばらくは色々と調べられそうだ。

 


 …それにしても、氷使いの話はすこしだけ気になった。

 いかにも勇者っていう感じの記述に心躍ったのもそうだが、その後の失踪。


 なにか理由があってだと思うが、なぜ突然姿を消したんだろうか。

 実力もあり、名声も手に入れていた。

 俺だったら、その立場に甘んじて堕落しているかもしれない。

 


 意外とその氷の大賢者という人も、そんな感じなのかもしれない。


 

 …もしかして、氷の大賢者は転生者だったり?

 すごい適当な想像だけれど。


 この世界の人なら、勇者っていう立場の重要性を理解していそうだし。

 賢い人なら適度な名声を持ちながら、死ぬまで安泰ってのもありそう。


 失踪は…なんて思ったけど、重圧ってのもあるのか。

 むしろ注目されすぎて、期待に答えられないから逃げた、っていうのもありそう。というか、本当にこれだったらさすがに生々しすぎるかな。



 まあ、天使様もそんな数撃ちゃ当たる戦法なんてしないだろう。

 倫理的にもヤバそうだし。

 






 ‐‐‐






 さて、俺は今大きなミスをしていることに気が付きました。

 今、昼時なんです。

 …あ、それだけかーとか思ったな今。


 昼時といえばなにか…そう、お昼ごはん。

 いま拠点ではお昼ごはんの時間なのです。

 なのに俺はギルドの方にいる。

 いない人間の飯なんて、用意されるわけがない。

 ゆえに、今から走って帰ったとしてもムダ。


 端的に言えば、俺は昼飯を抜くことになったわけだ。

 本に気を取られすぎちゃったんだよね、ホント。

 ホント、どうしよ。

 昼抜きは体を動かしまくってる俺にとって、かなりの苦痛だ。

 …それに、俺は一文無し、買い食いも出来ない。


 働かざる者食うべからずということなのか、これが。

 …諦めた、そのへんの草でも食って生きながらえよう。


 そう考えて外に出ると、なにやら騒がしかった。

 けたたましく、鐘の音がカンカンと響いている。日暮れに鳴らされる鐘なら毎日聞いているけど、こんな真っ昼間からなんてのは初めてだ。

 

 しかも人の往来が激しくなってきて、傭兵が声を張り上げながら村の人を誘導している。

 …これ、なにか大変なことになってるんじゃないか。


 イーファちゃんがなにか急いで戻っていったのって、これが原因なのかも…。

 俺が書物をもしょもしょしている間に、いきなりイベント発生とか…。

 一体何が起こっているんだ…。


 気になるし、危なそうだけどちょっとだけ外を確認…。


 「おい兄ちゃん、いまは外に出るな!」


 すると、後ろから威勢のいい声が聞こえてきたかと思うと、突然後ろに引っ張られた。

 なんだと振り返ると、そこには自分よりも一回り体格の良い男がいた。




 「敵襲の鐘の音が聞こえなかったのか!?魔物の襲撃だよ!!」


 「え、魔物!?

  まま、魔物って!? 木の柵があったんじゃ!?」


 ここは木の柵のバリケードで守られている。

 住居が散開している村だから、確かにところどころ柵が途切れているところもあるけど、それでも傭兵がいたから大丈夫なのかと勝手に思っていた。


 その後もお互い焦ったように口を開いていると、その男は俺の顔をよく見ると、服を掴んでいた手を離して口を開いた。


 「おい、見ない顔だが引っ越してきたのか?」


 「え、あ、そんな感じです、まあ。」


 「にしても知らないとは、リスリア王国の育ちか…?

  まあいい、あれは敵襲の鐘だ、魔物が住居の方まで来たってことよ。」


 「そ、そうなんですね…。」


 危なかった。

 武器すら持っていない、丸腰であのまま外に出ようとしていたら、下手をすれば襲われていたかもしれない。


 確かに、あんなに謎のタイミングで鳴らすなんて緊急時だけだよな…反省しよう。

 俺は、その人に感謝した。

 

 聞くところによると、こういう時は自分の家で戸締まりしてこもるか、このギルドに逃げ込むのが正解らしい。確かに、話している間にも何人かここに走り込んで来ている。



 「俺もそうだが、酒場にいるやつはだいたい戦える。ま、傭兵がいるんだから下手に手伝うのも失礼だし、無理して加勢しようものなら足手まといになるからしないけどな。」



 確かに、周りを見ると剣をこさえた人が大半だ。

 

 「ま、少しすりゃ傭兵団が対処してくれるだろうよ。」



  


 ‐‐‐







 しばらくすると、剣の打ち合いの音が激しくなった。

 窓から見ると、複数人の傭兵が…なんだあれ。


 なんか…映画で見るようなゾンビ的な何かと戦っている。



 「ここ最近、アンデッドの襲撃多いんだよ。ついこの間も来たしな。」



 どうやらアンデッドというやつらしい。

 文字通り死者の体で活動している、ゾンビと同じような魔物らしい。


 1体だけならそこまで危険はないものの、現状を見る限り2桁は確実だと思う。

 それに、さっきから続々と数が増えている。

 

 どのアンデッドも、錆びた剣を片手に持っている。

 意外と動きは鈍いわけじゃないようだ。

 大振りではあるけど、一つ一つの動きは滑らかだ。

 

 

 この村にいる傭兵は、拠点にいた人と自宅を持っている人、合わせて30人弱だったはず。

 コノート村は村というより、小規模な街みたいな感じではあるけど、戦闘のプロがその人数で戦えばそこまで苦戦しないと…思う。

 ただこの間、数名の傭兵は別の街に派遣されているっていう話を聞いた。

 その中には、腕っぷしの副団長も含まれていたっていう話。


 まあ、傭兵団だからお金が出ればそういう仕事も請け負うっていう感じなんだろうけど…タイミングは良くないっぽい。

 それに、いくら訓練された傭兵団と言っても、増え続けるアンデッドを相手に抑えきるのは簡単じゃないみたいだ。



 色々考えていると、ある1人の傭兵が打ち合いの途中、背中をアンデッドに切られた。

 すると途端に彼は動かなくなる。

 身につけていた皮の防具、おそらく刃物に対しての防御力は高くない。

 それに、離れているのに、ハッキリと切られたあとが見えた。

 やばい、血を見るのは苦手なのに。

 これがガチの争いなのか…。


 

 1人がやられたのを皮切りに、またひとりと連鎖するように戦闘不能になっているのが目立ち始めた。

 ギルドに隠れている人も明らかに動揺している、そんな感じがした。


 「これ…助けに行ったほうがいいんじゃ…。」


 俺はこの空気に耐えかね、そう呟く。

 だが、帰ってきたのは先程と同じことだった。


 「ああ…確かにな。けど、俺等は肩書だけ見れば剣士やら戦士ではあるが…

さっきも言った通り中途半端な加勢は、傭兵の連携の邪魔をして無駄になる可能性がある。それに、傭兵より前に出るっていうのは、常識的に喜ばれるもんじゃねえ。」



 この人たちの強さはわからないが、無理して加勢したら足手まといって、こんな状況で言えることなんだろうか。

 もっとも、この状況を見れば手を出したくなりそうだけど…そこは価値観の違いなのか。


 多分、警察が犯人の対応をしている時に、一般人が加勢して手を出すことはない…みたいなのに近い気はする。


 俺は困惑しつつも、目先の現場に目をそらさないでいた。

 


 ふと傭兵のすこし後ろを見ると、後衛でイーファちゃんが戦っているのが見えた。


 戦っている…というよりか、負傷した傭兵の治療にあたっているらしい。

 さっき背中を切られていた傭兵は、イーファちゃんの手当を受けるとみるみる傷が塞がっていく。

 あれだけ深く切られても、回復魔法ひとつで傷が塞がるくらいには治るようだ。

 この世界の治癒魔法っていうのは、結構万能なのかもしれない。


 これが普通なのか、それともイーファちゃんがめちゃめちゃすごい魔法使い側なのか。

 


 そう考えていると、見えなかった最前線の傭兵が見えるようになってきた。

 人数が減って、押し返せていないせいだ。


 さっきまでも防戦一方だったけど、時間が経つごとにジリジリとラインを下げられている。


 これ、本当に大丈夫なのかな…。



 目に見えて不安が加速するような戦況。

 いくら傭兵だとしても、少数精鋭だとしても、この人数では押し切るには相手の数が多く、1体ずつが強いんだろう。

 戦いのプロが苦戦しているんだし。


 にしても、現実だったらこんな血まみれの戦いなんて見ることないのにな…。

 まるで、グロテスクな映画を観ている気分だ。

 といっても、それよりもヤバいけど。



 …その瞬間、防御ラインの一箇所が完全に崩れ、そこから数体のアンデッドが流れた。

 他の傭兵は、気づいていないか止められる余裕がないか。


 進む方向を見ると、イーファちゃんの方に向かっていた。

 イーファちゃんはさっきから回復に集中しているせいで、アンデッドが近づいていることに気づけていなかった。

 まずい、このままだと彼女が不意打ちを食らってしまう。

 



 なにか考えるという余裕はなかった。

 その前には、俺の足はギルドを抜けて走り出していた。



 

 


 ‐‐‐




 「大丈夫です…すぐに傷は治りますから!」


 突然アンデッドが村に襲撃してきたかと思えば、村の囲いを破壊する勢いで攻め入ってきた。

 傭兵団の人たちは懸命に戦ってくれているけど、前回の比じゃないほどの数で来てるみたいで、戦況は芳しくない。


 私も後衛で回復に専念しないといけないほど、前線の傭兵さんの余裕がまったくない。

 少しの間でも前に出られるなら、範囲魔法で何体かは倒せる自信があるのに。

 ああもう、なんでこのタイミングで団長さんはリスリアに応援なんて出したんだろう。

 あっちは魔法大学校もあるし大きな壁もあるんだから、絶対数人の傭兵出しても変わらないはずなのに…。


 そうこうしているうちにも、負傷者はどんどん増えていく。

 もう3人は治療している。


 私の回復魔法は傷は塞げても、痛みまでは完全に和らげることはできない。

 だから、出血は止められても傭兵さんはすぐに戦いに行けるわけじゃない。


 本当はどこかで区切りをつけて加勢すべきなんだろうけど…。

 そんな余裕作れるわけない。

 ギルドの人たちは、こっちの連携を崩さないためにとか、傭兵のメンツを保つために出るのを押さえてくれているんだろうけれど…本当なら今すぐ声を出して助けて欲しいくらい。

 私が加勢に行けたら…でもヒーリングを扱える魔法使いは私しかいないし…。


 しかも、ヒーリングも長時間使っているせいで、魔力がそろそろ限界を迎えそう。

 他に、他に助けないといけない傭兵さんはいないか。


 振り向くと、そこには剣をおおきく振りかぶっているアンデッドの姿が見えた。

 あ、まずい。

 このままじゃ避けられない。


 魔法…魔法も新しく撃てるほど残ってないや。

 なんだ、加勢…そもそも私も無理だったんだ。


 足が動かない。

 死ぬ前って、時間が遅く感じるってこんなかんじなんだ。



 私は、もう無理だと思って思い切り目をつぶった。




 しばらくしても、私の体に違和感が出ることはなかった。

 なんでだろう、ふと目を開けて上を見上げると、そこにはアンデッドの攻撃を剣で抑えるイツキさんがいた。


 「イツキさん!?」



 「話はあと! すぐその人連れて逃げて!」


 


 「でも…」



 「大丈夫! 戦い方を教えてくれたおかげで、俺だって戦える!だから早く!!」


 「…!」



 私は、その言葉を信じて村の奥に走った。


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