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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.4 - 氷の大賢者 -


 魔法の特訓を続けてはや1週間が経った。

 ここに来てから、もう1ヶ月になる。


 はじめの頃よりかはイメージができるようになったし、まだ安定はしないものの放った風魔法で数m先の木の枝を折れるくらいにはなっていた。

 

 しかし、言っても1週間のクオリティだ。魔力量が少ないのか、使い方がいまいちなのかはわからないが、うまく撃てたと思っても的から逸れてしまったり、過剰に疲労感が見えたりと内容は全ていいとは限らなかった。


 課題点は明確だ、俺は魔力を制御するのがヘタだから、精度を高めたほうがいい。

 …といっても、1週間でこれじゃ何ヶ月かかるんだろうか、ってところではあるけど。


 また、なんとなくだがわかったことがある。

 正確に対象を狙おうとすると、明らかに魔力の消費量が変わる。


 例えば、俺が今練習している風魔法のウィンド。


 正確に狙おうと意識すればするほど、魔法を使ったあとの疲労感が増大していることに気がついた。木の枝を狙った特訓をしているときは、特に顕著に感じる。

 聞いたところによると、俺の魔法の射出方法だと、魔力の分散が激しくムダになっている可能性が高いらしい。


 そもそも魔法の出し方には詠唱や杖を使って、などなど多岐にわたるという。


 俺の場合は剣も扱っているので、高度な魔法は難しいものの、発生速度や適応力に長けている無詠唱での方法を勧められたので、実践している。魔法のイメージを掴むまでに時間が掛かるものの、覚えてしまえば感覚で使える便利な方法だ。


 そして、肝心な俺の魔法の使い方。

 右腕を前に向けて、左手を手首辺りに添える。これは、魔法を打つ時の反動を抑えるためだ。

 打つ瞬間に左足を踏み込んで、右手に意識を集中させる。


 それで、右手が暖まる感じがしたら、それを打つぞという気持ちを最大限込めて、放つ。

 感覚的には野球のピッチャーみたいな感覚だろうか、セットポジションから左足を踏み込んで、右手に握ったボールを投げる。


 この感覚でやると、俺の中ではいい感じになるが、やっぱり魔力が分散して疲れやすくなってしまうらしかった。

 

 

 そんなこんなで悩んでいた俺に、イーファちゃんは一つのミッションを出した。その内容は魔力の制御だ。


 ひたすら魔法を打ち続けることが特訓なのかと思えば、そうではなかった。

 風魔法は特に応用のききやすいものだから、練習としてただ打つだけじゃなくて手以外でも出せるようにするほうがいいと。


 無詠唱式を使う人はだいたい、魔法使用のとき手首を主軸に使用するが、これをし続けることは必ずしもいいとは言えない。魔物の攻撃をよけるために足のあたりに風を発生させて、うまくかわすと言った動作をするだとか、1個のことに集中しすぎない方がいいらしい。



 突然魔法を使用しなければならないとき、手を伸ばして魔法を使うという意識が強いと、一切の応用ができなくなってしまうという。


 特に、魔法剣士の場合は克服しなければならない。常に手がふさがっているも同然、もちろん手なんか使えない。エンチャントという武器にバフをかける魔法を使うならなおさらだという。




 結局、流れを無意識に調節できるくらい慣れれば、応用は自然とできるようになるらしい。




 わからないことだらけで理解しきれていないが、とにかく早く強くならなければいけないんだ。何も考えず、魔法使いさんの言葉を信用して特訓するしかない。


 

 いつものルーティンをこなした後、魔法の特訓をこなす。

 ここに来てからしばらく続けていたから、前よりかは体力はついたと思う。

 ただ、やっぱり運動不足の体には応えるよ、大学のサークルも別に筋トレやるようなやつじゃなかったし、基礎体力がなかった分慣れるのに時間がかかった。



 「…やっぱり、魔法は難しいな。」



 教えてもらった魔法自体は出せるようになったが、問題はそのあとだ。

 そもそも魔素のコントロールを意識できるようにならないと、出力も安定しない。


 今だって何回かやっているが、そよ風程度のときもあれば突風のような感じで出せる時もある。調子によってまちまちと、安定していない。


 イーファちゃんに頼りたいところだけど、今日は夜まで村内警備だと言っていたし、なにより自分は一応大人だ。出来るんだぞっていう…見栄を張りたい。

 

 「…今日は、何か調子が良くないな…」 


 やけに、今日は調子が上がらない。

 魔素の制御もいつもよりできていないし、何より気分が落ち込んでいる感じがする。


 なにか、美味しいものでも食べられたらな…と思う。でも、住み込みさせてもらっている分際で、お金をくださいなんて偉そうなことは言えない。

 そう考えると、将来用に資金もためておかないといけないわけで、特訓だけに精を出しているわけにはいかない。


 「なんか現実見てたらやる気なくなったな…。散歩でもしよう…。」

 


 近くに置いていたコップの水を飲み干す。この世界はやけに冷たい気がする。

 気候の影響か、それとも疲れた体にしみるだけなのかはわからないけど。



‐‐‐‐‐




 ここは、村というには、少し発展している。

 村と名乗っているわりに、建物が少ないわけではない。確かに建物自体は近代的ではなく、木造がほとんどだが、広さ的には小さめの街ぐらいはある印象だ。

 田畑はいくらかあるから、農村と小規模な都市を合わせた…みたいな感じの規模かな。



 ふと、先に目立つ建物があることに気が付いた。 

 ギルドハウスだ。ラノベでもよく見る、冒険者の始まりの場所。酒場も併設されてるみたいだ。

 役所的な役割もこなしてるらしい。

 困ったらここに来ればなんとかなりそうだな。



 ギルドハウスには、図書館も併設されていた。



 「…そうだ、座学も大事だよな。」


 魔法の使い方とかそういう知識的なのを学ぶのも、今後のために必要だろう。

 せっかくなので、図書館に立ち寄ることにした。

 


 ‐‐‐‐‐



 「…結構こじんまりしてるな。」


 ギルド併設の図書館。コノート村の規模からしたらそこまで広くも狭くもないという感じだ。酒場と併設されている一階のスペースを抜けると、図書館に入れる。

 地下の図書館はだいたい高校のそれと同じような規模感だろうか。

 蔵書数自体はそこまで多くない。

 これだったら探しやすいな。


 ジャンルごとに並んでいる本を探す。世界地図だったり、なんか偉いであろう人の伝記なんかもある。本のジャンル自体は現実とあまり変わらない。

 

 少し違うのは、この世界独自のモンスター図鑑や地図があることくらいか。


 魔法の教科書でもないか探していると、並べられている蔵書の中から、ひときわ分厚い本が目に留まった。表紙には、氷の大賢者とだけ書いてある。


 なんとなく、手に取ってめくる。


 内容をまとめると、こうだった。



 少し昔、突如現れた氷の大賢者は、それまで人々の生活を脅かしていた魔王軍を圧倒的な魔法の才を武器に戦い、押し返していった。

 その戦場には他にも3人の仲間がいたといわれており、人々はその集団に敬意を込め、勇者一行と呼ぶことにした。彼らは各地の魔王幹部などを蹴散らし、とうとう平和の訪れかとささやかれ始めて数か月。



 勇者一行は、突然姿を消した。


 前触れもなく。負けたのか否かもわからず。

 大きく数を減らしていた魔族やモンスターは、瞬く間に数を戻した。そして、人々はまた恐怖におびえる生活をすることになった。


 氷の大賢者は、私たちを見捨てた。その一言で締めくくられていた。


 「見捨てた、ね…。」


 一時的とはいえ救ってくれた恩人を書く本にしては、かなり厳しい言葉で締めくくられていた。純粋にそこまでいったら魔王も倒してほしい、そういう意味合いもあっただろう。


 ただ、それだけ魔王という存在が危険な存在であることも、事実なのだろう。恐怖の対象に向けるべき感情を、この大賢者という人にぶつけている。生々しい話だ。


 「…て、メインはこれじゃない。魔法の本探しに来たんだった。」


 手に取っていた本を棚に戻すと、目的のものである魔法関連の棚に目を向けた。

 やはり異世界、魔法に関する本はそろっており、基礎から応用まで揃っている。

 

 一番左にあった魔法学入門という本を手に取り、近くの椅子に腰掛けながらページをめくる。

 この世界の基礎中の基礎から書かれており、いわゆる初等教育向けの教科書みたいな感地だと思う。

 

 まず、魔法の習得方法についての記述。

 習得方法には何個かあると書かれている。ひとつは、神様からの加護によるもの。いわゆる、聖職者辺りが該当するらしい。

 他には、魔道具などの外的要因、才能によるもの、師に教わるなどの努力などが挙げられていた。今の俺に近いのは、師に教わるの部分だ。


 そして、イーファちゃんが行っていた五大魔法についても記述されていた。

 多くは炎、水、風、そして土。

 氷魔法に至っては、全くいないと書かれている。氷使いである者は、多くが選ばれしものであるとも記載されていた。


 「氷使いも選ばれし者だった…てことは、五大魔法といってもこれは相当特別扱いされているのか…。」


 その他にも、主に防御魔法が該当する無属性魔法や、支援や召喚魔法なども記載されていたが、明らかに難しそうだったので流石にスルーした。

 


 「でも、基礎魔法のコツはかなり具体的に書かれてる。これなら俺でも…」


 「あれ、イツキさん?」



 聞き覚えのある声に振り向くと、イーファちゃんがいた。

 気がつけばもう昼時だったらしく、休憩がてら酒場のところでご飯を食べるところだったという。酒場は、昼は酒類なしのごはん屋になるらしい。


 「でも図書館って地下だし…ご飯を食べるなら上じゃ…?」


 「その…今日のイツキさん、すごく悩んでいるような顔をしてたので、リフレッシュの方法でも調べてみようかなって。」


 

 昔からシャイなわりに顔に出るとは言われていたけど、朝のアレに気が付かれていたとは思わなかった。

 彼女なりに、気を使ってくれていたんだろう。


 「私…小さい頃から傭兵団で働いてたので…あんまり娯楽とかの知識がなくて。ここだったら、なにかヒントがあるかな…って。」


 「…そっか。じゃあさ、もしよければ…次の休みの日、一緒に出かけない?」



 そういうと、すこし頬を赤くしたかと思うと、照れたような顔つきで、コクリとうなづいた。

 一瞬、沈黙が流れた。お互い、相手が口を開くのを待っているような気がした。


 すると、後ろの方から若い傭兵の人が現れ、イーファちゃんになにか耳打ちをしていた。イーファちゃんはこっちを見て、少し目をそらしながら離れていった。


…てかよく考えたら、この誘い方って…。



 「やらかした…変な誘い方しちゃったな…。」 


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